今晩は新年会があり、きっと午前様になるであろうことを先ずお断り申し上げます。
ということは、今日はこれを書くとあとは書けないということ・・・・・
マア、それほど「待ち焦がれても読みたい」っていう文章力じゃないけどね・・・
昼食が済み、それでも3人とも少しは疲れていたと見えて、休憩を挟んだ。
「今日は、これから山に登りたきぎ拾いでもするか」
海岸でのキャンプだから、見渡すと乾燥した流木が見えるので、それに火をつければキャンプファイアーはできるのだけれど、2泊3日のキャンプだし、山登りするのもいいかなと思った。
山といっても下北半島に高い山はない。
下北半島で一番高い山「釜臥山」でさえ、海抜879メートル・・・口の悪い地元の人間には「はなくそ山」と呼ばれるくらいの山である。
ましてやこの辺の山になると、一般的には「丘」と呼ばれるくらいが関の山である。
しかし、この脇野沢地区は、「世界の野生猿の住んでる最北限」といわれていて、これ以上高い緯度に住む野生の猿はいないのだそうだ。
この時期、猿の親子連れの姿をあちこちで見かけることが出来る。
私達はたきぎを拾いながら、あちこち散策してテントに戻った。
途中、「なんでも屋」というような小さな商店に買出しに立ち寄ったが、話し好きの奥さんがいて、「ここは猿だけじゃなくて、熊もカモシカも出るから、食べ残したら、穴を掘って埋めるんだよ」と注意を受けた。
クーラーボックスを持っていったので、その店で、氷と肉や野菜・・・・それから、缶ビールを12本買った。
明らかに、私達は年相応に見えるので、ビールを売ってくれるかどうかどきどきしていたのだが、ここは漁師町・・・・中学を出てすぐに船の乗る若者もいて、これくらいの年恰好の人間がビールを買うのも珍しくないのだろう。
テントに戻ったのが二時半・・・・・・・
「まだ、晩飯の支度をするのは早いよなあ・・・・鯛島まで泳いで見るか?」
成田が言い、鈴木は賛成したが・・・・私は昨日寝ていないのと、この暑さにやられ調子が悪かった。
「俺、留守番してるよ・・・・」
沖の鯛島まで、ここから200~300メートルはあるだろう・・・・
とてもじゃないが、この調子では泳ぎきる自信もなかった。
「だいじょうぶなのか?」
「アア、今日ユックリ寝れば、明日は大丈夫だと思う・・・・遠慮しないでいってきていいよ」
ちょっと心配そうな顔をしたのだけれど、2人は鯛島に向かって泳ぎだした。
私はしばらくの間彼らの姿を見送っていたのだが、照りつける太陽が容赦なく、私を痛めつけにかかってくるので、私はテントの日陰に避難した。
少しだけ横になろう・・・・・しかし、テントの黄色い生地を通した太陽の明かりが、それでもまぶしい。
真っ白なタオルを水に浸し、私は顔をそれで覆った。
どれくらい時間がたったのだろうか・・・自転車の急ブレーキの音がし、誰かがテントの中を覗き込む気配がした。
私は片肘をついて上半身を起こし、テントの入り口を見た。
「ああ、なんだ子供かあ・・・・」
その声の主は警察官の服装をしていた。
「坊や一人かい?」
坊や呼ばわりされて、少しむっとしたが
「高校一年生が子供といえばそうですけど、3人でキャンプしてます。」
「アハハ、怒ったかい?・・・・イヤイヤ、キャンプはいいんだけどね・・・・大人は誰もいないんだね?」
人なつっこそうな顔はしているが、あきらかに私をなにかの犯人のように疑っているような目つきだ。
「ちょっと荷物の中をみていいかな?」
一瞬ドキッとした。
朝、青森港を出航するとき、小島が「どうせ飲むんだろ?」といって、缶ビールを12本、差し入れに持たせてくれたのだ。
「その前に名前を聞こうか?」
「ボクは、後藤隆志です。・・・・・むつ市出身で、今、青森の高校に下宿して暮らしてますけど、親はこっちにいます。・・・・もしなんかあればすぐに親に連絡して来て貰う事になってるんです。」
「後藤隆志?・・・・もしかしてむつ市の後藤康志社長と関係があるのか?」
「それは父親です」
後藤康志が父親と聞くと、警察官の態度が豹変した。
「ほう・・・後藤社長にこんな大きな息子さんがいたんだ。・・・イヤア失礼しました。」
言葉使いもちょっと変わってきている。
「実はねえ・・・・むつ市で強盗事件が起きましてねえ・・・今、検問したり捜索したりしてるんだけど・・・・こっちに来てないとも限らないのでパトロールしてるんですよ。」
それで、私を疑ったのか・・・・・強盗犯がキャンプしているとでも思ったのだろうか?
