「歌手になるつもりが」っていうタイトル・・・・我ながらダサいな・・・って思ってます。
「ナイトはほんとに歌手になるつもりだったのか?」
そうおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、「小説もどき」ですから話し半分としても・・・・実際自分が「土木技術者」に向いてるかどうか・・・それよりも、花のあるうち歌手を目指すのも・・・・って悩んだこともありました。
まあ現実はこんな甘いものじゃないんですけど・・・・そのへんを踏まえて呼んでください。
ところで・・・・私の好きな川柳に・・・
「世の中は・・・澄むと濁るの違いにて・・・
刷毛に毛があり・・・ハゲに毛がなし」
っていうのがあるんですけどご存知でしたか?
ペンキ塗りの刷毛には濁点がないのに毛がフサフサ・・・しかしながら、はげには濁点があっても毛がない・・・っていうくだらないものなんですけどね。
私は、そんな駄洒落を目指しています。
今日は「小説もどき」ですけど・・・・そのうち、「駄洒落」のヒットも飛ばしますよ!
《歌手になるつもりが・・・(22)》
日曜日の新宿デートは・・・・借金を作ってしまった大散財のデートとなった。
お昼をお好み焼きですませ・・・・・この後どこに行こうかと言われたが・・・田舎からポッと出たての私には充てもなく・・・・まだ買いたいものがあるからと・・・デパートを散策するのみであった。
これは自分が高校生の時のデートコースと同じ・・・・・青森は夏の間ならたくさん行くところもあったが・・・・冬期間・・・暖かいところといえば・・・デパートだけだった。
女性はウインドウショッピングが大好きである。
これは、高校時代に得た教訓だったが・・・・「キリン先輩」にも当てはまった。
洋服や靴・・・アクセサリーをゆっくりと時間をかけてみていた。
「ねえ・・・これなんかアタシに似あうと思わない?」
時折私に聞くのだが・・・・そんな時はあいまいな返事はしない。
「それも良いけど・・・俺ならこっちの方が似あうと思うよ。」
「それならばっちりだ。・・・・これしかないよ」
その辺のテクニックは心得ていた。
しかし、彼女にプレゼントするにはあまりにも高すぎる。
「今日の借金を返し終わったら、プレゼントしてあげるよ」と言うに留めたが・・・実際のところ・・・・学生の私に買えるのだろうか?
私は真剣にバイトを探そうと思った。
新宿に当時あった5つのデパート(小田急・京王・三越・伊勢丹・丸井)を見終わる頃は・・・・さすがにあたりも暗くなっていた。
「ねえ・・・この後どうしようか?」
疲れた足を喫茶店で休め・・・・私たちは相談した。
「東京見物って言いながら・・・けっきょくデパートを回って終わっちゃったわね。・・・でも、ちゃんとした東京見物させてあげたかったなあ・・・」
その時、現在地が伊勢丹付近だということを思い出して・・・・
「ねえ・・・今日は何時まで帰ればいい?」
「いいわよ、何時でも・・・・」
「それじゃ付き合ってくれないかな・・・・確かこの辺にあるはずなんだけど・・・」
「何があるの?このへんに?」
「寄席!」
私は子供のころから・・・テレビの寄席中継が好きだった。
たしか・・・・伊勢丹の近くの小路を曲った所に「新宿末広亭」という寄席があったはずだった。
彼女も「落語」の趣味はないから・・・寄席がどこにあるのか知らない。
はじめて彼女より優位に立った気がした。
思ったより簡単に「末広亭」は見つかった。
私とて・・・寄席に入るのは初めてだったが・・・「キリン先輩」より「落語」に関しての知識はあると思う。
当時の「末広亭」は日曜日のみ入れ替え制で・・・5時からの「夜席」だったから・・・・先に近くの食堂で早めの夕食を取った。
「ね・・・落語って興味がないかもしれないけど・・・今回だけ付き合ってよ」
「良いけど・・・寄席に行くとなったらずいぶん顔が輝いてきたわね・・・・そんなに好きなの?」
たしかに好きだけど・・・今日はじめて優位に立てたということがそんな顔にさせたのかもしれない。
寄席は・・・すべて自由席だった。
いす席がほとんどを占め・・・・左右に桟敷席があった。
プログラムを見ると・・・今日は落語協会の当番で・・・・トリは「柳家小さん」が務めることになっていた。・・・豪華なメンバーである。
「三平・談志・円楽・円鏡・歌奴」・・・もう亡くなってしまった噺家もたくさんいて・・・・今の落語ファンにはうらやましい取り合わせだ。
これには・・・・「キリン先輩」もはまったようだ。
終わったときには・・彼女も落語が好きになっていたのだ。
二人並んで新宿駅までの道を歩く。
「ねえ・・・おもしろいものねえ・・・・食べず嫌いだったから・・・落語なんて・・・って思ってたけど・・・今度また連れてきてね。」
この言葉を聞いた時・・・・私は「勝った」と思った。
その時、路上でアクセサリーを売っている露天商を見つけた。
当時は路上で店を出し・・・・針金を器用に曲げて文字を作るアクセサリーが流行っていた。
でも私は目もくれず・・・・ひとつのネックレスを手にした。
さっき「キリン先輩」が似あうかと聞いてきたネックレスによく似ていた。
「1000円」の値札・・・・私はポケットから1000円を取り出してそのネックレスを買ったのである。
「今日は借金しちゃったけど・・・きちんと返すからね。・・・・このネックレスはその利息分だ」
彼女の首にそれをつけてあげた。
彼女のうなじがまぶしく感じられたものだった。
つづく
基本的に・・・女性はウインドーショッピングが好き
Calendar
Comments