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December 10, 2005
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カテゴリ: 読書
冬至に向かうこの季節、日が落ちるのは早い。
新幹線が東京駅を離れた時には、既に暗くなり始めていた。

鞄から本を取り出す。
三分の一程度読み進んだろうか。重松清『トワイライト』。
黄昏時にこの本を読む、ということに苦笑してしまう。

トワイライト



主人公たちは小学校の同級生だ。
「ふるさと」という言葉に違和感を覚える、ニュータウンで育った世代。
2001年現在、40歳を前にして、それぞれの岐路に立たされている。

かっての栄光。容赦ない現実。それぞれの「家庭」。
抱えて、背負って、嫌悪して、嫌われて、見栄を張って。

そんな顔ぶれが「タイムカプセル」開封を機に顔をあわせる。
ジャイアン、のび太、しずかちゃん、そんなあだ名が懐かしい。

その中に入っていた、当時40歳だった先生からの手紙が問いかける。
「あなたたちは今、幸せですか?」と。




私の「故郷」も、一種のニュータウンだ。

神戸や明石、姫路のベッドタウンで、いわゆる「田舎」の自然環境なんてない。

同世代の人間が集まっているだけに、一様に高齢化が進み、私も含めて若者は街を出て行く。
いや、現役を引退した人達も、家を売って、終の棲家を探して越していく。

作中のニュータウンの不気味な静けさは、私の「故郷」の将来像でもある。

電車がトンネルを抜けた。町並みが開ける。

それぞれの個性的な生活があるはずなのに、それを何かに押し込めるような、画一的な造りの住宅地。
そう、ここも「ニュータウン」。親の世代が見た夢、私たちが生きた現実が、夕日を背景に静かに佇む。



「あなたたちは今、幸せですか?」
それは意味深な問いかけだった。

恋の意味、人を愛するということ。
小学生には投げられなかった問い。

40を前に岐路に立つ主人公達にとって、切実な問い。

人が人を好きになるという、当たり前の事が、人を傷付けることもある。

小学生の時、お互いそうと知らずに、のび太としずかちゃんは想思想愛だった。
でも、だからといって、30年後の今、何が起こるはずもなく、起こらないと知っているから、甘い感傷に浸れるのだ。




小学生の頃に好きだった人の名前を、「サンデー毎日」の合格者欄で見かけた。
(まだ合格者名が公表される時代だったのだ。)

彼女は関西の国立大学に現役で合格していた。


成人式は地元に帰ったから、もしかすると顔くらいは見たのかもしれないが、「会った」記憶がない。
いや、会っていたとしても、何も話すことなんてなかったろう。きっと、綺麗になってたのだろうけれど。
今、彼女がどこで何をしているのか、私は知らない。

顔を上げると、窓に映る自分と目が合った。
なぜかしら気恥ずかしくなって目を本に戻した。


だが、それぞれの現実が、ジャイアンを、しずかちゃんを、そしてのび太を昔のままにはさせてくれない。

久々の出会いが、新しい人間関係を創る。
仲が良くなかったからこそ、頼めること。
憧れていたからこそ、近づけない相手。

その人間関係に色を添える子供の存在。

覚えている、思い出す、ということの意味。
夢みたはずの未来。現実とのギャップ。

かって見たはずの夢を確かめるために。
大阪へ、太陽の塔へと向かうのび太。




印象的に登場する「太陽の塔」。

2005年、岡本太郎さんの伝道師だった、岡本敏子さんが亡くなられた。
岡本敏子さんにとって「太陽の塔」の意味するものは何だったのだろう。

「世界遺産に指定しようと動いてくれている人達がいるの」と嬉しげに語っていた敏子さんに、聞いておけば良かったと思う。
敏子さんにとっては、太陽の塔だから特別、ということはないだろう、という気がして、聞けなかった。

そう、だから、私が聞きそこねたのは、この質問だろう。
「敏子さんが、一番好きな作品って、どれですか?」

そして、きっと、敏子さんはこう答えるのだろう。
「どの作品も好きにきまっているでしょう!一つなんて選べるわけないじゃない!」



紆余曲折の事件を経て、新しいタイムカプセルを埋めるために、再び集まる仲間。
のび太として、ジャイアンとして、しずかちゃんとして、何かを隠しながらも、何かを演じながらも、新しいスタート地点に立つ顔ぶれ。
10年後の再会を約して。

ひと夏の思い出はこうして終わりを告げる。

閉じた物語が問いかける。
「あなたがタイムカプセルに入れたいものは何ですか?」




読み終わって顔を上げると、日はとうに落ちていた。
窓に映る自分の顔。その奥に見える街の灯。
アナウンスが名古屋到着が近いことを告げていた。

我が「ニュータウン」まではあと2時間。
もうすぐ、祖父母の、両親の顔を見ることが出来る。

私がタイムカプセルに入れたいもの。

祖父母/両親の写真と、10年後の私に向けたそれぞれからのメッセージ。
友人の写真と、彼ら彼女らに対して、私自身が書いたコメント。
そして…自分への手紙。最後の質問はこうだ。

「夢は叶いましたか?夢を叶えるためにどんな努力をしましたか?」

10年後、その手紙に胸を張って「YES」と答えるために。






トワイライト

作品:『トワイライト』
作者:重松清
出版:文春文庫
2005.12/10 第1刷

★★★★★





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Last updated  February 11, 2006 12:02:17 AM
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RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
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