黙ってましたけど、実は今日はこれからうちの従業員のお葬式なんです。
従業員といっても私の同級生・・・先日一級したの同窓会の副会長を失ったばかりだったので、こんなお話はしたくなかったんですけど・・・ほんと若くして、まだ一人前になってない子供を残してこの世を去るのは心残りだったろうと思います。
昨日は、もし運動会があれば、会長として反省会に出なければならなかったんですけど、お通夜には出席するつもりでした。
合掌・・・・
蓉子と話しをしているところに、高校時代の友人がゆっくり・・・30分遅れでやってきました。
それを機に蓉子は立ち上がり、私達の元を離れて行ったのですが、友人が初めて会った蓉子の事を聞いてきます。
「誰なんだよ・・・・この辺の女じゃねえな!・・・東京から連れてきたのかよ?」
「そんなんじゃないよ・・・親父の友達のとこの子でね・・・・俺も良く知らないんだけど、話し掛けられたんだよ」
「へえ・・そうかい・・」
友人は半分疑いながら、話しはそこで終わり、 一緒にボーリングへ行って、昼過ぎには帰りました。
温泉に出発したのは午後二時過ぎ・・・・
車で二時間ほどですから、4時過ぎには着くはずでした。
途中、まだ開いていた弁当屋でおにぎりを買い、缶ジュースで流し込むという昼食でしたが、家族3人の温泉旅行なんて初めてです。
それはそれで楽しい思い出になります。
年末の車の渋滞で、温泉宿に着いたのは一時間ほど遅れ、5時ちょっと前でした。
A温泉のN旅館・・・・江戸時代からある古い温泉宿でしたが、いまは改築に改築を重ね、近代的なホテルのようになっていました。
父は組合の旅行などで何度か利用していたようで、旅館に入ると女将さんが出迎えてくれました。
「内山様・・・・本日はようこそお越しくださいました。・・・・このたびは奥様が・・・本当に残念でしたわね・・・係りのものに申し付けてございますから、ごゆっくりなさってくださいね」
そう言って、係りの仲居さんに部屋へ案内させました。
10畳ほどの広い部屋・・・・窓が海に面していて、夕日がとてもきれいでした。
仲居さんはお茶を煎れてくれ、部屋を立ち去ろうとしましたが、父が呼び止めます。
「もしかしたら中村さんじゃないですか?」
「ご無沙汰いたしております」
その仲居さんは、呼び止められたことで、そこに座りなおしました。
「健太・・・知ってるだろ・・・お母さんのお友達の中村さんだ・・・小さかったから覚えていないかな?」
「お葬式には参列できずに申し訳ございませんでした。・・・奥様がなくなられたことを伺ったのがつい最近でして・・・・それに・・・あたしもいろいろあって、あの町には顔を出せないようになっていまして・・・・」
「そのことは伺っています・・・・でも、家内が亡くなるまであなたのことを話してましたよ・・・・気になってたんでしょうね・・・・」
「このお若い方が健太くんですのね・・・・そして、こちらの女のお子さんがお嬢さん・・・人伝には聞いてましたけど・・・健太君が小さい頃、あの町を離れてしまったものですから・・・お嬢さんのことはあまりよく存じ上げなくて・・・」
あまり昔の話もしたくなかったようで、その中村という女性は、それだけいうと席を立ちました。
「ねえ・・・お母さんのお友達って?」
浩美は、母親の友達にここで会えたことで興味を持ったようでした。
「お母さんの高校時代の友達でな・・・・旦那さんが飲食店を経営してたんだが、一時は羽振りが良く、いろいろなことに手を出して・・・・」
父はそのころの事情を詳しく話してくれました。
「まあ羽振りがいいといっても、まだまだ若かったからなあ・・・無理をしたんだろう・・・・騙されて会社をなくし・・・それから行方知れずになっていたんだ。・・・お父さんはここに何度か来ているけど初めて会ったから・・・・最近ここへ勤めたんだろうな・・・」
「お父さん・・・あの人・・・」
健太は「あの写真の女の子に似ている」と言いたかったのですが、なぜか言いよどんでしまいました。
ア、時間だ・・・ちっとも進まないなあ
Calendar
Comments