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2009年08月22日
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     5

「ここが更衣室で、このまままっすぐ行った所が浴場ね。そしてその隣が洗濯場。下着なんかはそこに干してあるから」
「……あのぅ、案内していただけるのはありがたいのですが、さっきから……その……“そういう”場所ばかりのような……」
「え? 必要でしょ?」
「必要ないです!」
「またまた~」
「もういいです。好きなように思ってください!」
「あぁ~ん 拗ねちゃイヤイヤ」
 ネリュートの容姿からいえば、その手のブリッコはあまり似合っていないと言うしかない。決して見苦しいからではなく、彼女がクール系の美女だからだ。ギャップという面では魅力的ではあるが、ウブな保持には対応に困る。

「はぁ……って愛玩系って何ですか? 愛玩系って……」
「そ・れ・は、保持君のことよん。この、この、愛いやつ愛いやつ」
「やーめーてください」
「保持殿、抵抗すればするだけ、司令の思うつぼですよ」
「あら、ナーシャ。どうしたの?」
「どうしたのじゃありません! 司令がなかなかいらっしゃらないから……と、これは失礼。お初にお目にかかりますね。私はこの艦の艦長、ナーシャ・ソロヌです。よろしくお願いしますね。保持殿」
 今度こそ冷静沈着なクール美女ナーシャが保持に頭を上げた。保持も慌てて頭を何度も下げて答えた。
「あ、はい。棚加保持です。よ、よろしくお願いします。って司令?」
「ゴメンゴメン。説明してなかったわよね」
「まったく、司令は……」
「もう、いいじゃない。損些細な事……そんなカリカリしていると、しわが増えるわよ?」

「あ~ん ナーシャがいじめるぅ~~」
 保持に抱きつこうとしたネリュートをナーシャが阻止し、なにやらアイコンタクトで会話を交わしたのか、ネリュートは姿勢を正し「コホン」咳払いをした。
「えっと、私がこのメビルスの所属する第一艦隊の司令官さんです。そうだ。お風呂は混浴と男女兼用と選べるけど、どっちがいい?」
「それって、どっちも同じじゃ……」
保持は話題のすり替えの必要性を痛感し、慌ててネリュートの話の腰を折った。

「あぁ、地上から見えないように迷彩かけていたの。待機中の艦の場所さえ分かっていれば、分かったでしょ?」
 ネリュートの言う迷彩とは、俗に言う光学迷彩というモノで、何も知らなければ何の変哲も無い空と、そこを流れる雲しか見えなかった。そしてこの船には地球で使うレーダーを完全無効化する装甲を使用しているらしい。そうでなければ、非干渉惑星になど来る事が許されまい。
「でもこの迷彩は、移動しながらだと使えないから、完全にじっと隠れる為だけの機能ね」
 話は完全に反れた、保持はそう確信した。
「で、お風呂は混浴と男女兼用とどっちがいい?」
 どうやら話の腰を折るのに失敗したようだ。かくなるうえは――と保持は先手必勝の心で攻勢に出た。
「男子専用でお願いします」
「そう、しょうがないわね。じゃ、男子専用、女子も可って方向で……」
「ご安心下さい保持殿。ちゃんと男子専用女子禁制の浴室を用意してあります」
「そんなのつまんなーい! ナーシャのいじわるぅ~」
「つまらないとかそういうことじゃなくて、その、は、裸とか見られて恥ずかしくないんですか?」
「保持君さ、女の子ってものは、見られるうちが華なわけよ? わかる? それに、見られても減るわけでなし、困るわけでなし」
「司令……一応困ったフリぐらいはしてください」
「イヤ~ン 保持クンの、ス・ケ・ベ って?」
 明らかに逆効果であるばかりか、全く困った様子が伝わってこない。
「……まぁ、最初から期待はしていませんが……それに指令は女の子って年じゃ……」
「女は何歳になっても女の子なんだい! 何さ私より年取っているくせにさ!」
「……そうですね。私は司令よりも三日ほど年長ですね。それが何か?」
「……な、何でもありません……」
 ナーシャの睨みに臆したのか、ネリュートはシュンと大人しくなった。
「形式としては、保持殿は現地徴用された兵士、ということになりますが、異例であるので本国での正式な任命があるまでは、二等客兵という形になります。異論はありませんか?」
「異論というわけではないのですが、客兵というのは?」
「あぁ、臨時の階級と判断下さい。二等客兵には暫定的に曹長級の権限が与えられます」
 といわれても曹長がどこまでに権限があるのかとか、どれくらいの自由があるのかなど、全くといってもいいぐらいに分からない。ただ一つ確かな事は、一番下っ端ではないという事だ。
「とりあえず、この部屋を使ってください」
 ナーシャが手をかざしドアを開けた部屋は、お世辞にも広いとはいえなかった。二畳半ほどの部屋にベットと机があるだけの質素な部屋だ。
 しかし少なくとも、五木荘の部屋よりもはるかに綺麗であるとことは間違いない。
「保持ちゃん、右手を貸して」
 といいつつ、半ば強引に保持の腕を取ったネリュートは保持に銀色の腕輪をはめ込んだ。
「あ、あのこれは……」
「私と保持君との結婚腕輪」
「え? えぇッ?」
「保持殿……司令の悪ふざけです。この腕輪は各種補助機能の端末です」
「そそ。部屋の機能もこの端末で制御するから、なくさないでね。だ・か・ら、お風呂に入ったり、更衣室を覗いたりするときも、外さないほうがいいわね」
 覗く時になんで外す必要が無いのか謎だが、とりあえず否定しておかないと、絶対何か言われるだろう。
「覗きなんかしません!」
「なんだつまんな~い。男の子ってホラ、色々悶々とする時ってあるんでしょ? えっと、何て言ったかかしら? ゴハン? ソウザイ……? あぁ、そうそうオカ……」
「司令……あえて今まで黙っていましたが、あまり隊の風紀を乱すような言動は控えたほうがよろしいかと」
「いいじゃない、いいじゃない! 私は緊張してかたくなっている保持君を……わっ! 硬く緊張だって! いやぁ~ん 何か卑猥ね」
「……あまり調子に乗っておられますと、司令の品位が疑われますよ」
「え? 保持君私の事を軽蔑した? していないわよね?」
「あ、えっと……あの……」
「ほら、ナーシャ、保持君は軽蔑していないって。むしろ素敵なお姉様だって」
「司令、この場合はふつう逆の意味で捉えるものです。そして素敵なお姉様だなどと、一言も言っていません」
「きっと恥ずかしがっていたのよ」
「どういう原理でそうなるんですか……」
 ネリュートとナーシャの漫才は、まだまだ続きそうだ。
「あの、とりあえず、これの使い方を……」

