成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2009.09.20
XML
カテゴリ: バス産業
『1940年体制・新版』

バスにたずさわる私たちにとって「1940年体制」という言葉から単純に連想するのは、それまで小規模事業者が乱立していた路線バス業界が、1938年成立の「陸上交通事業調整法」によって統合されていった事実である。私たちが普通に「既存事業者」「老舗バス会社」と呼ぶ会社のほとんどが、この時期に統合された結果、地域を代表する交通事業者となっている。たしかに、統合された事業者は一部を除いて戦後も解体されなかった。行政は新規参入を制限し、その代わりに、そういった事業者は地域の公共交通のあり方と雇用の維持に、単なる民間企業以上の責任感を発揮してきた。著者の言う「大企業という垣根に仕切られた社会主義」というのが正に当てはまる。

実は私自身、この本を読むまで、バス産業は特殊な存在なのだろうと思ってきた。高い公益性と安全性を要求される産業であるため他の産業に比べて競争がそぐわず、だから地域独占的に認可が与えられる制度が維持されてきたのだろうと考えてきたのだが、戦後日本の経済体制において各種規制や調整による「護送船団」的な産業のあり方は、程度の差こそあれおおむねどの産業においても同様だったというのがよく理解できた。

著者は、<1940年体制を形作る特徴の多くは、日本社会の歴史的特性にもとづくといわれることが多い。(中略)「日本社会は農耕社会だから、騎馬民族的社会制度はあわない」とか「日本の企業はムラやサムライの社会構造を引きついたものだ」といわれることもある。しかし、こうした見方は、事実に反する>として、その根拠を一つひとつ丁寧に挙げていく。もちろん、戦後日本において「1940年体制」が維持された背景に農耕社会的な「基層」が影響していることを私は否定しないが、少なくとも、このような体制を戦後日本人が(無意識下で)選択し続けたのは、高度経済成長という「表層」がそれにあっていたからだろう。

同書では、他の論文からの引用で<日本型経営システムにおいては、年功序列賃金と終身雇用を同時に実行しなければならない。年功序列賃金というのは(最初に低い賃金で我慢して、後でそれを取り戻すという意味で)ネズミ講と同じ原理なので、これを継続するためには中高年労働者と若年労働者の比率を一定に維持しなければならない。そのためには、企業は常に成長していなければならない。(中略)このように、日本型経営システムが円滑に運営されるためには、高い経済成長が必要であり、逆に、日本型経営システムは高い経済成長を生む原動力となった>とあるが、国全体において昨日より今日のほうが人口が増え、国民全員において今日より明日のほうが豊かさが増していくことが確実な時代においてはうまくいくシステムも、人口の減少と新興国の追い上げに直面した我が国で、今後もうまく回っていくとは思えない。

逆説的だが、私は同書を読んで安心した。高度経済成長期の成功体験を忘れられず「古きよき時代」から脱却できないでいるのは、何もバス産業だけでなく、この国のあらゆる産業に共通した症状なのだ。しいて言うなら、戦後日本が「大企業の垣根に仕切られた社会主義」体制でなかったならば、公益性が大きい路線バス事業を民間セクター(企業)が担うことはなかっただろう。他の先進国同様、公的セクター主体(ただし、公益性とともに効率性を維持するために実際の運営は民間に委託、など)で進んだであろう。その意味では、やはり民間の路線バス事業者という存在は「1940年体制」を象徴するのかも知れない。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.09.20 19:39:01 コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

nalys

nalys

Comments

京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

Calendar

Archives

2026.10
2026.09

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: