成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2011.01.02
XML
カテゴリ: バス産業
既存事業者のある経営者はこんなことをおっしゃる。<今は乗合バス事業の第二の危機だ>と。そして<第一の危機は自家用自動車管理業の「大新東」が急成長したとき。企業の通勤バスや過疎地の乗合バスの多くを大新東に取られてしまった。あの時、彼らに対する規制を強化するように(行政に対し)求めたのに、ずるずると来てしまった。そして今日、高速バスの分野でツアーバスが成長している。このままだと大新東の二の舞になる>。ご丁寧に<モータリゼーションの進展は大した問題ではない>とまで付け加えた上でだ。(高速バスによる平場の乗合バスへの内部補助の存在を前提に)<新参者に対する規制を強化すればさえ乗合バス事業は守ることができる>と本気で考えているのか甚だ不明だが、多くの既存事業者からは<規制緩和によって事業者は疲弊している>の繰り返しだ。

ここで少し冷静に日本の乗合バス事業について振り返ってみたい。1975年ごろまで年間輸送人員100億人をキープしていた乗合バス輸送人員は、今日では42億人にまで減少している。これは輸送人員ベースだから、「人キロ」ベースではもっと大幅に減少していることだろう。ピーク期に比べ市場規模が4割にまで縮小しているのである。にもかかわらずおおむね同じ数の事業者が同じやり方で事業を続けている。他の業界に当てはめて考えれば、それがどんなに異常なことかすぐわかるだろう。もちろん、市場規模縮小は事業者の努力不足が主たる要因ではない。国全体での人口減少、わけても少子化による通学需要の減少、そしてモータリゼーションの進展がこの事態を生んでいる。

さらに、本業の乗合バス事業以外の環境も強い逆風だ。土地の値上がり神話崩壊と、特に中心市街地の空洞化は、古くから所有する中心市街地の土地を活用(例:駅前にあった車庫を郊外に移転させ、跡地で貸ビルやホテル、スーパーなどを営む)するなど土地の含み益に頼って成長してきた事業者の経営そのものを脅かしている。長年、一心同体の関係を築いてきた地元の地域金融機関も、長期的に物事を考える余裕はなくなっている。保守系政治家との緊密な関係も、地域開発の規模が縮小しうまみは小さくなっている。

一つ象徴的な例がある。多くのバス事業者は、航空会社から「地域総代理店」事業を請け負ってきた。「代理店」というと団体営業など航空券拡販という印象を持たれがちだが、空港での旅客カウンター(地方空港では航空会社の制服を着ていてもバス事業者の社員であるケースが多い)や貨物取扱、機内清掃業務など実はその範囲は極めて大きい。当初、本制度がバス事業者の地元での存在感を背景に航空会社の成長に大きく寄与したことは間違いないが、そのためもあって、かなり大きな利益をバス事業者にもたらしていたことも事実である。しかし、航空会社は海外勢との激しい競争にさらされ経営破たんさえ起こっている。航空会社は、既に、従来どおりの金額を従来どおりの委託先に払ってはいない。

なぜこのケースが象徴的かというと、一つには、そもそも委託を受けることができた要因が「地元の名士企業」であったことであり、つまり「名士企業」であれば自動的においしい話が転がり込んでくる時代が終わったことを意味するからだ。もう一つは、非常にドメスティックな事業を営んでいるバス事業者も、実は間接的に海外(世界)と日本との激しい競争の影響を受けていることを明らかにしているからだ。

上記経営者のように、乗合バス事業の今後のため「規制」を求める事業者は多い。それはすなわち<規制が自分たちの事業や経営を守ってくれるはず>という期待を意味する。しかし、いま既存事業者が置かれた厳しい環境は、規制強化などで守ることができるレベルではない。いや、既に4割にまで規模が縮小した市場である。従来のやり方や、その延長線上に位置する小手先の変化で乗り切れるはずが無い。私がいま高速ツアーバス事業の業界内でのプレゼンス向上にこだわるのは、たとえその手法をそのまま平場の乗合バスに展開できずとも、少なくとも<従来とは違うやり方をすればバスには再成長のチャンスがある>ことを証明し既存事業者の皆様にそれを腹に落としていただきたいからだ。

<このままだと「第二の大新東」になる>というご指摘には、皮肉をこめて<はい。全くその通りでしょうね>とお答えするしかない。もし彼らの声を受け高速ツアーバス業態に厳しい規制がかかったら、既存事業者はそれに安堵して一心地(いや二心地も三心地も)つき自らの変革をおろそかにするだろう。もし逆に高速ツアーバスに関する規制がなんら変わらなかったら、ウィラー・トラベルや平成エンタープライズの成長を指をくわえて見ているだけだろう。「第二の大新東」という指摘は、皮肉な意味で的を得ている。大新東のビジネスモデルが問題になったとき、既存事業者は、なぜ新しいモデルが顧客(自治体、企業、乗客)の心をつかむのか、研究すべきだった。同じモデルに進出できないか、検討すべきだった。<固定費のレベルが違うから価格でかなわない>というなら、固定費の差が品質の差につながっていることを証明し、顧客に伝える手法を考えるべきであった。

元日の夜に放送された NHKスペシャル『2011 ニッポンの生きる道』 の冒頭でゲストのノーベル賞受賞者、根岸博士はこうコメントなさていた。<経済の落ち込みやそれに伴う閉塞感が報道される様は、日本がそれに酔っているように見える>。過剰なモータリゼーションに対する政府の無策や規制緩和による競争激化を悪者にすることに「酔っている」とまでは言わないが、そう叫ぶことが何かの免罪符になっていないか。あの時、既存事業者が正しい対応をしていれば、この国の乗合バス事業には別の未来があったかも知れない。未だ既存事業者によって悪者視されることもある自家用自動車管理業というモデルが、今後この国のバス産業がおそらく目指すであろう「企画(経営、計画)と運行の分離」の萌芽とも思えるだけに余計に悔しい。そう、だからこそその意味で、「第二の大新東」にするわけには絶対にいかない。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.01.02 20:56:33
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

nalys

nalys

Comments

京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

Calendar

Archives

2026.10
2026.09

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: