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May 26, 2007
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カテゴリ: 映画
(幕が上がり、出囃が聞こえ、男が舞台上に出て来る。
銀鼠の着物に、白っぽい帯、紗の羽織。札には「mrtk」とある。
本職の落語家ではないようだが、喋るのが好きそうな顔である。
スッと席に座り、扇子を前に置いて、深々と一礼。)

(一呼吸おいて、客席を見廻し、おもむろに口を開く。)



これが大事なわけでございます。

お客様がいなけりゃ、こりゃ、ただのひとり言だ。
しかも、五月蝿い ひとり言でございますよ。
一人で何役もやるわけですから。

電車の中でやったりしちゃ、大変も大変。
「そりゃ何だ熊さん」なんて、こいつ誰と喋ってんだ、ってことになっちまう。

ま、近頃じゃ携帯なんてありますからね。
電車の中で、一人言を喋っても、目立ちゃしないかも知れませんが、
いやしかし、それはそれで、おかしな世の中でございます。

さて、そんなおかしな世の中に、落語の、しかも一本気に、
古典をやろうなんて奇特なやつがおりましてね。

(羽織を、するりと脱ぎながら)

二ツ目に上がったものの、どうにも、うだつの上がらないこの男、
今昔亭三ツ葉という名前で、ございます。


(ゆっくりとした一礼と共に、頭を下げた格好のまま、セリで下がっていく。
同時に後ろの幕が左右に開いて、真白なスクリーンが見えてくる…)


=====
原作で「坊ちゃん」の徒名を持つ 今昔亭三ツ葉 は、気っ風の良い江戸っ子。

口は悪いが、真摯で、真っ直で、憎めない、
このキャラクターを熱演するのは、 国分太一 さん。

正直、和服姿がしっくりきてないのですが(笑)、
それが逆に、初々しさを失わない二ツ目、という役柄にハマっていて、
とても爽やか。

しゃべれども2




物語は、彼がひょんな事から、「話し方教室」として
落語を教えることになる所から始まります。

生徒となるのは…

美人だけど無愛想な“黒猫” 十河五月 役に、 香里奈 さん。

大阪弁で口は立つものの、クラスで浮いてしまう子供 村林優 役に、 森永悠希 君。

日頃の口は悪いのに、野球解説になると黙ってしまう、
凄みある元プロ野球選手、 湯河原太一 松重豊 さん。

-----
さらに、三ツ葉の師匠役に、 伊東四朗 さん、
三ツ葉の祖母役に、 八千草薫
と、べテランが顔を揃え、
東京の「懐しい」風景が彩りを加えます。

しゃべれども1


=====
しゃべれども しゃべれども 』の題名通り、
「上手く思いを伝えられない」それぞれの奮闘を描いた、
心温まる作品。

自分自身に迷いながらも、人を教えることで変わってゆく
(成長していく、とは少し違う)主人公。

口に出さないながらも、その人柄に好意を寄せ、
自分も変わろうとする、世代も性別も違う「生徒」達。

-----
監督は言います。

"上手くなる"物語の構造にはしたくなかった 」と。
"上手くなる"ことが映画の到達点じゃない 」とも。
誰しも、調子の良い時と悪い時がある、
男女の仲でも"ちょっといい付き合い"の度合いが増えた減った、
という程度のものだ、と。
  (映画パンフレットインタビューより)

-----
人生は常にアウフハーベン、とはいきません。

七転八起。傷ついて、立ち上がって、落ち込んで、それでも日々は続いてく。
知らず気付かず、同じようなミスを繰り返して、それに気付いて落ち込んで。

この映画の居心地の良さは、登場人物のそれぞれが、
「他人に責任を押し付け」ず、自分の問題として、
「何か」を変えようとしている真面目さ、にあるんだ、と私は思います。

=====
この映画で、披露される落語は、
饅頭こわい 』に『 火焔太鼓 』。
どちらも、名作中の名作です。

-----
伊東四朗 さんの「演技」もすごいですが、
何より、 国分 さんの「演技」が絶品。

「師匠の真似でしかない」レベルから「練習」の風景、
「舞台で化ける」所まで演じ分けてしまうのですから、怖い。

-----
香里奈 さんの、平板な落語も、役柄にハマっていて上手いですし、
森永 君の、「可愛い」落語も必笑です。

-----
そして、忘れてならないのが 八千草 さん。

掃除をしながら、聞き覚えの『饅頭こわい』を暗誦して、
ふふ。私の方が上手い。
と呟くシーンがあるのですが、これが、本当に上手い。

落語自体も上手くて、聞き惚れしてしまうのですが、
セリフを言った後のいたずらな表情が、実に可愛らしい。

-----
残念ながら、 松重 さんの落語は聞けませんが、
それ以上に、存在感ある演技で魅せてくれます。

-----
役者さん達の、演技の掛け合いだけでも、見ごたえ十分。

=====
原作では、話し方教室にもう一人加わり、
さらに、三つ葉を見守るもう一人の「重鎮」の落語家さんが登場するのですが、
それを削ったことで、原作の雰囲気を損なうことなく、
物語がよりスピーディに、軽やかになっている気がします。

-----
また、物語の舞台を吉祥寺-中野ではなく、下町に変えたことで、
映像としての「江戸」っ子らしさが際立っていました。

印象的に描かれる 浅草寺の鬼灯市
香里奈 さんの浴衣姿が、とても涼やかで素敵!)

上野 浅草 池袋 の寄席の姿。 市ヶ谷の釣堀
雑司ヶ谷の鬼子母神 の境内。

ラストシーンが 隅田川 の上、というのも素敵。
「江戸」は、正に「江」の街だったわけですから。

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こうやって、「江戸」情緒を織り込みながら、
決してノスタルジーに流れることなく、物語は「今」に足を着けて、
不器用な彼ら彼女らを、そして私達を、ふわりと包みます。

見終わった後、 誰かを訪って鬼灯市へ行きたくな…
何だか、温かく優しい気持ちになれる、爽やかな映画でした。

しゃべれども3


=====
『しゃべれども しゃべれども 』

2007年 日本 109分

http://www.shaberedomo.com/

監督:平山 秀幸
出演:国分太一 / 香里奈 / 森永悠希 / 松重豊 / 八千草薫 / 伊東四朗 他

 ★★★★★

原作:『 しゃべれども しゃべれども 』  佐藤 多佳子



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佐藤 多佳子さんは、この作品で「本の雑誌」の年間ベストを受賞され、
一瞬の風になれ 』では、「本の雑誌」の年間ベスト&2007年本屋大賞を受賞。



そう言えば、先日東京に遊びに行ったときも、
電車の中で『一瞬の風になれ』を持っている人を何人か見かけました。

文庫派の私としては、文庫化が待ち遠しい作家さんです。






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Last updated  June 21, 2007 11:44:22 AM
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RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
I read your post and wished I'd wrtietn it@ I read your post and I read your post and wished I'd wr…

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