Phyllis Barzillay Roberts, Stephanus de Lingua-Tonante. Studies in the Sermons of Stephen Langton , Toronto, 1968
著者のロバーツはニューヨーク市立大学の名誉教授で、中世説教やトマス・ベケットに関する研究の領域で著名な研究者です。
本ブログでも、次の論文を紹介しています。
・ " Thomas Becket: The Construction and Deconstruction of a Saint from the Middle Ages to the Reformation", in Beverly Mayne Kienzle, Edith Wilks Dolnikowski, Rosemary Drage Hale, Darleen Pryds and Anne T. Thayer (eds.), Models of Holiness in Medieval Sermons , Louvain-la-Neuve, 1996 , pp. 1-22.
・ " Preaching in/and the Medieval City", in Jacqueline Hamesse, Beverly Mayne Kienzle, Debra L. Stoudt, Anne T. Thayer (eds.), Medieval Sermons and Society: Cloister, City, University , Louvain-la-Neuve, 1998 , pp. 151-164.
・ Medieval University Preaching: The Evidence in the Statutes, in ibid ., pp. 317-328.
特に上記の 1996
年論集のまえがきでは、中世説教研究におけるロバーツの重要性も指摘されています。また同まえがきによれば、本書は 1966
年のロバーツの博士論文がもととなっているようです。
本書の構成は次のとおりです。
―――
まえがき
写本略号
第1章 スティーヴン・ラングトンの生涯
第2章 説教師ラングトンとその説教
第3章 中世説教活動伝統におけるラングトンとその説教
第4章 説教作成者としてのラングトン
第5章 ラングトンの説教と聖書
第6章 ラングトン……生活の観察者そして鏡 vite speculator et speculum
結論
付録
・写本の分類 [ 第1グループ、第2グループ ]
・説教の分類
付録A 聴衆により分類された説教
付録B 教会暦による説教の配列
付録C ラングトンの主題の典拠(聖書)
付録D モンティブスのウィリアムとその著作に関するノート
付録E ラングトンの説教の種類と機会
付録F ラングトンの説教における典拠としての聖書
付録G 神学教師としてのラングトンの就任講義のテクスト
付録H ラングトンの説教における主な話題の索引
参考文献目録
一般索引
写本索引
―――
第1章は、本書の対象であるスティーヴン・ラングトンの経歴を描きます。 1155
年頃にイングランドに生まれ、 1170
頃から 1206
年までパリで学び、この時期に神学教師に就任、聖書の研究などで有名になります。 1206
年にはカンタベリの大司教に就任し、教皇とも良好な関係をもちますが、後に対立もあります。またイングランド王ジョンと対立し、 1215
年のマグナ・カルタ成立に関わることとなります。そして彼は、 1228
年に没します。
第2章は、説教師としてのラングトン像を描いた後、彼の説教が残された写本について論じます。ここでは、彼は卓越した説教活動で名声を博し、「雷鳴の舌 Lingua-Tonante 」とのあだ名を得たことをメモしておきます。
第3章は特に興味深く読んだ章のひとつです。初期中世からラングトンの時代までの説教活動の歴史を略述し、さらに聴衆や説教の言語、説教の場所といった一般的な状況を描きつつ、そうした一般的状況の中にラングトンがいかに位置づけられるかを示します。ラングトンは説教活動の重要性と説教師の果たすべき役割について、次のように述べています。「全ての説教師は三つのことをなさなければならない。彼は自分が語るべきことを事前に考えなければならない。自分自身にとってまた聴衆にとって自分が語ることが有用であるように神に祈らなければならない。彼はまた彼が語ることが、良き行いという模範によって満たされるように、良く生きなければならない」 (pp.63-64)
。
第4章は、説教の手順を概説した後、特に「例話」と「類似」という説教の中のテクニックについて論じます。二つのテクニックは、「その素朴さと単純さにより、聖書の教えを人々に補う」 (p.94)
といいます。
第5章は、本書でしばしば指摘される、説教活動と聖書研究の類似に焦点をあてます。その中で、民衆への説教活動では、神学研究ほどの難解なテーマを扱わないことなどが指摘されます。
第6章の章題は、第2章冒頭に紹介されるある年代記作者の言葉に由来します。すなわち、 [
人々の ]
生活の観察者にして、同時に鏡であり、人々に、彼らがどのような人々か、またどのようにならなければならないかを示す存在、という意味です (p.17)
。本章では、商人、農民などの「民衆」、聖職者や修道士たち、そして王や貴族などへのラングトンの眼差しが分析され、たいへん興味深く読みました。
記事の冒頭のほうでふれたように、中世説教の研究史上、ロバーツは重要な役割を果たしており、本書も多くの文献で参照されています。今回、通読することができて良かったです。
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