~刀水書房、 2013 年~
訳者の森田先生は日本女子大学名誉教授。スイス史をご専門にされており、『スイス―歴史から現代へ』(刀水書房、 1980 年)、『スイス中世都市史研究』(山川出版社、 1991 年)といった著作があります。また、『ルターの首引き猫―木版画で読む宗教改革―』(山川出版社、 1993 年)という有名な著作もあります。(以上、巻末の訳者紹介を参照。また、私は不勉強にしていずれの著作も未見。)
さて本書は、十字軍の歴史を通史的にたどりますが、単なる編年的な事件史ではありません。序文によれば、本書の「目的は十字軍の物語的歴史を書くのではなく、全体像の分析を簡潔であると同時に包括的に提供することである」 (4 頁 ) とされています。したがって、細かい事件については別の著作で補う必要はありますが、多くの先行研究や史料に基づいた通史的な整理を得るにはうってつけの一冊といえるでしょう。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序文
第1章 今、十字軍を学ぶ意味
第2章 東西両世界における十字軍運動の背景―教皇、騎士団、東地中海
第3章 十字軍と植民― 1095 ~ 1118 年頃まで
第4章 十字軍国家における政治と戦争― 1118 ~ 87 年
第5章 イスラームの反応― 1097 ~ 1193 年
第6章 十字軍社会
第7章 東方での回復とヨーロッパにおける新たなるチャレンジ― 1187 ~ 1216 年の十字軍運動
第8章 11 世紀から 13 世紀までのさまざまな十字軍運動
第9章 13 世紀の十字軍運動と十字軍国家― 1217 ~ 74 年
第 10 章 後期十字軍― 1274 ~ 1336 年
訳者あとがき
参考文献
系図
主要事件の年表
小伝記集
索引(人名、地名・事項、研究者名)
―――
読了からメモまでに時間が空いてしまったので、簡単にメモのみ残しておきます。
第1章では、コンスタブルの 2001 年の論文による、十字軍研究者の4つのグループを整理してくれています。平信徒の信心を強調する「大衆主義者」(アルファンデリ、デュプロンら)、「総合主義者」(エルトマン)、聖地への十字軍を重視する「伝統主義者」(マイヤー、リシャールら)、そして教皇による霊的報酬(聖地以外の地域も対象)を重視する「多元主義者」(ライリー=スミスら)です。図式的ではありますが、おおまかな概要が得られて有用な整理だと思います。
第2章は、デュビィらが提唱した、長子相続により土地が相続できなかった次男以下が十字軍運動に参加したという説を退けます。著者によれば、実際に次男・三男が十字軍戦士のなかで数が多いとは立証されておらず、また長子相続制より分割相続制が慣例であった地域での方が十字軍への反応が強かったとのことです (62
頁 )
。
第3章以下は基本通史的に描かれますが、第5章ではイスラーム側の反応が、第6章では東方に移住したキリスト教徒の社会の様相が描かれ、いずれも興味深いです。
各章の冒頭には、その章で論じられる内容が簡潔に示されており、便利です。また、小伝記集として主要な人物の略歴が紹介されていたり、訳者あとがきでは近年の十字軍関係の邦語文献を挙げてくれていたりと、ていねいな作りです。
ごくごく簡単なメモとなりましたが、このあたりで。
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