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2017.03.25
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~知泉書館、2014年~

 著者の安酸(やすかた)先生は北海学園大学人文学部教授。思想史の研究を進めてこられた方のようです。
 本書は、「終焉」したと過激なことも言われている人文学の意義を、あらためて考察する一冊。
 本書の構成は次のとおりです。([ ]内はのぽねこ補足)

―――
まえがき
[第1部]「人文学の歴史と現状」
01 「人文主義の終焉」―ペーター・スローターダイクの問題提起

03 パイデイアとヨーロッパ的教養の伝統
04 知識人の覚醒と大学の誕生
05 ルネサンス人文主義と「フマニタス研究」
06 「フンボルト理念」と近代的大学の思想
[第2部]人文学の諸相
07 人間と文化
08 言語と芸術
09 神話・宗教・祝祭
10 時間・記憶・歴史
11 原典と翻訳
12 文献学と解釈学

14 情報とメディア
15 新人文学/新人文主義のゆくえ
補遺 人文学研究とその方法

あとがき
人文学に関連する文化史年表

索引
―――

 第1部で、ギリシア時代から現代までの人文学の営み(あるいは人文学の位置づけ)を通史的に考察した後、第2部で、人文学の主要なテーマごとの考察を行うという構成です。

 まず、第1部で興味深かった点を2点メモしておきます。
 ひとつは、プラトンとアリストテレスの師弟関係のあり方について。アリストテレスは師のプラトンを尊敬していました。「しかし彼は師の教えをその枢要箇所において批判的に乗り越えようとした。学問上の師弟関係というものは、こういうものでなければならない……第一流の人に追随し、ただそれを真似るだけで独創性のない人のことを、われわれはエピゴーネンとか亜流と呼ぶが、アリストテレスのプラトンに対する関わり方は、まさにそれとは正反対のあり方である」(27頁)。いろんな場面で、肝に銘じておきたいです。
 ふたつめは、「フンボルト理念」について。それはひとことでいえば、大学とは研究と教育の一致の場、という理念です。さらに、昨今のわが国のある種の状況を顧みるためにも、次の言葉をかみしめたいです。「フンボルトは、近視眼的に実用主義的効用を重視する専門学校を軽視し、専門的な職業準備教育よりも一般陶冶をめざす教育を優先した。……一般的な人間形成が職業人形成に先行しなければならない」(73頁)。

 第2部は、それぞれのテーマを興味深く読みました。なかでも、翻訳に関する章や、図書館についての章は個人的な関心も高いので面白かったです。そして、最も印象的だったのは、「情報とメディア」の章での、「人文学の中核部分はデジタル化されることが困難であるように思う」(201頁)という指摘です。たしかに、辞書や百科事典のデジタル化は便利さをもたらしますが、人文学に不可欠な精読は、やはり冊子本の方が向いているのではないか。また、ディスプレイで読むのは「スポット的」に画面上の情報が知覚されるにすぎませんが、冊子本であれば、「開いたページ一面に掲載されている文字情報が、面として視角に入って」きます。たとえば、辞書を引いたとき、デジタルでは気になる語しか見えませんが、辞書を開けば、別の単語も多く目に入ってきて、そこから新たな語彙を増やすことも可能となるでしょう。自分自身がかなりアナログな人間だということもありますが、この指摘は勇気づけられるものがありました。

 気になった点の引用に終始した感がありますが、このあたりで。
 たいへん勉強になる一冊です。

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Last updated  2017.03.25 22:16:28
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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