成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.06.18
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カテゴリ: 高速路線バス
昨日は、大手私鉄系バス事業者の、ある分社子会社の社長さんのところへご挨拶。会社として深いお付き合いがあるわけではないが、高速バスや貸切バスの生き字引のような方で、おおらかなお人柄も魅力的だからご挨拶と称して時々お伺いする。20年くらい前、ちょうど私が学生時代でバスに興味を持ち始めたころ本社部門で高速バスの企画などにたずさわっておられたようで、いつお邪魔しても「あの頃」の思い出話がぽんぽんと出てくる。私も、むしろその昔話をお聞きするために、「営業」という名目で往訪しているようなものだ。かわいがってくれる大先輩に会いに行く、という思いもあるし、昔の話を聞かせてもらうのは、懐かしい映画をわざわざビデオで借りて再見するというのに近い感覚もある。

「昭和」から「平成」に変わった頃、バス業界は高速バスブームであった。原則的には国鉄バスや高速バス専業者(日本急行バス、東名急行バスなど)にしか高速バスの認可が降りなかった時代を経て、1980年代前半まで(昭和60年くらい)に、起終点それぞれを事業区域とする路線バス事業者同士の共同運行であれば高速バスの認可が降りるようになる(いつも書いているが、それによって地方の路線バス事業者が自ら高速バス事業に参入できるようになったことで、彼らの販売力によって地方側で高速バス市場が大きく成長した。私が 日本の高速バス成長史の「第2フェーズ」 と呼ぶ時代が始まったのだ)。<昭和から平成になった頃は…>と社長さんが懐かしく振返るのは、正にその「共同運行システム」が定着し、全国の路線バス事業者が我先にと高速バス路線を新設していた時代である。

<あの頃は、全国から地方の老舗事業者が共同運行の申し入れにどんどん来てさ>。社長さんの目が輝いて笑顔のしわが深くなる。<毎週のように申請、申請。徹夜して書類作ったりしたもんだよ。平成元年の3月に○○線、4月には○○線。そんな感じだった>。<一方でこんなこともあったよ。○○バスさんが>といって、社長さんは他の大手私鉄系バス事業者の名前を挙げた。<やつら、「お前の会社がこの路線を始めるなら、○○高速道路の上にウチのバスをずらりと並べて阻止してやる」とか言うんだよ。別にその会社の事業エリアにバス停を作ると言っているんじゃない。高速道路を通過するだけなのに。まるで誰かさんたちのシマ(縄張り)争いみたいなもんだ>。

こういう話を聞くといつも、日本史の教科書に出てくる「一所懸命」という言葉を思い出す。鎌倉時代以降、日本の武士たちは自分たちの「土地」を守るために命を懸けた。別に「古い」と非難しているつもりはない。諸外国では「公共」が担っている地域交通をこの国は「民間」に委ねてきた以上、運輸省が免許秩序を守り過当競争を防止することが地域交通を守る唯一の道であったわけだし、そうである以上、事業者はその秩序の下で自分の事業区域を維持することが企業として存続するための唯一の道だったのだ。大手私鉄が買収合戦までやって沿線や地方の路線バス事業者を傘下に収め勢力範囲拡大を競い合った混乱期を終え、いったん「縄張り」は安定していたが、「高速バス」という新しい事業モデルの誕生によりその安定にひびが入るリスクが出てきたのだ。上記の事業者の反応も判る気がする。というより、私がバスに興味を持ったのは、このような話題がきっかけだったと言っても過言ではない。「趣味」として聞くなら、社長さんの昔話に何時間付き合っても飽きることはない。

だから私には、路線バス事業者がどれほど強い思いを持って、事業エリア、具体的には「バス停の権利」を守ってきたか、よくわかる。その努力を尊いと感じるし、逆に各事業者がその「枠」をいかに破ろうと知恵を絞ってきたかも理解している。だからこそ、募集型企画旅行という全く別のルールを強引に適用することでいとも簡単に同じような高速バス事業に参入してきた高速ツアーバスという事業モデルに対し、怒りというか、自分たちの尊厳、生きてきた証のようなものを傷つけられたかのように感じる気持ちもよくわかる。しかし、時代は変わってしまった。高速ツアーバスという事業モデルは生まれたし、それは行政によって容認されてしまったのである。2001年にオリオンツアーやウィラー・トラベルがこのモデルを始めていなければ、別の誰かが同じコトをやっただろう。2005年に私たちが予約事業に参入していなければ、YAHOO!かリクルートかが同じコトをやっただろう(現に彼らは高速ツアーバス予約事業に後発参入している)。

<路線バス事業者さんたちがバス停の権利でどれだけご苦労なさってきたかはよく承知しています。でも別の見方をすると、昔から路線バスをやっていた会社だけがそのバス停を高速バスにも使えて、新規参入しようとする者にはバス停が与えられないのは「既得権益」に他ならない。下手するとメディアで悪者扱いされかねませんよね>。私がそう申し上げると社長さんの目は少し怒っていたが、私がどうしても伝えたかったのは、「バス停の権利」の話は一つの美学ではあるが、その種の美学は相対的なものであって絶対的なものではない、ということなのだ。例えば沖縄の基地や消費税上げなどでも立場によって意見が異なるように、路線バス事業者が自らの正当性を大上段に構えれば構えるほど「既得権益」として世間からネガティブに見られるリスクが、彼ら自身に生まれる点なのだ。道路運送法は改正され、国の方針は、免許秩序と内部補助によるバスネットワーク維持では既になくなっていることを路線バス事業者の皆さんも頭では理解しているのに、感覚的には「昔話」から抜け出せないのは彼ら自身のためにならないと、私は思う。まあ、大先輩の話を聞きに来ている一愛好家の前でなら、それでも構わないが。

と、最後は厳しいことを書いたけれども、<毎週のように申請、申請>のような時代を一度は経験している路線バス事業者の皆さんに、もう一度そのような「成長するドキドキ感」をぜひ取り戻していただきたいと願う気持ちを新たにし、事務所を後にした。目の前の車庫では、その事業者自身は運行から既に撤退した路線の相手側事業者の夜行車両が、のんびりと昼寝をしていた。





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Last updated  2010.06.18 18:36:36
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京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
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