     ◆

「この腕輪には、自動防衛機構と呼ばれる防御機能もついていますので、無くさないようにしてくださいね」
 ネリュートに任せておくと、一向に話が進まない。ナーシャはようやく悟ったのか、上官を無視する形で、保持に指輪の説明を始めた。
「我が国はこの手の技術ではアルバールに一歩遅れていますが、戦闘用としても問題はないでしょう」
「……そうですか」
 保持が落胆したのは“そういう状況になりえる”ということだった。覚悟が決まる前にこの場所に居るので保持は今まであまり実感がなかったのだ。
「脈拍や筋肉の僅かな変化もこの腕輪が計測しまして、自動的に防御機能が働きます。ですが、使用できるのは基点、当面はこのメビルスの援護範囲内に限られます。物質転送の応用で守護機械を送り込みますので。それはここの認識灯で確認できます。緑が使用可能状態で、赤が使用不可です」
「つまりこういうこと」
 保持の視界が白閃した。
 ネリュートが懐から懐中電灯のようなものを取り出すと、そこから光の刃が現れそれが保持に放たれたのだ。
 しかしそれは保持の直前で受け止められた。
 ――そう、受け止められたのだ。
 髪をツインテールにし、真っ白のゴスロリを着た同年代の少女――彼女がネリュートの放った光剣を素手で受けとめている。
そして保持は彼女を知っていた。
「たー君をいじめちゃダメ!」
 二人は睨み合ったまま動かない。数秒後ネリュートが刃を収め、二人は緊張を解いて離れた。
「おかしいわね……私こんな設定してないんだけど……保持君が設定を変え――られるわけがないし、ナーシャだったらこんな設定にするわけがないわよね」
「私なら通常設定の機鋼兵状態にします」
「だよね~。だったらなんで?」
 ネリュート達にはネリュート達なりの疑問があるようだったが、保持にも保持の疑問がある。
「えっと、アイちゃん……? なんで……」
「あれ? 保持君のお知り合い? だったら保持君の嗜好を自動的に具現化? いえ、ありえない。そんな技術はまだないわ。でも私が知らないだけ? いいえ、そんなこともあるはずがない。たとえあったとしてもどうやって? 原理は?」
 頭を抱える勢いで考え込み始めたネリュートを無視し、アイちゃんは保持にいつものように微笑みかけてきた。
「たー君、せっかくこうして直接会えたのだから、深いこと考えちゃダメよ」
「で、でも……アイちゃんは僕の夢……」
「たー君、世の中……いいえ、この宇宙には、謎が数多く存在するものなの。そしてその不思議を形にするウラワザがあるものなのよ」
 遠い目でそうはぐらかされ、保持はこれ以上聞けずにいた。
「なるほど。女は謎を抱えていた方が魅力的って事ね」
「そうですわ。ネリュート閣下」
「えっと、アイちゃんさん?」
「アイ・チャンではなく、アイですわ」
 ネリュートなりのボケだったのだろうが、アイちゃんは真面目に答えた。しかしそれすらアイちゃんなりのジョークなのかもしれないが、それを推察する余裕など保持には無い。
「ではアイさん、あなたは一体何?」
「おかしな質問ですね。私は自動防衛機構の擬似人格。失礼ですが、あなたの設定した“ご自分”に良く似た、半裸のエロエロ人格は消去させていただきました。あのようなたー君の精神衛生に悪影響を与えるようなものは許可できません」
 アイちゃんの言葉に、ナーシャがネリュートを睨んでいる。
「あ、あれ? あれれ? おかしいなぁ? ワタシ ソンナ セッテイ シテナイヨ~」
「司令……その事については後から言及させていただきます。アイさんと仰いましたね? あなたは擬似人格で間違いないのですね?」
「その通りですわ。ナーシャ艦長」
「擬似人格にしてはその人格設定の遊び……擬似人格設定の自由度に不確定要素が多々見受けられます。こんな司令ですが、これでも情報収集にかけてはサンクロバ一、いえ宇宙でも屈指の情報を握っておられます。その司令も知らないというあなたは一体誰ですか?」
「ちょっと~“こんな”って何よぉ! ……でも、ナーシャの言う通りなの。あなたは誰? いえ、何?」
「ですから、私はアイ。棚加保持君を護る自動防衛機構。……それでは不服ですか?」
 沈黙。やがてネリュートが諦めるように肩をすぼませた。
「分かったわ」
「し、司令っ!」
「そこまで宣言するのなら、今は追及しないことにするわ。その代わり……」
「えぇ。私の役目はしっかり果させて頂きますわ。じゃ、そういうことなんでね、たー君、よろしくね」





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最終更新日  2009年08月23日 20時55分22秒
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