成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.07.29
XML
カテゴリ: 高速ツアーバス
ウェブの登場がマーケティングをどう変えたのかという点については様々な書籍で述べられているが、一言で言うと「サプライヤー(商品メーカーやサービス提供者)と消費者の間の距離を一気に近くした」とまとめていいのではないだろうか。

宿泊業界で言えば従来、集客のほとんどを旅行会社に頼っていた。日本の宿泊業界においては「団体」が占める率が非常に大きい(旅行会社が企画する「募集ツアー」もだが、それ以上に大きいのは企業のインセンティブ旅行など「法人団体」だ)し、個人客についても、旅行会社のカウンターで予約を受ける例が、特に温泉旅館ではほとんどだった。旅行会社のカウンターで旅館が予約される際、利用客が見ているのは紙媒体(パンフレット)であり、係員が見ているのは自社の基幹システム(JTBなら「TRIPS」)である。しかしパンフレットも基幹システムも、掲載できる情報量に限界がある。例えばパンフレットなら、コスト度外視なら情報量モリモリの分厚いそれを印刷すればいいわけだが、現実には予算の都合で限られたページ数に少しでも多くの旅館を掲載することになり、一旅館ごとの情報量は限られてしまう。基幹システムも、情報を増やすことは技術的には難しくないが、各旅館が記入した「登録用紙」を元に食事や部屋タイプ、料金などを旅行会社側で手入力する以上、情報量は限られたものにならざるをえない。

旅行のプロフェッショナルである旅行会社の係員とはいえ全国の旅館に精通しているわけではないから、どうしても、係員が利用客に宿を薦め、それを元に利用客が宿を選ぶ際には「地域」と「グレード」(料金)を軸にするしかない。係員も利用客も「有馬温泉で一人2万円くらいの宿」という条件をキーにするしかないのだ。そうすると旅館の側では、極端に「とんがった」宿作り、商品作りができなくなってしまう。同グレードの宿の多くが部屋食なのに、「温かいものは温かいうちに召し上がって欲しい」というこだわりから食事処での夕食に切り替えたら「部屋食だと思っていたのに部屋食じゃなかった」という苦情が旅行会社に寄せられるかも知れない。結局、どの旅館も似たような宿作りを迫られる。それで利用客が満足している間はそれでいい。しかしレジャーが多様化する中で、 金太郎飴のような旅館ばかりでは利用客の心は離れがち になる。

一方、ウェブ化の進展によって利用客が手にする情報量が一気に増えた。宿側も、紙媒体(パンフレット)に付き物だった「枠の大きさ」という限界を超え、多数の商品(宿泊プラン)を自らの手でウェブに掲載できるようになった。「平日限定で激安」「女性向け」「泊食分離(旅館では夕食を提供せず宿泊のみ)」など多様な商品を旅館が自ら考え、自ら商品設定し登録できるようになったのだ。その場合の「ウェブ」とは、各旅館の公式サイトも、私たちのような予約サイトも、である。私たちでは全国に「インターネット・トラベル・コンサルタント」と呼ばれるスタッフを配置し、各旅館が商品作りを自ら行なうようサポートを続けている。その古株が笑っていたが、最初のうちは旅館の女将さんに「おたくのウリは何ですか?」と質問すると、その答えは「伝統と格式」「心のこもったおもてなし」「地元な食材と職人の技」と、判でついたように同じだったのだという。しかし彼らもウェブを活用する中で、自らの「トンガリ」を持つようになっている。

旅行会社のカウンターで旅館を予約しても私たちのサイトで予約しても、「手配旅行」という法的な位置づけは変わらない(ちなみに旅行会社で新幹線や高速路線バスの切符を買っても、私たちのサイトで高速路線バスを予約しても「手配旅行」である)。しかし本質的な意味としては、<「旅行会社の商品」として宿を売る>旧来の旅行会社から<「宿の商品」を売るのを手伝う>予約サイトへ、立ち位置は大きく変化している。私たちは、商品の作り方やその見せ方について徹底的に旅館をサポートし、また多くの利用客をサイトに集めるものの、意識の上では「売り手」はあくまで各旅館だ。旅行会社を通してしか販売できなかった旅館を、なるだけ利用客の近くまで連れて行くのが私たちの仕事なのだ。

では高速バスではどうなのだ、という点が、既存事業者の皆様に今ひとつピンとこないようだ……。たしかに高速路線バスにおいては、旅館における旅行会社のような「販売を握っている」者はおらずバス事業者の直接販売が中心だった。そこに私たちが後から入り込もうとしているのだから、「サプライヤー(バス事業者)と消費者の間の距離を逆に遠ざけている」と思われるのはわかる気がする。しかし(「発券代行」としての旅行会社の役割はあったが)「集客」については失礼ながら高速バスはちゃんとできていなかったのであるから、これまで事業者と「一部の」消費者の距離は近かったものの、それ以外の多くの消費者(潜在需要。まだ高速バスの存在や魅力を知らない消費者)との距離はずっとずっと遠かったわけで、私たちはそれを近づける役割なのだ。さらに、高速ツアーバス企画実施会社も私たちも同じ「旅行会社」であることが余計に混乱させているようだ。極めて単純化して言えば、企画実施会社は貸切バスを安くチャーターすれば利益が出るのに対し、私たちは少しでも高い商品を取扱えば利益が出る。予約サイトというのはそもそも旅行業界からは鬼っ子扱いなのに、バス業界からは「旅行会社」と一括りにされるのはどうも微妙な感じがする(苦笑)。

もしウェブが無ければ、中小旅行会社がや貸切専業者が高速ツアーバス事業で独り立ちすることなど無理だっただろう。高速ツアーバスではウィラー・トラベルの働きが目立つが、市場シェアで言うと決して圧倒的なわけではない。全国で60もの企画実施会社がそれぞれ順調に成長しているのだ。多数の中小規模のサプライヤーがそれぞれ「自走」し工夫と努力しだいで大きく成長できることこそ、ウェブ時代なのである(その最たる例がウィラーなのだ)。ならば、そういった中小企画実施会社が育つことで既存事業者は追い込まれるのか? とんでもない。JR(鉄道)やANAら「大手」サプライヤーに比べれば、高速路線バス事業者はみな「新興」「中小」サプライヤーである。その意味でウェブと高速バスの親和性は大きい。ウェブ時代の到来は、既存事業者の前にも、新興の旅行会社や貸切専業バス事業者の前にも、同じ大きさの未来を用意してくれているのである。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.07.29 18:16:10
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

nalys

nalys

Comments

京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

Calendar

Archives

2026.10
2026.09

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: