昨日は早めに寝てしまいました。
ほんと疲れてたんですかねえ・・・・・・・・
パソコンの前で居眠りしちゃって・・・・コリャだめだと思って寝ちゃいましたよ。
今日は「涅槃」・・・・お釈迦様の命日っていうんですかねえ。
だから、お寺に行ってきます。
俊夫からの電話が入ったのは、帰宅を待ちくたびれて、そろそろ入浴しようかと考えていたころでした。
「ア、俺だ・・・・今日は現場のご苦労さん会ってことで、社長がみんなを招待してくれたんだよ・・・連絡するのが遅れたけど、早めに帰るから」
それだけいうと、電話は勝手に切れてしまった。
みんなを招待といっても、俊夫と、俊夫の部下2名だと思う。
あの社長のパターンとして、こういう場合は居酒屋でいっぱい飲ませ、俊夫たちをおいて先に帰るという人だから、二次会はけっきょく俊夫持ち・・・・
一次会だって、会社の経費で落とすんだから社長の懐は痛まないのだろうけれど、二次会は個人で支払う・・・・だから、ほとんど俊夫の「おごり」になってしまうのだ。
「ふん・・・社長にいいように使われちゃってさ・・・・」
聡子は、人のよすぎる俊夫に腹を立てた。
それでも、いつもなら電話連絡もよこさない・・・・
昨日の育美のことがあったから、・・・・そして、今朝、けんかしたまま出てきたことへの反省もあったのだろう。
「あいつのことだから、きっと寿司折りなんかもってご機嫌で帰宅する・・・でも実は、あたしの文句を聞きたくないもんだから酔っ払った振りして、そのまま寝るんだろうな・・・」
俊夫のパターンも読めていた。
あいつになんかかまってられない・・・聡子は風呂に入ることにした。
浴室に入り、真正面にある鏡に、聡子の体型が映る。
独身時代は、細身とはいわないけれど少しポッチャリしている程度で、スタイルもいいほうだったと思う。
それが今は、下半身ががっしりして大きく、おなかもポコンと出ている。
「これじゃ、すっかり達磨さんだなあ」
今度は顔を映してみた。
頬がたるんできているように思えた。
仕事をするようになって、それなりに外へ出ても恥ずかしくないような化粧はしているつもりなのだけれど、それまでは育美の子育てに没頭していて、手入れを怠っていたつけが今廻って来たように思えた。
額に見えるしわが、少し深くなってきたような気がする。
鏡を見ながら、ほっぺたを膨らませて見る。
「これで、ヒゲをつけたら本物の達磨さんだ・・・」
それから、おもむろに肩からお湯をかけ・・・浴槽に身体を沈めた。
少しぬるめのお湯に浸かりながら、なぜか涙がこぼれてきた。
俊夫が帰宅したのは12時を少し回ったころだった。
あんのじょう、手には二人前の寿司の折りを持って・・・・
それでも、すぐには寝なかった。
「おい、育美・・・お父さん、寿司を買ってきたぞ、食べないか?」
「は~い」という返事とともに、パジャマ姿の育美が居間に入ってくる。
「お茶いれるわね」
聡子は電気ポットの前に行き、お茶の支度を始める。
「マグロ、一個だけ貰うぞ」
俊夫が一個の寿司をつまんだ・・・・
「居酒屋で食べてきたんじゃないの?・・・食べてないならご飯のしたくはしてあるけど 」
「男4人だからなあ・・・食べるより飲むのが先で、あまり食べてないんだよ・・・」
「せっかく社長さんがおごってくれるって言うんだから、いっぱい食べてくればいいのに」
「いいから飯のしたくしてくれよ・・・・お茶漬けでいいから」
俊夫はあまりお酒の強いほうではなかった。
家でも、よほど疲れたときに缶ビール一本空ける程度で、普段の晩酌はしない。
「どうせ飲めないんだから、食べればいいのに」
「みんなが飲んでるのに、一人だけ料理にぱくつくのはみっともないじゃないか」
この人も固定概念の塊なんだなあ・・・・・・
「土木の技術屋」は「酒を飲むもの」と思い込んでいるようだ。
そのくせ、強くもないのに・・・・・
