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2007.08.22
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Michel Pastoureau, "Les vertus du bois. Pour une histoire symbolique des materiaux"
Une histoire symbolique du Moyen Age occidental , Seuil, 2004, pp. 81-97.

 久々に、ミシェル・パストゥローの論文集『西洋中世の象徴の歴史』(目次は こちら )からの論文の紹介です。今回は、「材木の効力―材料の象徴の歴史のために」を紹介します。

 まず、訳語について。論文タイトルにあるboisは、木は木でも、材木としての木ですので、この記事では基本的に材木と訳しておくことにします。arbreは、材木をとるもとの樹木ですので、樹木と訳しておきます。
 では、論文の構成に沿って紹介していきます。

[序]
 本稿の問題関心は、中世の人々の信仰、感性、社会的慣行、象徴的実践の中で、材木は何を表象したか、ということです。そのためには、想像界、技術文化、経済状況など、多様な領域に関する資料を検討することが必要です。


生きている材料
 中世の文化にとって、材木は、生きている材料でした。気候の影響も受ければ、人間のように病気だってします。というんで、人間(あるいは動物)に近い材料と考えられました。
 この節では、材木/石、材木/金属、植物/動物の三つの対比が論じられます。
1)材木/石
 石は、材木と対照的に、不動、不変(あるいは永遠)を示します。
 興味深いのは、中世の迷信の中で、彫像が話したり、動いたり、血を流したりするのですが、そうした彫像というのは、木彫りの像なのだそうです。
 なお、火事が繰り返し起こっても、人々は長いこと木造建築を続けたそうです。木にかえて石を用いることは、政治的野心、政治的・経済的成功を示します一方で、象徴的価値の低下を意味したとか。
2)材木/金属
 金属は、地底に結びつけられ、火(=材木の大敵)で加工される、不気味で邪悪な、悪魔的な材料と考えられました。ここでは、材木を扱う大工と金属を扱う鍛冶屋も対比されます。
 鍛冶屋は、強く、社会に不可欠の存在ですが、鉄と火を用いる一種の魔術師と考えられました。一方、大工は、慎ましい存在でありながらも、高貴な材料を扱うことから、尊敬もされました。イエスの父親(ヨセフ)も、早い段階から大工とされています。
 大工は、あらゆる汚れを免れた職業で、同様に模範的な職業は中世には見られないといいます。
 なお、木は、金属の邪悪な性格を和らげ、金属の使用を正当化もしたといいます。たとえば、斧や鍬などは、鉄と木で作られていますね。

 ここの整理は簡単に、植物=浄/動物=不浄、という対比を指摘しておきます。

卓越した材料
 材木は、生きた、高貴な、あるいは浄といった性格から、卓越した材料と考えられました。
 この節では、その地理的差異、時代による変化を検討し、その変化を語彙により傍証します。
1)地理的差異
 北ヨーロッパ、あるいは北西ヨーロッパでは、木材は重要な位置を占めます。この地域では、木が豊富にあるため、イスラム圏などへの輸出、あるいはその地域で大量に材木を消費したそうです。

2)年代的変遷
 紀元千年頃から、大開墾運動、技術革新、<商業の復活>などにより、次第にヨーロッパの森の状況は悪化し、13世紀頃までに、主要な森が失われてしまったといいます。中世末期の経済的衰退は、材木の象徴的な価値の低下にもつながるとか。こうして、卓越した地位を失った材木に変わり、主要な位置を占めるのが、繊維でした。
 12~15世紀に、繊維産業はヨーロッパ経済の主要な原動力となります。また、その製品である布や衣服は、個人のアイデンティティを示す役割も果たすことから、社会的な象徴の中で繊維が重要な地位を占めるようになります。
3)語彙による傍証
 ラテン語のmateriaは、第一に建築用の材木を意味し、そして、一般に材料も意味します。
 他方、中世フランス語のetoffeは、12~13世紀には、なんであれ材料を示す、つまりラテン語materiaと同義でした。後に、etoffeはその意味を減らし、繊維を意味するようになります。16世紀には、etoffe=textile[繊維]となるとか。
 なお、産業革命期には、materia prima[第一の材料]の称号は、繊維にかわって金属がもつことになります。
 というんで、整理すると、卓越した材料は、材木(~12-13c)→繊維(15c頃)→金属(18c頃)と変遷したことになりますね。

