小さな駅は「無人駅」だった。
単線のディーゼルカーが、一日三往復走るだけだから駅員を置くだけの予算もない。
降りる人がいなくても鉄道は駅に停まるのだが、私が車掌に切符を手渡すと、彼はかなり驚いた表情をしてドアを開けた。
ホームに降り立ったのは私一人…私の代わりに乗り込む人はいない。
ディーゼルカーは時間通りに発車したが、車掌は不思議なものを見るようにいつまでも私を見ていた。
駅前を見渡してみる。
軽自動車が一台…駐車場というか駅前の広場に停まっているだけ…
おそらくこの車の持ち主は、始発に乗って仕事先に向かったのだろう。
休日以外は、毎朝同じ時間に起きて同じ時間に朝食をとり、同じ時間に車を運転して始発電車に…いや、始発のディーゼルカーに乗って仕事先に向かうのだ。
きっと帰りも毎日同じ時間に帰り支度を始めて、同じ時刻に退社し・・・最終に乗って帰ってくるのだろう。
なにしろ一日3往復しかないのだから・・・・
そんなことを僅かな時間で考えていたのだが、それより周囲にはその車以外何もない。
タクシーの一台でもあれば、私の行き先まで乗ることも出来るのだが、それもない。
一本道だから、その道を歩いていけば誰かと遭遇するかもしれないが、感じとすれば、誰とも会わないままのような気もする。
私が来ることは三重子に電話したのだが、彼女は会いたくないと言っていた。
半年前にちょっとしたことで別れてしまったのだが、今になって未練が出てきた。
だから電話したのだが…
「駅には◎時に着くから会って欲しい。」
そう伝えたが、三重子からはなんの返事もない。
返事を待たずに夜行列車に飛び乗ってしまったのだが、もし彼女が迎えに来なくても、彼女の住所は前に聞いていた。
家まで訪ねていこう…そう思ったものの、その住所の地がこの駅からどれくらい遠いのか近いのか…方角がどっちなのか…全くわからない。
誰かいれば聞くことも出来るかもしれないが、人っ子一人いないのだ。三重子が来るのを待つしかない。
私は覚悟を決めて、駅舎にあるベンチに座った。
最終便は19時半…あと7時間…来てくれるのを信じて待とう。
私はベンチに座り続けた。
つづく
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