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2005.10.01
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わが子キリスト

~講談社文芸文庫~

「わが子キリスト」
 内容紹介と感想をわけて書きづらいので、まとめて書くことにします。
 多少内容に詳しくふれる部分もあるかと思いますので、あまり先入観をもたずに物語を読みたい方はご注意ください。
 ローマ帝国のユダヤ進駐軍兵士である「おれ」の一人称で、物語は進みます。
 その地の幾人もの女性たちと肉体関係をもち、その女性がその後どうなろうが、子供が生まれようが、そんなことはどうでもいいと思っていた彼ですが、マリアとイエスは例外となります。
 「おれ」が「子供狩り」のためにたまたま訪れた家にいたみすぼらしいかっこうの女とその子供。夫は、その子の父親ではなく、「神」であるといいます。
 「おれ」は、顧問官に気に入られ、ユダヤ人征服の計画に荷担します。そのとき、ユダヤ人最高の指導者(もしいれば)の扱いが問題となるのですが、二人とも、イエスに目をつけます。

 先に、マリアとイエスは例外だった、と書きましたが、「おれ」は、イエスが自分の子だと気づきます。豹変したマリアの態度も印象的でしたし、狡猾な顧問官の計略にもゾクゾクしました。
 ユダヤ人指導者としてのイエスを利用する。そのためにはイエスの説教や超越性を利用しなければならず、「おれ」はなんとしてもイエスを復活させなければならなくなります。
 イエスの死後のマリアとのやりとり、ユダとのやりとり、そして…。
 大まかなあらすじは以上のとおりです。
 最後にふれましたイスカリオテのユダ。彼の人間像も、とても興味深いものでした。最近、太宰治さんの「駆込み訴え」(新潮文庫『走れメロス』収録)を読みましたので、そちらも連想しました。
 「おれ」が、はじめの方は世俗的で計略家で、「神」など信じず、もちろんイエスの奇跡だって信じない(というか、いくつかは「おれ」たちが作ったことになっています)のですが、物語が進むにつれて、どこかとても敬虔な人物に思えてきたのはなぜでしょう。イエスの神性は一貫して信じていないように思いますが、正統キリスト教の教えはともかく、「神」に忠実であろうとしているように思えるのです。
 普段の読書体験では、読みながら、感動的な言葉にあったり、シーンを読んだりしたらたいてい泣くのですが、本作ではそういうことはありませんでした。むしろ、イエスに関する意外な説に、とても興味深く思いながら読み進めていました。 でも。読み終わったとたん、泣いてしまいました。ラスト数ページ、上のあらすじ紹介のところでは「そして…」であえて省略した部分が、とても印象的だったのです。それまでに読んできた部分もあいまって、自分の語彙の貧弱さが悔しいのですが、とても感動したのです。

「王者と異族の美姫たち」
 晋国王は、驪戎を滅ぼし、美女驪姫を后としていた。驪姫は、祖国を滅ぼされた恨みもあり、晋の三人の王子に対して、政治的影響力を行使しようとしていた。
 太子申生は、自分が驪姫にも、驪姫と彼女に生まれた子供の方への愛情が強くなっている国王にも疎んじられていることを知っており、流されるままに死を選んだ。
 三男夷吾は、たくましく、政治的野心にあふれ、晋も、美しい驪姫も自分のものとしていようとしていた。

 晋に従属していた国で、さらにその国に従属していた国の美女をあてがわれた重耳。彼はまた国を移り、斉に行く。ここで一人の女を愛するのだが、彼についていた五人の賢人と、その女性自身は、重耳が晋の国王となることを望んでいた。

 感想。申生の母は、斉の桓公の娘です。春秋時代の中国が舞台ですね。
 時代背景をあまり知らないので、あまり歴史小説ということを意識せず、一つの物語として読みました。政治と、女性。二つの間で板ばさみになる、王子たち。重耳を中心に物語は進みます。
 驪姫と、重耳が他国で出会う女性たちとが、対照的だなぁと感じたのですが、根本的なところはつながっているようにも思います。なんだかあいまいな感想ですが…。

「揚州の老虎」


 全体を通して。
 本書(表題作)は、torezuさんに紹介していただいたのですが(torezuさんの記事は こちら です)、「わが子キリスト」はとても面白かったです。 表題作は新約聖書、「王者と…」は春秋時代の中国、「揚州の老虎」は清滅直後の中国のとある地方に題材がとられています。いわゆる歴史小説ですね。ミステリ絡みではない歴史小説を読むのははじめてのような…。
 表題作は水曜日に読了して感想をつけていたのですが、その後思い返しても、すごい物語だなぁ、と感じます。





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Last updated  2005.10.01 10:46:51
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トラックバックありがとうございました。  
torezu  さん
TBと紹介ありがとうございます。w
この作品は本当にすごいですよね。あのラストがまた何とも言えません。また、ユダの件に関しても今までの疑問を払拭してくれるような感じでした。
最後のお話しは実は私も良く覚えていないです。
1作目と2作目の方が面白かったので。(笑)
フィクションではありますが、実際はそうだったのかもと思わせる書き方がされていて、何だかこちらの方が史実のような気もする作品でした… (2005.10.01 14:51:46)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
自分自身の関心にもよりますが、やはり表題作はすごい作品だと思います。
ラストは、壮絶な姿だと思うのですが、そこに神々しさがあるのでしょうね。
「復活前のイエス」の奇跡は人工的(?)なものとされていますが、「復活後のイエス」の奇跡は、まさに奇跡として描かれていますよね。そこにも、奥深いものを感じました。 (2005.10.01 19:50:22)

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