「マア、もしなんかあったら、駐在所まですぐ来てくださいよ」
それだけ言うと、警察官は自転車に乗って帰っていった・・・・けっきょく荷物の中は見ていない。
しばらくすると、成田と鈴木が戻ってきた。
「おい、さっきお前と話してたの、警察官だろ?」
鈴木に聞かれたので、
「むつ市で強盗事件があってパトロールにきたんだよ」と答えた。
「へえ・・・むつ市もそんな事件が起こるんだ」
妙なところに感心をしていたが、実際犯罪者にとっては、逃げ道のない半島という地形で、検問をかけられたらすぐに捕まるところだった。
もし私が犯人なら、この脇野沢方面には絶対に逃げてこない。
道路が袋小路になっていて、追い詰められると逃げ道はない。
私なら、むつ市から南下して青森市か八戸市方面に逃げるだろ・・・・それでなければ逆に北上して大間からフェリーに乗り函館方面に逃げる。
どちらかの方法しかないのである。
しかもどちらも道の数が少ない・・・
数箇所検問をかければ、すぐに捕まるところなのだ。
ましてや脇野沢になんか・・・・よっぽど土地勘のないやつしか逃げてこない。
「こっちのほうは大丈夫だよ・・・・・こっちに強盗は逃げてこないって」
私は2人を安心させるために、その理由を説明した。
「じゃあ大丈夫なんだろうけど・・・・でもさっき泳いでて途中振り返ったら、お前警察と話してただろ?・・・心配になって戻ってきたんだけど、いまさら鯛島に向かうのもなあ」
「明日にしようよ・・・鯛島!・・・・明日になれば俺も元気になるから・・・明日3人で泳ごうよ」
そういう話しで、「じゃあちょっと早いけど、晩飯の準備しよう」ということになった。
その辺から少し大きめな石を集め、かまどを作る。
流木の乾燥しきったものを3人で引っ張り、かまどのところに置いた。
「少しでかいよな・・・・・のこぎりで切ろうか?」
かまどの大きさに合わせて流木を切り、山で集めてきたたきぎに火をつけた。
「俺、飯ごうで飯を炊くから・・・・足りない水を汲んできてくれないか?」
成田にそういわれ、私と鈴木でバケツ二つに水を汲みにいく。
近くの漁港に、流しっぱなしの井戸があったのでそこから水を貰う。
戻ると、成田が焼き網の用意をしていた。
今日はバーベキューをする予定で、さっきの商店で材料はそろえてある。
「さっきのお巡りさんが、荷物の中身を見せろって言ったときはドキッとしたよ」
私は正直にその時の感想を言った。
「高校生がビールを飲んじゃいかんってか?」
クーラーボックスに缶ビールを移しながら成田が私をからかう。
5時過ぎに準備が整い、私達はビールで乾杯をする。
まだ、その時間は明るかったが、徐々に太陽が西の津軽半島の影に沈んでいく。
「おい、綺麗だなあ・・・・・」
「あいつらにも見せたいなあ」
あいつらとはもちろん、鎌田と小島のことである。
「小島ならフォークソング同好会だから、今頃ギターを弾きながらみんなで歌って、もっと盛り上がるんだろうけどな」
完全に日は落ち、焚き火の明かりだけが赤々と燃え盛り、逆に回りの暗さが際立ってきた。
一人4本ずつのビールがなくなった。
「今日買ったビールは明日飲むことにして、今日はもう寝ようか」
今、飲んだビールは、朝小島が差し入れてくれたビールだった。
「小島も来たかったろうなあ・・・」
みんなでなぜか、青森に残してきた小島の話になった。
鎌田は水泳部の合宿でしごかれているはずである。
あいつだって、夕べは一睡もしないで私たちに付き合ってくれたんだから、今日の合宿のしごきはこたえているはずだ。
「今日泳いでてさあ・・・・足に海藻が絡まって・・・・小島に足を引っ張られてるような感じがしたよ」
みんなで小島の長髪を思い出していた。
つづく
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