俊夫と聡子が付き合い始めた当時、デートで居酒屋に行ったことがあった。
しかし、コップいっぱいのビールで真っ赤になり、「俺、あまり酒は強くないんだ」と照れながら話した俊夫を見て、毎晩のように酒を飲む父親と比較していた。
「結婚するならお酒を飲まない人」・・・・聡子はそう決めていた節がある。
確かに俊夫はあまり飲む人ではなかったが、付き合いがけっこう多かった。
週に必ず一回は「午前様」・・・・それが育美が生まれるまで続いていた。
「ねえ・・・あたし、来週の金曜日、同じ銀行の人が結婚退社するんで、送別会があるんだけどでていい?」
もう出席は決めてきていたのだが、いちおう、夫と娘の許可を取っておこうと思った。
「パートなのに、出なきゃならんのか?」
「だって、お世話になった子の結婚祝いの会だもの・・・でたっていいでしょ?」
俊夫は基本的に、「主婦は家にいて欲しい」というタイプだった。
「なんのためにパートに出てるのかわからんな」
俊夫の嫌みに、聡子はもう反撃した。
「あなただって、こうやってお金を使ってきてるじゃないの・・・・気晴らしかなんか知らないけど、あたしが出かけるのは年に一度か二度よ・・・あたしだって気晴らしは必要なのよ!」
「アア。わかったわかった・・・・言ってくればいいじゃないか」
俊夫はうるさそうにそういった。
育美は?・・・・・何も言わずにもくもくとお寿司を食べていた。
その週の土曜日・・・珍しく聡子は美容院に行った。
この美容院の「先生」は聡子の同級生で、彼女がここに開店してから、通い続けている。
「聡子・・・この前来たのいつだった?・・・今回はいつもより早いような気がするんだけど」
「来週、パーティがあるのよ・・・・でも美容院って今日しか来れないし・・・」
アア、なるほど・・・といって同級生は作業に取り掛かった。
「そういえば、久美子ちゃん・・・・昨日来たわよ・・・あの子も結婚しないわねえ」
久美子はインテリア関係の会社に勤務している。
金曜日は仕事があるはずで、美容院に来る暇なんてないはずなのだが・・・・
「アア、そうじゃなくて、久美子ちゃんの会社に内装をいじってもらおうと思って電話したら、彼女が担当者で来たのよ」
仕事だったのかあ・・・・・
「でも、あたしが男だったら、ほって置かないのにねえ・・・なんで結婚しないのかねえ・・・あたし達より4つ下だから、34歳でしょ?」
「あの子、もてるから結婚しなくっても楽しいのよ」
「でも、あたし見ちゃったのよ・・・・この前ね・・・仙波モータースの若社長とね・・・ボーリング場に一緒にいたわよ。・・・・同級生だと思ったけど、けっこう仲良くて、恋人同士みたいだった。」
え?だって彼は・・・・静子と結婚間近なはずじゃ?
聡子はあわてたのだったが、同級生に気取られないように努力した。
美容院を出て、聡子は実家に電話をした。
「おばあちゃん・・・・久美子いる?」
「ア、久美子は今日も仕事だって出かけたよ・・・・土曜日も日曜日もないくらい忙しいんだって」
聡子は、久美子の携帯を呼び出した。
「ア、久美子?・・・・ちょっと出かけてきたんだけど、あなたとちょっと話しがあるの・・・・お昼でも一緒に食べるってことで出て来れない?」
先日、育美を連れ出したことをまたぶり返されるのかと思った久美子は、あまり気乗りしないようだった。
「育美の話じゃないのよ・・・ちょっと聞きたいことがあって」
「お姉ちゃんのおごりならね・・・じゃあ、12時になったら、うちの会社の前の”レストラン飛鳥”にいて・・・」
仙波モータースの息子と久美子・・・・小学校からの同級生であって、美容院で聞いてきた話は、彼女の勘違いであって欲しい・・・・
聡子はそう思っていた。
つづく
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