『サウスバウンド』
著:奥田英朗
小学校6年生になった僕の名前は二郎。
長男なのに二郎で、父の名前は一郎。
誰が聞いても「変わってる」と言う。
父が会社員だったことはない。
物心ついた時から、たいてい家にいる。
父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって、
他の家はそうではないらしいことを知った。
父はどうやら国が嫌いらしい。
昔、過激派とかいうのをやっていて、税金なんか払わない、
無理して学校に行く必要などないとかよく言っている。
修学旅行の積立金がなんでこんなに高いのかと先生とひと悶着し、
税金なんか納める必要ないと、国税庁の職員とケンカし、
言うことなすこと、過激な父。
実はその昔、過激派の闘士だったらしいけれど、
小学6年生の二郎にとっては、そんなことはどうでもよくって。
普通の家の父親みたく、ちゃんと働きにいくわけでもなく、
ずっと家にいて、一体何をやっているのやら。
ことにこの年頃は、「みんなと同じ」であることが何よりも重要なのに、
うちのオヤジは普通じゃないという、致命傷。
普通の小学生でいたい二郎は、そんな父親に振り回されっぱなし。
そんな父の行動にも信念があると理解するには、まだ幼すぎ。
頼みの綱の母親も、そんな父親を困った風に思いながらも、
どことなく諦めている風。
同級生に絡まれたり、中学生に目をつけられたりと、
小学6年生ながらにも忙しい毎日を送っているのに、
何かにつけて騒動を持ち上げる父親がいるのだから、
たまったもんじゃない。
だけど、この一筋縄ではいかない破天荒な父親を、
なんだかんだいいつつも超えられないと認めている二郎。
さっさと独立しちゃった年の離れた姉を羨ましく思いながらも、
小学生なんだから親に従うしかないと、思っているのだけれど。
子供の世界では、大人なんて無力だと悟っている子供たち。
東京の下町で、ケンカやカツアゲに負けじと生きてきた二郎だが、
父親がとんでもない事件に巻き込まれ、家を追い出されてしまう。
そして越してきた西表島では、電気もない、水道もない。
島の人々の度を越すお節介に戸惑いつつも、
なんとか生活を始める二郎一家。
東京では、日がな一日ゴロゴロしている姿しか見たことないのに、
耕運機まで操って畑仕事に精を出す姿に、父親を見直す二郎。
しかしここでもまた父親は、とんでもない事件を引き起こす。
元過激派の過激な父という設定も、西表島での生活も、
あり得なそうであり得そうな、ファンタジーのようなんだけども、
妙にリアルで。
向こう見ずな父親との丁々発止の日常もさることながら、
小学6年生の二郎の目線で描かれる下町や南の島での生活が、
とてもいきいきと、匂いまで伴ってきそうなぐらい。
普通だと思っていた母親が、有名な呉服屋の娘だと知ったり、
「御茶ノ水のジャンヌ・ダルク」と呼ばれていた過去を知ったり、
目まぐるしく変わっていく生活の中で、普通の小学6年生じゃ、
とても体験できないようなことを経験し、たくましく生きる二郎。
自分の家と他の家とのズレを感じ、他の大人と自分の父親との、
考えのズレを感じ。
でもズレている、ということは、決して悪いことじゃない。
その父の信念とやらを理解するのには、
まだちょっと時間が必要だろうけれども。
事なかれ主義がまかり通っている今の日本では、
二郎の父親のように、自分の信念をしっかりと持ち、
それに従って生きている人間はある意味、羨ましい。
でも実際、そういう人間が身近にいたら、困るだけだろうけれど。
豊川悦司が父親役で映画化されているらしいけれど、
ピッタリだ(笑)。
【参考】
Yahoo!ブックス 奥田英朗インタビュー
映画『サウスバウンド』公式サイト
◆奥田英朗の著書は→
メイキング・オブ・マッドマックス 怒り… 2015.07.24
『家族の言い訳』 著:森浩美 2015.02.07
『あなたに褒められたくて』 著:高倉健 2015.02.05
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