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2005.11.30
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匣の中
乾くるみ『匣の中』
~講談社ノベルス~

 ミステリ好きの友人たちで自然とできあがった10人のグループ。その中の一人、仁行寺馬美が、自分たちのグループをモデルにした、実名小説を書くという。そのタイトルは、『匣の中から匣の外へ』。
   *
 グループのリーダー格だった伍黄が、二ヶ月前からほとんど連絡がとれなくなっていた。ふっと彼のことを気にした以縫は、彼のアパートへ向かう。アパートに階段に、以縫は伍黄の姿を認めた。声をかけるが、どうも口調がおかしい。伍黄が自分のアパートに入るのを確認。追いかけると、鍵がかけられた。がちゃがちゃとして、やがてドアが開くと、そこには誰もいなかった。敷居のところに散っていた砂。机の上には易関係の本や、呪術に用いそうなものが置いてあった。
 伍黄の密室からの消失事件を発端に、グループの中で事件が起こる。美術を専門にしていた寿子が密室の中で殺される。馬美が構想していた小説での犠牲者と、人物も順番も同じだった。
 誰もが探偵役、誰もが容疑者。事件は続き、関係者はお互いにどこか疑いながらも、事件について議論していく。

 ようやく読了しました。
 著者の言葉にもあるように、本書は、竹本健治さんのデビュー作『匣の中の失楽』を明確に意識して書かれています。背表紙の紹介には「罠に満ちたオマージュ」とあります。ふむ…。

 ラプラスの悪魔の話については、とても興味深く読みました。起こることは、全て決まっている。私がここにこういう文章を書くことも、全てはあらかじめ決まっていて、このように私が考えることすらもあらかじめ決まっている。…こういう考え方はしたことがあるのですが、「ラプラスの悪魔」を知れたのは良かったかな、と。人間、たいていのことは考えていて、たいていの考え方は誰かが理論づけて公表していて、結局いま自分が考えていることは、先人たち(あるいは同時代の誰か)がどこかで言葉にしているのかな、と思うと、別段自分がなにか大きなことをしよう、などとは思っていませんが、どこかむなしくなります。ふっと何か思いついて、「…と、こんなことを思ったんだけど」と誰かに話をふったとします。その方が古今東西の哲学に通暁している方なら、「ああ、それはだれそれ的な考え方だね」と説明してくれるわけです。結局、古今東西、あらゆる人がいろんなことを考えている。全くのオリジナルなんて、そうそうでてくるものではないのでしょうね。
 話を戻して。いま、竹本さんの作品に通じるペダンティックな性格を指摘したわけですが、今度は相違点。竹本さんの作品が、複雑な入れ子構造(作中の現実世界と、作中作の世界が交互に語られ、交互にそれぞれの世界に言及しあい、結局どちらが現実で虚構なのかわからなくなるような)だったのに対して、本作は複雑な入れ子構造ではありません。序章以降は、一応、仁行寺馬美『匣の中から匣の外へ』ということになっています。その中で、馬美さんが作成中の作品のことが言及されることはあっても、それ自体の物語が語られないので、まとまった一つの世界として読みやすいのです。
   *
 で。以下、念のため、文字色を白にしますね。
読了後、背表紙見返しの、「今作も、前作同様、いやそれ以上に想像を絶する結末に、読者は言葉を失うだろう」という言葉に笑ってしまいました。こういうのが、読了後、壁に投げつけたくなる本なのだろうな、と思います。私はそんなことしていませんし、本書に否定的ではありませんが。
 いわゆるメタ・ミステリで、さらにアンチ・ミステリ、というかたちですね。細々とした事件の真相など、「ミステリファン」が望む論理的な解決などないといってよいですし、ある一節の題にもなっているように、「解決のない解決」です。終章で、一応付け加えがありますが、複雑になるだけですし、最後の第2節などもう、本当に、言葉を失います。
 ただ、終章の第1節は面白かったです。笑えた、という意味でも、興味深い、という意味でも。いや、でも、やっていることを考えると、笑えるウェイトの方が大きいですね…。
 衒学的なギャグ小説、という言葉が浮かびました。終章第2節391頁「長々と読まされてきて、こんなオチではいけないのではないか」というところに、本書の全てが集約されているといっても過言ではないでしょう。一応、終章第1節が物語をそれなりの形にしてくれますが、それでもいろいろ分からないところが残りました。

   *
 さて。本格ミステリが好きな方は、本書を読んで腹が立つと思います。変格的なミステリも読んできた方は、また別の類似作品を思い浮かべるかもしれません。乾さんのデビュー作『Jの神話』といい、現段階で私が読んでいる作品は、正直、あまり胸をはって人にすすめられるような作品とはいえないです。でも『イニシエーション・ラブ』は面白いそうですし、いつか読んでみたいと思います。

***
追記です。
ある方から連絡をいただいて、本書に対する評価が変わりました。
やはり、多くの方に胸をはってすすめるには不向きだと思うのですが、本書のすごさを(なにより、乾さんのすごさを)実感しました。





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Last updated  2005.11.30 18:53:46
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