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2009年08月22日
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     3 前

 保持が改めて指示された部屋に向うと、既に九十九が中にいた。そして九十九は保持に深く頭を下げた。
「保持、色々迷惑かけたな」
「あ、ううん、大丈夫。僕の方こそ、九十九に助けてもらって……」
「そんなの俺らが勝手に巻き込んだんだ。それぐらい当然だ」
 保持と九十九の間に、なんとも気まずい空気が流れた。
 脱出する時は一杯ゝだったのであまり感じなかったのだが、改めて考えると今までの友達という関係でいいのかどうか、その距離感に困ったからだ。
 保持自身は九十九を今でも親友だと思っているが、その関係が僅かではあるが揺らぐような出来事があったのだ。
それは数時間前、沙理菜を加えた三人でアルバールの戦艦ウッズから逃亡をはかった時にさかのぼる。



 体面的には救出した沙理菜と二人で、恩人である九十九を脅し救命艇を強奪したまでは良かったのだが、どこに向かえばいいか分からない。闇雲に向かっても燃料を浪費するだけだし、どうやらメビルスは隠密航行を得意と知る戦艦らしいので、普通の手段では居場所を探し出す事は難しい。
 まだ月の裏にいる――という可能性もあるが、まさかアルバール軍人であるはずの九十九が救出するとは予想しているはずないので、この付近に潜伏して救出の機会を窺っているはずだ。となれば無論救命艇が射出された事にも気付いているだろうが、それが罠ということもある限り、うかつな接触をするとは考えられない。
しかし向こうからコンタクトを取ってくれなければ、こちらからはメビルスの居場所が分からないのでどうすることも出来ない。かといって派手に遭難信号を垂れ流せば、折角逃げ出してきたアルバール軍にまでこちらの状況を知らせることになる。
ウッズの方でもこちらの位置を把握しているだろうが、遭難信号を出せば、こちらがメビルスの居場所を知らない事を知らせることになる。それを逆手に取ることも出来るだろうが、メビルスの出方がわからない以上、うかつな方法は取れない。
 しかしそういう場合の為に、暗号秘匿通信用のコードが決められているらしく、それを送受信できるように、救命艇にメビルスの認識番号と使用する周波数を打ち込む必要があったのだ。
「いやぁ、姫さんがメビルスの認識コード覚えてくれて助かったよ」
「……だから姫さんはやめてって。これ以上言うと後で怖いわよ?」
「おぉ、こわ。保持もそう思うだろ?」
「え? あ、いや……」
 保持が返答に困っていると、沙理菜が慌てて自身の言葉をフォローした。
「こ、言葉のあやじゃない! 本当にやるわけないでしょ! それよりも、説明してくれるのでしょ?」

「学校にいた時から、あなたがアルバールの人間だということは分かっていたわ。その辺を含めて説明して頂戴」
「あぁ、そういうことね。俺はアルバール宇宙軍諜報部所属、ツクモ・ベルソード軍曹」
 そう自己紹介した九十九を沙理菜が冷ややかな目で見据えた。
「……言い直すなら今のうちよ?」
「ほへ? 何のこと?」

「だったら、州上も同じだろ? アルバール軍の高性能最新鋭AGW-3ワルキューレ型三番機、オルトリンデと拮抗するほどの守護獣と契約しているのはな~んでだ?」
「そ、それは……」
 沙理菜のアイリーンと、九十九のオルトリンデ、何気なくそんなものだと受け止めていた保持だったが、実際は一筋縄ではいかない代物だったらしい。
「お互い、言うに言えない事がある限り、相手を詮索する事はやめようさ」
「……正論だけど、主導権がどっちにあるかわかっている?」
「どちらかというと俺? 二対一でさ」
「た、棚加君はむしろこっち側じゃないの?」
「たしかに先に保持を連れ出したのはサンクロバだ。しかし州上は保持を地球に帰そうとしてアルバールに捕まった。そして俺は保持を助けた。ついでに州上も。まぁ、州上はほぼ自力で脱出していたけどな。ま、そんなこんなで、三人でこの船を奪ってメビルスに向かっている。この状況を考えるとどうだ?」
(……えっと、どうなるんだろう?)
 少なくとも保持には理解できなかったが、沙理菜には何か思うところがあったようだ。
「……でも……」
「まぁ、この際、軍のしがらみは忘れようじゃないか。そうしたら、俺は保持の親友、州上はただのクラスメート。ほらな。保持は俺側だ!」
「そんなことを言ったら……」
「言ったら?」
「……なんでもない!」
 拗ねたように顔を背ける彼女は――やっぱり可愛かった。一度は諦めた恋心が、保持の心の中で再び蠢き出そうとしている。
 正直に言ってしまえば、こんなにかわいい娘をそう簡単には諦めきれない。彼女を知れば知るほど、惹かれていく自分にも気付いている。
「じゃ、異論はないな……おっと、怖い顔するなよ。話すよ。話しますよ!」
「だったら最初からしゃべればいいのに」
「まったく……先に言っておくけど、俺はアルバール軍を裏切って脱走しているわけじゃないんだからな。今も正規の任務中だ。その事に関する守秘義務に抵触するような事は言えないぞ」
「いいから話しなさいよ」
「はいはい。まず、俺が地球にいたのは、誰かさんみたいに保持を自国に引き込む為じゃない」
 九十九はそう強く断言してから、態度を少し緩めた。
「ん、まぁ……表向きの命令というか、名目はそうなってはいるけどさ……本当は違う。その辺は分かってくれ」
「……その誰かさん、って私のこと?」
「違うのか?」
「……」
 余程それが後ろめたいのか、沙理菜はそのまま黙り込んでしまった。
「俺が受けた保持がらみの任務は、監視。あ、いや保持の、じゃなく、保持に接触する勢力への監視と情報操作。場合によっては妨害工作、ってところだな」
「なんでまた……」
 なぜわざわざそんな事をしていたのか? それは保持も疑問に思っていた。しかしそれを問う言葉が浮かばない。
「州上、お前は保持の事を聞かされているか? なんで保持なのか? という事を」
「……いいえ、ただ何か特別な存在になりえる、という事ぐらいにしか……」
「そうか。実際、アルバールもサンクロバも、保持の実態? 保持の存在が一体どういった意味を持っているのか、その辺を掴み切れていないからな」
「あの、質問」
「はい、保持君」
「あ、えっと、だったら、なんで僕が……上手く言えないけど、なんで僕が連れてこられたのか分からないんだったら、そもそもなんで僕が選ばれたの? ネリュートさんに聞いてもなんだかはぐらかされる一方で」
「まぁ、しょうがないわな。地球じゃ……」
「えぇ、真実を伝えても逆に信用されないでしょうから。むしろ何も言わないほうが説得力あるかも」
「だな」
 二人には分かっているが、保持にはわからない事が明確に存在している。それが少なからず疎外感となって、保持を不安にさせる。
「あの、そういう言い方されると、非常に気になるのですが……」
「まぁ、伝えても支障ないだろ。事実だし」
「えぇ。その事については、さほど重要じゃないし」
 双方合意というこの状況が、保持を少しだけ苛付かせた。なまじ美少年と美少女で絵になるだけに、劣等感を抱える保持には嫉妬を覚えるのだ。
「あのな、保持という存在が選び出されたのは」
「選び出されたのは?」
「占いの結果だ」





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最終更新日  2009年08月23日 20時53分37秒
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