ミシェル・パストゥロー(蔵持不三也・城谷民世訳)『赤の歴史文化図鑑』
~原書房、 2018 年~
( Michel Pastoureau, Rouge. Histoire d’une couleur , Éditions du Seuil, Paris, 2016 )
ミシェル・パストゥロー の、青、黒、緑に続く「色の歴史」シリーズ第4弾です。黒と緑は邦訳は未完で英訳で読みましたが、赤は英訳にとりかかる前に邦訳が出たので、邦訳版で読みました。
本書の構成は次のとおりです。(章番号はのぽねこ補足、節見出しは省略。)
―――
序文
[ 第 1 章 ] 原初の色(始原から古代末期まで)
[ 第 2 章 ] 好まれる色( 6-14 世紀)
[ 第 3 章 ] 異議を申し立てられた色( 14-17 世紀)
[ 第 4 章 ] 危険な色?( 18-21 世紀)
原注
参考文献
謝辞
訳者あとがき
―――
火と血のイメージをもつ赤は、まずその強烈さで他の色にぬきんでいること、枢機卿や教皇もまとう高貴な色である一方、地獄を想起させる邪悪な色であり、たとえば裏切り者のユダが赤毛で描かれること、日常生活では化粧などの中で重要な役割を担っていることなど、原初から現代までの赤の歴史を、本書はその多面性や他の色との関係性から論じます。
面白かった点をメモしておきます。
プレスター・ジョン( 池上俊一『狼男伝説』
、 逸名作家 (
池上俊一訳 )
『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』
の記事を参照)の想像上の紋章が紹介されていること。金の地に赤いフタコブラクダです (76
頁 )
。
7つの大罪と色彩の結びつきが指摘されていること。赤は、高慢、憤怒、色欲、ときに貪欲と、4つの大罪に結びつけられている、といいます。貪欲は緑、嫉妬は黄色、残る怠惰には特定の色は結びつけられなかった(赤、黄色、まれに青)そうです。 (98
頁 )
レンブラントの有名な絵画、「夜警」(訳注によれば、本来の題名は「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊」)は、「ビチュームの透明絵の具が変色して黒ずんだため、夜の情景を描いたと信じられていたが、本当はそうではなく、じつは昼間の情景だった」 (114-115
頁 )
との指摘。ウィキペディアでもそのように説明されているので、あるいは有名なことなのかもしれませんが、私は初耳でした。せっかく面白い指摘なのに、典拠がないのが残念。
さいごに、ミシェル・パストゥローの近刊として、
Qu’est ce que la couleur? Trois essais en quete d’une definition
[
『色とは何か?定義に関する三つの試論』:のぽねこ拙訳 ]
という著作が予定されているとのこと。 (198
頁注 1)
本訳書の残念だったところは、まず邦題。本書は、「図鑑」からイメージされる書物ではないような気がします。青が筑摩書房から『青の歴史』のタイトルで刊行されているので、あえて『赤の歴史』としなかったのだろうと想像しますが…。
また、訳者あとがきに著者の多くの著作リスト(邦訳がないものも、原題、出版社、出版年、タイトルの試訳を示す。ただし全ての著作は網羅していません)があってとても有用なのですが、一点、
Pierre n’a plus peur du noir
が『石はもはや黒を恐れない』と訳されてしまっていること。これは、 2018
年に 『ピエールくんは黒がすき!』
のタイトルで邦訳も刊行されているパストゥローによる初の絵本です。ですので、 Pierre
は一般名詞の「石」ではなく、固有名詞の「ピエール」とするのが正しいですね。
この著作リストについていえば、邦訳が刊行されている著作については邦訳のタイトル、訳者、出版社、出版年も示してくれていてとても便利なのですが、一点、邦訳があるにもかかわらず示されていない著作があります。( Le petit livres des couleurs
: 松村恵理/松村剛訳『色をめぐる対話』柊風舎、 2007
年
)。
一方、本訳書の素晴らしいところは、『青の歴史』(筑摩書房)とは異なり、全ての図版がカラーであること。色彩を扱う書籍ということで、これは重要な点と思います。原著は未見ですが、少なくともレイアウトは英訳と同様で、本文と関連する図版がそばに配置されているのもありがたいです。
固有名詞など、適宜訳注が挿入されていて、理解も助けられます。
全体として読みやすく、丁寧に作られている邦訳書だと思います。個人的には英訳ではなく日本語で読めたので、圧倒的に読書時間が短縮できたのもありがたかったです。
大塚滋『食の文化史』 2026.06.13
甚野尚志『隠喩のなかの中世―西洋中世にお… 2026.05.24 コメント(2)
今野國雄『ヨーロッパ中世の心』 2026.05.10
Keyword Search
Comments