木こりと炭焼き職人
 材木を扱う大工が尊敬されたことは、先にふれました。ところが、同じ材木を扱う職業でも、木こりと炭焼き職人は軽蔑されたといいます。
 木こりは、鉄と火花(=材木の敵)を扱う、森のcarnifex[刑吏]と考えられました。 13~19世紀の資料では、木こりは、生まれつきたぐいまれな力をもち、斧を必ずもち、村人と殆ど交際せず、畑荒らしなどをするときだけ森を出る盗人、として描かれているそうです。
 炭焼き職人は、森の大敵である火を扱うことから、木こりよりも非難され、「真に悪魔的」とみなされました。文学テクストは、炭焼き職人を、小柄で、黒く、毛深い…等と描写します。これは、社会階層の最下部の人間の典型的表現だとか。
 たしかに、炭は、ガラス製作などに不可欠でした。しかし、木炭作りは森の破壊につながることから、特に炭焼き職人が批判されたそうです。
 なお、後のイタリアには、カルボナリ[炭焼き党などと訳されます]という秘密結社が作られますが、中世の炭焼き職人は、そのように結社を作ることはなく、孤独に生きたといいます。
 中世の森は、不気味にして神秘的な空間でした。神あるいは悪魔を求めて、自然と接触するため、あるいは世界から逃れるため、隠修士、木こり、豚飼い、山賊などは森に入ったのでした。

斧とのこぎり
 この節では、木を切るための道具である斧とのこぎりの象徴について論じられます。
 斧は、道具であり武器でもあります。武器の中では槍と剣をしのぐ「高貴」な武器とみなされ、道具の中では最も正当だと考えられたそうです。
 道具としての斧は、象徴的な力を認められました。つまり、斧は、(何かを打ったり切ったりするとき、)雷のように光や火花を生み出すというのですね。そこから、豊穣という性格も認められたとか。
 一方、のこぎりは嫌悪されました。12世紀まで、史料は、のこぎりを拷問の道具として描くといいます。道具としても、高価だったり、手入れが大変だったりと、いろんな不満の胤があったといいます。
 また、のこぎりの軽蔑的な性格は、表象の世界にもうかがえます。ぎざぎざは、否定的な意味をもつ形でした。というんで、紋章や図像では、軽蔑されるべき人物を、ぎざぎざ模様をもつ存在として描いたといいます。

有益な樹木
 材木の象徴と、その材木のもとの樹木の象徴には関連があるのか、という問題関心から、本節と次節では、有益な樹木と有害な樹木について論じられます。
 有益な樹木としての代表は、ボダイジュtilleulです。その樹木は、樹液などが薬として用いられるなど、保護的な性格をもちました。というんで、教会の前に植えられたそうです。
 他方、ボダイジュからとれる材木は、軽く、加工しやすいという特徴もあり、彫刻や板張りによく用いられたといいます。では、ボダイジュの材木で作られた治癒聖人の像は、他の材木で造られた聖人像よりも、治癒効果があると思われたのでしょうか。こうした問題提起がなされます。
 他に、トネリコ、カバノキの事例が簡単にふれられます。

有害な樹木
 ここでは、イチイとクルミの木がとりあげられます。
 イチイは、荒れ地や泥炭層など、他の木が生えないところに、孤独に生え、「悪魔との契約で不死性を得た」かのような、常緑樹です。また、毒をもつことから、有毒で不気味な性格が強調されました。ラテン語taxus[イチイ]は、toxicum[毒]の概念を想起させたといいます。
 クルミの木も、有害な樹木とみなされました。その根の毒が、周辺の植物をだめにするというのですね。また、人間がクルミの木の下で寝ると、熱を出したり、悪魔におそわれたりすると考えられました。 6-7世紀のセビーリャのイシドルスは、その『語源録』の中で、nux[クルミ]とnocere[害する]の間に、直接的関係を見いだします(パストゥロー 「中世の象徴」 の語源の節を参照)。
 ただし、クルミの木は有害とみなされましたが、クルミの実や材木は有益なものとして用いられました。実は、薬や食料になりますし、材木は高級家具や彫刻に適していたといいます。

ーーー

 話として面白い論文でした。それにしても、パストゥローの論文はいろいろ読んできましたが、なんらかの結論をびしっと提示するというよりは、今後の研究を促すために、いろんな問題提起を行う性格の強い論文が多いように感じます。それだけ新しい領域を開拓しているということでしょうか。
 本稿では、卓越した材料の節の、主要な経済活動の変遷に沿って卓越した材料も変わっていくといった指摘が特に興味深かったです。材木を中心に、それに関わる職業や道具の象徴についてもふれているのも面白いですね。
 身近なモノや動植物に、こんな興味深い歴史があったのかと気付かせてくれる、それがパストゥロー氏の仕事全体についてもいいうる、魅力ですね。

※恥ずかしながら、一部誤読しておりました。イエスが大工の息子うんぬんの件ですが、マタイによる福音書13章55節に、「この人[イエス]は大工の息子ではないか」という記述もありますね。上の記事も訂正しておきました。





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Last updated  2008.07.12 18:20:59
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