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2017.04.08
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  • 金持ちの誕生.jpg


~刀水書房、2004年~


 久留米大学名誉教授、宮松先生による700頁近くにも及ぶ大著です。
 本書は、以前紹介した 『西欧ブルジュワジーの源流』 の続編にあたります。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
緒言と謝辞
凡例

第I部 金持ちの誕生
 第一章 金持ちとは誰か

 第三章 断罪の完成
 第四章 受難の時代
 第五章 金持ちの誕生
第II部 貨幣の時代
 第一章 物質的な特徴―貨幣経済の発展―
 第二章 精神的な特徴―新しい考え―
 第三章 金持ちの地理的特徴
 第四章 ヨーロッパの金持ちさん
 第五章 金持ちの生活
結論

あとがき

史料・文献目録
索引(地名・人名・事項)
―――

 本書の出発点は、非常に興味深い問題提起にあります。貧者を意味するラテン語pauperから派生したロマン語は現在も残っている(仏語:pauvre)のに、金持ちを意味するdivesはゲルマン語起源のricheに取って代わられたのはなぜか、という問いです。著者はその原因として、ローマ・カトリック世界の特殊性、そして人々の心性があるのではないかと仮説をたて、膨大な史料・資料に基づく本論に入っていきます。

 第I部は、古代ローマの主要な著述家から、12世紀の主要な著述家までの主な作品を読み解き、そこに現れる金持ちがどのような言葉で表され、またどのような位置づけがなされているかを丹念に分析します。

 特にこの流れを分かりやすく示すのが、第II部での議論ですが、「金持ちブール」の表記についてです。とりわけ農村地の、ブールという定住地のなかに、「金持ちブール」と形容されるブールがありました。最初期の記述では、「Dives Burgus」とdivesが用いられていたのが、次第にRichebourgと、richeの語に取って代わられる、というのですね。
 ただ、第I部第5章「金持ちの誕生」の中でも、否定的な意味ではなくdivesを用いている(divesの使用を避けていない)事例もいくつか見受けられます。本書では、その点に関する明確な説明はなされていないように思います。もちろん、莫大な史料にあたっている中では当然にそういう事例もありえるでしょうし、またそれぞれの著述家の心性の問題もあって、簡単には説明のできない問題だとは思います。

 第II部は、基本的には「金持ちの誕生」後の、金持ちの諸側面を描きます。第1章、第2章はその背景を描き、第3章、第4章は個別事例の紹介です。第5章は、金持ちの慈善活動や、ついには金持ちの中から聖人も輩出されるといった、興味深い事例を示します。
 一点だけ気になったのは、金持ちによる教会建立について、彼らの信仰心も大きな役割を果たしていたという記述です。もちろん、そうしたこともありえるのでしょうが、金持ちが称賛される場合は、そのお金の使い方が正しく使われる場合であったことは本書でも強調されています。また、不正にお金をもうけた者は地獄行きだと教会に脅されていたという点も考慮したとき、金持ちによる教会建立は、地獄行きを免れたいから行われたという説明もあり得ると思います。

 いくつか些細な疑問点をメモしましたが、本書は、たいへん綿密な分析に基づいた興味深い著作だと思います。
 個人的には、かつて本書のテーマに関する宮松先生御自身による講義を受けたことがあり、そういう意味でも思い入れの深い一冊です。
 本書の刊行当時に一度目を通していましたが、久々に再読できて良かったです。

 本書でも大きなテーマになっている渾名に関する研究(その一部は論文として発表されています)や、あとがきでふれられている『マビヨンと古文書学』が今後刊行されることを、楽しみにしています。

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Last updated  2017.04.08 15:12:04
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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