皆さん勘違いしてる人が多くって・・・・・
今回の主人公は「大山健二君」です。
斉藤君というのは大山君の親友ですが、もう既に彼女がいて、余裕をかましてる人なんです。
「大山と真由美ちゃんが、朝一緒に通学してるんだってよ」
こういう噂は広まるのが早いもんです。
それも、その日一日の事なのに、「毎日一緒に・・・」と言う尾ひれがついて・・・・
個人的にはすごく嬉しい事なのだが、私は友人たちに言われるたびに否定してあるいた。
「真由美が毎日迎えにいってるそうじゃないか?」
「いやたまたま今日だけ、ぐうぜん一緒になっただけだよ」
それは正直そうなのだけれど、噂と言うのは恐ろしいものでそれが・・・
「真由美は毎日大山の家に迎えにいってるんだけれど、いつもは学校近くまで来ると少し離れて歩くようにしてて・・・・今日たまたま話しに夢中になって学校まで一緒に来てしまった。」
そういう話に変わってしまっていた。
私にとっては、とてもいい方向に向かっているのだけれど、これは男子生徒の中だけの話しで、女子生徒の間では違う話に変わっていたのである。
それは、きっとこういう話なのではないだろうか・・・・・
ある女子生徒が真由美に聞く。
「ねえ、真由美・・・あんたあの大山と一緒に通学してきたんだって」
「うん、今日たまたま大山君の家の玄関で逢うたんや・・・どうせ学校行くんやから一緒に来ただけやけど・・・え彼と付きおうとるって?・・・・しょうもな! 」
それが数時間には女子生徒の間で・・・・・
「大山君が真弓の事待ち伏せしてて、嫌がってるのに一緒に通学したがるんだって」
このように変わってしまっている。
男子生徒の間では「大山と真弓は相思相愛」と言う話だったのが、女子生徒の間では「大山はストーカー」というような扱いになっていて、クラスの中は騒然となってしまった。
こういった場合日数を重ねると、えてして「恋愛問題」に関心の多い女子生徒の方の話しが勝ってくるようで、1週間後には「大山は真由美にストーカー」という話が定着しつつあった。
「そういえば大山君って、いつも授業中、真由美の方ばっかし見てる」
そんな話しも出始めていた。
確かに授業中、真由美のほうを見ていると言われればそうなのだが、その延長線上には教卓があり、先生の授業を熱心に聴いている・・・といえばそうも見えるはずだ。
放課後、 私は斉藤や中島に相談した。
「俺、普通に授業を聞いて、先生のほうを向いてるだけなのに、真由美を見てるって言われるし・・・
だってあのときだって、ほんとにぐうぜんに、うちの玄関の前でばったり出くわしただけで・・・・
同じクラスだから一緒に学校に来ただけなのに・・・・・」
斉藤は親友という理由で・・・・中島は半分面白がって・・・・明日の給食が終わって先生が教室からいなくなったときに「裏・ホームルーム」を開催しようという提案ををクラス全員に伝えた。
「裏・ホームルーム」・・・つまり正式なものじゃなく、先生に内緒でこっそり開く「ホームルームのようなもの」である。
給食が終わり、先生が職員室に戻ると、中島がさっそく議長となって「裏・ホームルーム」が始まった。
正式な「ホームルーム」なら、クラス委員の吉田竜平と小柳朋子が議長を勤めるのだが、「今回の議題には関知したくない」という理由で吉田は教室を出て行ってしまうし、小柳も興味津々だが、議長はできないと言い出したのだ。
しかし、この「裏・ホームルーム」には吉田を除く、クラス全員が出席し、もちろん私も真由美もその中にいた。
「大山がストーカーかどうかを、今回の議題にします・・・意見のある人は挙手して発言してください」
いきなり、議長の中島が言い出したのであわてた。
「その前に大山健二君と、会田真由美さんの意見を聞くほうが先じゃないかな?」
斉藤がフォローしてくれた。
「じゃあ先に大山君・・・・君から先に意見を言いなさい」
議長の中島が私を指名したが、実はこれは、昨日の放課後、「裏・ホームルーム」を開こうと決めたときの段取りどおりなのだ。
私の意見陳述も、斉藤と中島の意見どおりにすることになっている。
「お前、真由美が好きなら好きって言っちゃえ」
「だってそれじゃストーカーって認めるようじゃないか!」
「お前が嫌いだなんていうことをいったら、誰も信じないだけじゃなく・・・売り言葉に買い言葉・・・真由美だって嫌いだって言うはずだ・・・そうなったら収拾が付かなくなる」
「じゃあどうすれば?」
「お前が正直に好きだっていってしまえば、相手だって悪い気はしない・・・好きとは言わないまでも、嫌いだっていうことはいわないはずだ・・・・両方からそのことを聞いて、そのあと事実確認をする。・・・・・お前の話が真実だとすると、たまたまあの日だけぐうぜん家の前で一緒になっただけなんだろ?」
「そうなんだけど・・・・・」
「お前をストーカーにしないためのテクニックだ・・・」
真由美にも斉藤の彼女を通して「好きではなくてもいいから嫌いではない」といってくれるように頼む手はずを整えた。
私の意見陳述が始まった。
「ボクは会田さんとあの日、ぐうぜん家の前でばったり出会っただけなんです・・・同じクラスの仲間として、初めて話しをしたんだけど、うちのクラスがこんなクラスになればいいなっていうような事を話しながら学校に来ました。
好きか嫌いかといえば・・・クラスの仲間として好きです。
でもストーカーのような事はしていません。」
ストーカーのような事はしていない・・・・この言葉以外のことは、昨日斉藤が教えてくれた通りに言った。
「じゃあ続いて会田さん・・・お願いします」
「ほんま、今大山君が言うた通りや・・・あの日いつも迎えに来てくれてる沙織ちゃんが風邪で休んだやんか?・・・でいつもの時間よりちょっと早い時間に家を出たんやけど・・・大山君の家の前で、たまたま一緒になったんよ・・・
好きか嫌いかゆうたら・・・好きやとはよう言わんけど、嫌いやないで」
すぐに議長の中島が、他の人の意見を求める。
「今の二人の意見をまとめると、事実関係はストーカーではない事を認めてるし、大山君は好きだという言葉で、会田さんは嫌いではないという言葉で、それぞれの意見が出ました。・・・・・この、”好き”と”嫌いではない”という温度差が、今回の事件のひきがねになったようですが、皆さんの意見はどうですか?」
もう意見はまとまって、ストーカー疑惑はこれで収まったのだが・・・・そのあと・・・
「大山が真由美のことを好きだといった」という事実だけが一人歩きするようになるのである。
続く
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