2010年06月06日
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カテゴリ: Space-Tracks
「それ」は隣に立つオペラハウスに隠れるかのように、ひっそりと立っていた。
近づくと、急に思い出したかのように「グィーン」と音を立ててエスカレーターは動き出した。

入場は無料。
国営ペトロナス石油の恩恵か、この国は文化施設が無料であることが多い。
でも人の入り具合を見るに、それは文化を振興していると言うよりは、
アートの価値を逆に下げているようにも見えた。

1階はモダンアート。
Mix Mediaをテーマに、形態を変えた様々な試みが並んでいた。
部屋の中で監視員の着メロ遊びが鳴り響き、全く集中できなかったが

それなりに考えながら作られているようだった。

2Fは絵画中心の陳列。
特に印象に残ったのは、「Nanyang Coffeeでくつろぐ老人の肖像」。(勝手に命名)
もし見たこともない、聞いたこともない、想像さえ出来ないものを芸術として目の前にしても、
きっと何の反応もできないだろう。
でも老人の肖像には、この国のどこかで見たような光景が、
しかもNanyang(南洋)という聞き覚えのある名前が、
ジブンにこの作品を受け入れてよい、という許可を出しているように思えた。

3Fは特別展示を行っていた。
ご多分に漏れず、テーマは「1Malaysia」
アメリカに負けないほどに多民族国家を成立させているこの国の命題は、


幅5m, 高さは3mはある大きな一枚のキャンバスに、
鳥獣戯画よろしく、漫画タッチの小鳥があふれかえり、
各々が「マレーシア特有の何か」をしていた。

テ・タレ(マレー式紅茶)を淹れていたり、サテー(焼き鳥)を焼いていたり。
左上では東海岸で目にしたことのある、マレー衣装に身を包んだ結婚式のシーンを描かれ、

マレー風の凧と独楽で遊ぶ小鳥たちが見える。
その右では、2匹の小鳥が国民スポーツ・バドミントンに汗を流していた。
右の空彼方にはマレーシア初の宇宙飛行士を祝福するかのように
宇宙服に着込んだ小鳥が描かれ、その空の先にはイスラムの象徴である三日月があった。
1枚のキャンバスに多様なマレーシアを丸ごと入れ込もうとする試みであった。

これがアートとしてどのような価値を持つかは置いておいて、
改めて心を動かしたことがある。

そこに描かれているシーンが、何だかわかるということだった。
それは老人の肖像を観た時に感じた感覚と似ていた。
画家でも評論家でもないジブンが今こうしてここにいるのは、
コトバ以外の方法で
この世界と何かしらの接点を持とうとしていたから、に他ならない。

「いつかやって来る、この国から出て行くとき」を想像してみた。
一匹一匹の小鳥を見ていたら、それが一つ一つの思い出にも思えた。
一匹一匹の仕草がリアルなシーンとつながっている。
きっと泣くんだろうな、漠然とそう思った。

昔、誰かに言ったことがある。
「この国じゃ、美術館さえほとんど見かけないんですよねえ。」
限られた情報ソースと、序盤に作ってしまったネガティブな先入観で
導き出してしまっていた嘘を今、詫びたいと思った。

美術館を見かけなかったわけじゃない。
そういう気持ちを持ちあわせていなかっただけだったのだ。





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最終更新日  2010年06月07日 00時57分53秒
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