『f植物園の巣穴』
歯痛に悩む植物園の園丁がある日、椋の木の巣穴に落ちると、
そこは異界だった。
前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、
愛嬌のあるカエル小僧、幼きころ漢籍を習った儒者、
そしてアイルランドの治水神と大気都比売神。
人と動物が語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、
私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。
埋もれた記憶を掘り起こす、会心の異界譚。
とても不思議な物語。
舞台は今より少し前の、人と動物と植物が仲良く語り合えている時代。
植物園に勤める主人公は、幼い頃住んでいた家の前に植わっていた、
椋の洞穴に落ちてしまう。
そこから這い出した記憶もないまま日常生活に戻ると、
世界は少し、違っていた。
大家は鶏頭に、実家の前に流れていた川に棲む鯉は立ち上がり、
緑色に澱む沼に棲んでいるらしきカエルのような子供に導かれ、
子供の頃の体ってしまった主人公は、何かを探している。
子供時代のねえやの千代、妻の千代、レストランの女給の千代。
どの千代を探しているのか…。
ゆったりと流れる時間の中で、たくさんの植物と思い出に囲まれて、
カエル少年との邂逅の意味を悟り、主人公は今の世界に戻ってくる。
探していた千代を見つけた主人公は、今の世界にしっかりと根を下ろし、
豊かな人生を歩み始める。
主人公が手がけた植物園の沼の、緩やかに流されるかのようでいて、
しっかりと繁らせる水生植物たちのように。
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