『弥勒の月』
「おれは、退屈してたんだ」
吹きつける風に乗って、信次郎の呟きが聞こえた。
風の向きが逆なら聞き取れなかったかもしれない。
「親父のように生きて、死んでいくのかと思うと退屈で堪らなかったんだよ」
闇深き世界に漂う憐憫の情が胸を打つ。
小間物問屋「遠野屋」の新妻の溺死体が見つかった。
平凡な世にいらつく、若き異能の同心・信次郎は、妻の遺体を前にしても、
冷静な遠野屋の主人に違和感を覚える。
─面白えじゃねえか。
信次郎は食らいつくことを決意する。
彼の常軌を逸した捜査線上に浮かび上がる真実とは?
なんともイキな時代小説。
同心・信次郎と遠野屋の若旦那の、異能の男たちの静かなやりあいに、
密かに息を呑む。
すぐにカっとなる性質の信次郎だが、その心のうちには冷たい物が潜んでいることを、
岡引の親分は感じている。
親分の鋭い嗅覚は、新妻を無残な形で亡くしたばかりというのに冷静な遠野屋にも、
信次郎と同じものを嗅ぎつける。
江戸の生活や時代背景も面白く、庶民の下町生活も生き生きと描かれているのが、
とても興味深い。
江戸時代のイキな男たちに心奪われた一冊。
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