のぽねこミステリ館

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2005.12.03
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えんじ色心中

~講談社~

 フリーライターの僕に、マニュアル作成の仕事が入った。相手先はかなりの無理を言ってきているが、なんとか応えなければ、と僕はがんばる。しかし、フリーの仕事だけでは生活もままならない僕は、派遣の仕事もしていた。新しく紹介された職場の環境自体があまり好ましくなく、そして拘束時間も長かったため、マニュアル作成との兼ね合いとあわせて負担になっていき、僕はしだいに睡眠時間が削られていく。
 その頃、十六年前に起こった事件が、見直されていた。
 有名市立中学を目指す小学生。彼は有名進学塾に入った。彼はテレビのドキュメンタリーで取材されることになり、低落気味だった成績もどんどん上がり、彼は無事合格を果たした。しかし、進学後、彼は家庭内暴力をふるうようになり、やがて、殺された。事件直後、父親は自分が殺したと自供していたが、一審後、無罪を主張、マスコミにしきりに取り上げられるようになる。
   *
 有名進学塾に通っている僕だが、成績は悪くなるばかり。そんなとき、一人の女の子と出会う。彼女は、週末は塾のためにおばの家にとまっているという。いつしか、僕も、土曜日にはひんぱんにそこで過ごすようになっていく。

 真梨幸子さんの第二作です。デビュー作『孤虫症』の感想は こちら です。

 仕事におわれ、人間関係にも耐え、睡眠時間もけずり…。手料理をし、きちんとゴミ捨てもしていた彼の生活は、いつしかコンビニの惣菜での食生活・ゴミ捨てもままならない生活へと変わってしまいます。さらに、なんとも救われない方向に話が進んでいきます。そのあたり、少ししんどかったです。
 奇数の節が、社会人の「僕」の一人称で進むのですが、こちらには、十六年前の事件(西池袋事件)に関する記事が挿入されています。事件から半年後の、被害者となった少年たちの会話が印象に残っています。すごく冷めた目で社会や友人関係を見ていて。
 この第一章が、作品の大半で、ここでもやもや感がつのっていきます。ここが伏線になってるんだろうな、などと漠然と見当はつくのですが、どうにももやもやが拭えませんでした。ラストの2章(エピローグという章題にしてもかまわないと思ったのですが)はとても短く、こんな短さで1章でうえつけられたもやもや感が去るのか、とどきどきしながら(少し不安に)読みました。一応の説明はつけられるのですが、分かったような、分からなかったような、というのが正直なところです。
 時間的には、だいたい予想していたくらいの時間で読むことができたのですが、どうも読みが浅かったようで、もやもやが晴れてすっきりした、という感覚にはなりませんでした。
 本書の大きなテーマになっている受験戦争。身近に受験戦争(しかも、私立の中学受験です!)がなかったので、あんまりぴんときませんでした。塾が忙しい、という人もまわりにはそんなにいなかった覚えがありますし。だから私がむしろ興味深く読んだのは、本作で描かれた子どもたちの、親・あるいは大人たちへの視線です。これは、年齢的な意味の子どもももちろんですが、親子の関係の意味での子どもでもあります。
 考えすぎると長くなりそうなので、このあたりで。

トラックバック用リンクです。でこぽんさんの記事は こちら です。





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Last updated  2005.12.03 12:23:41
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