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2008.07.05
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筒井康隆『幻想の未来』
~角川文庫、1987年36版(1971年初版)~

 筒井さんの短編集です。140頁をこえる表題作の他、9編の短編(ショート・ショート)が収録されています。まずは収録作を掲げた上で、印象に残った作品についてコメントを。

ーーー
「幻想の未来」
「ふたりの印度人」
「アフリカの血」
「姉弟」
「ラッパを吹く弟」

「ミスター・サンドマン」
「時の女神」
「模倣空間」
「白き異邦人」
ーーー

 なんといっても、表題作 「幻想の未来」 はすごい作品です。
 放射能で、地下にもぐった人々。何世代も地下で暮らしていた彼らの中には、地上に上がる者もいましたが、決して地下に帰ってくる人はいませんでした。やがてときは経ち、最後の人間が子どもを産みます。その子どもは、環境に適応し、植物に近い存在となっていました…。
 さらに時は経ち、「前意識紀」「分意識紀」など、いくつもの時代が過ぎていきます。その特徴は、意識が空間に存在している、ということです。過去の記憶、意識は、有機生命体の意識に働きかけ、彼(彼女)を導いたり、他の星からの訪問者に意思疎通を図ったりします。
 ありふれた言葉でいえば、人間(生物)が生きる意味、生きた意味を描く作品といえるのでしょうが、そのスケールは圧倒的です。
 最初の、ホモ・サピエンスが絶滅していく過程の描写は恐ろしくもありました。ところが、終盤、あるいはラストでは、優しさや救いも感じました。

 なお、この中の一部を独立させた 「血と肉の愛情」 という短編があります。こちらは、 『ベトナム観光公社』 に収録されています。

 その後の収録作品は短めの作品が多く、表題作よりは軽めの気持ちで読めます。これは面白い、と思ったのは 「アフリカの血」 。主人公にときどき現れる「顔」の正体が明かされてから、わくわくしながら読み進めました。
「姉妹」 はユーモラスな雰囲気ももつ一編。昼食のあとにすぐに横になったら牛になるよ、と私も言われて育ちましたが(いまでは、私自身が冗談で言うことがありますが)、本編では、本当に弟が牛になってしまいます。お姉さんの、「 およしなさいよ。どうして牛になんか…… 」という言葉がぐっときました。
 最後に収録されている 「白き異邦人」 は、どこか悲しくもあるのですが、救いもあるというか、読み終えた後に感慨深くなる作品でした。

 表題作だけでも読む価値ありです。良い読書体験でした。
(2008/07/04読了)





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Last updated  2008.07.05 08:32:21
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