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2009.10.06
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~勁草書房、1998年~

 土屋賢二先生の論文集です。西洋史の論文は多々読んできていますが、他分野の論文はまず読むことがないので、良い経験になりました。帯のとおり、「語り口は易しく水準は高く」ですが、しかしなじみの薄い分野の論文はなかなか難しいものです(単純に予備知識がないことで苦労します)。ですので、先に 『ツチヤ教授の哲学講義』 を読んで、多少なりとも予備知識や、土屋先生の考え方の方向性をつかんでおいたのが良かったと思いました。
 さて、前置きが長くなりましたが、まず、本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
はじめに

一 猫とロボットとモーツァルト二 存在は解明できるか
三 存在の問題の特殊性―ハイデガーとウィトゲンシュタイン―

五 何が知覚されるか―アリストテレスの答え
六 だれもいない森の中で木が倒れたら音が出るか―アリストテレスの解決
七 どうして分かるのか―赤色と行先

初出一覧
ーーー

 特に印象に残った章についてのみ、簡単に感想を書いておきます。

 表題論文「猫とロボットとモーツァルト」は、「芸術とは何か」という問題に関する考察です。ここでは、芸術の定義を与えるのではなく、芸術を理解して、芸術作品を生み出すロボットを作るにはどうすれば良いか、という観点から、芸術の性格を明らかにしていきます。まず、このアプローチから興味深いですね。
 タイトルにあるモーツァルトは有名な芸術家の例ですが、猫は、たとえば猫がピアノの鍵盤の上を歩くときに出す音がなぜ芸術と認められないか、という問題の例となっています。

 本書の中でもっとも興味深かったのは、第四章「時間とは何か」です。
 哲学のなかでいう時間は、「継起の順序、純粋持続(前後方向の延長)、過去・現在・未来の区別、運動が成り立つための条件など」という性格をもつという観念が、ほぼ常識として定着しているそうです。ところが、このように考えると、プラトンとアリストテレスの時間の観念がどうにも分からなくなる。では、二人は時間をどのように考えていたのか―それが、本稿の考察の対象となります。
 たとえばプラトンは、太陽、月、惑星が、時間を作った、と考えます。上の常識的な観念からいえば、太陽の運行がどうであれ、あるいはこうした天体が一切なくても、時間は存在しそうなものです。ではプラトンは、なぜそのように、時間よりも太陽、月、惑星が先に作られたと考えたのでしょうか。この問題についての先行研究を紹介しつつ、それらを批判した上で、土屋先生はきわめて「常識的」な解決を示しているように思います。それは、私たちが日常で時間を意識するのは、時計によって知られる時間によって、予定を立てたり、作業の経過時間を認識したりするときですが、プラトンは時間をまず第一にそういう意味での時間だと考えている、ということです。「時間があまりない」という用法で使われる意味での時間ですね。 ここでは、プラトンの時間観念を明らかにする部分のほんの一部だけを簡単に書いてみましたが、その論証の流れも説得力に富み、知的興奮が得られましたし、アリストテレスの時間観念を明らかにする部分もとても興味深かったです。


 なにぶん哲学初心者なので、これまでの研究史の流れも、こんにちの学会の研究動向も把握していませんが、土屋先生のようなアプローチは、近寄りがたい哲学がより身近に感じられ、また理解もしやすく、興味深いなぁと感じます。また、研究のスタンスという部分にも関わってきますが、難解な言葉を羅列するのではなく、哲学的に難しい問題も、易しい言葉で明らかにしていこうとされている姿勢に、とてもあこがれます。

 全てを理解できたとはいえませんが、興味深い1冊でした。

(2009/09/03読了)





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Last updated  2009.10.06 06:47:16
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