北村紗衣『批評の教室―チョウのように読み、ハチのように書く―』
~ちくま新書、 2021
年~
著者の北村先生は武蔵大学人文学部英米文化学科准教授。シェイクスピア、舞台芸術史を専門とされているほか、ウィキペディア編集にも力を入れており、以前「マツコの知らない世界」に出演されたこともあります。
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プロローグ 批評って何をするの?
第1章 精読する
第2章 分析する
第3章 書く
第4章 コミュニティをつくる―実践編
エピローグ
もっと学びたい人への読書案内
参考文献
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重要と思われた点をメモしておきます。
第1章は、批評の前提として、作品を読み込むことについて論じます。
・「作品タイトルから地名みたいなものまで、出てくる言葉の意味が全部わかっている、というのは読む上で最も基本的で、最も重要なことです」 (25
頁 )
。学生の頃の英語購読で辞書を引きまくったのを思い出すとともに、適当に読み流すこともある最近の自分の読み方を反省。
・「作品に間違った解釈がない」という主張は誤り。批評に唯一の正しい解釈は存在しないが、誤認や展開を正しく理解していないことなどによる「間違った解釈」は存在する。 (27-28
頁 )
ある批評家による「間違った解釈」の例示もあります。
第2章は、まずポストコロニアル批評、フェミニスト批評、新歴史主義批評などの批評理論について概観したのち、具体的な分析の手法として時系列を整理したり関係図を作成したりといった手法を紹介します。文学の中で語りの基準点よりも前の出来事に飛ぶのをフラッシュバック、未来の出来事に飛ぶのをフラッシュフォワードというそうですが (94
頁 )
、恥ずかしながら今回勉強になりました。
第3章は実際に批評を書いてみるということで、ごんぎつねを美食文学の観点から論じるという具体的な実践例も紹介されます。ここでは、その実践のため、作者の背景をたどり、その生地とうなぎの関係を洗い出すなど、批評にあたって関連する事項を丹念に調査することの重要性が指摘されます。批評は対象の作品を読むだけではできず、歴史的背景や関連するその他の物語なども押さえる必要がある、ということです。
第4章では、北村先生と学生さんが同じ映画を見て批評を書き、それぞれの批評にコメントを加え、かつ議論した様子が紹介されます。批評の具体例とさらなる「読み」の深化の実践が学べます。
本ブログでは本の紹介をメインにしていますが、本書を読むと至らなさに恥ずかしくなるような指摘もしばしばでした。が、本ブログは本書が紹介する「批評」ではないことをあらためて再認識し、自分の覚えのあらすじと、同じく覚えで感じたことや印象に残った点をメモする程度のもので、力まず細々と続けていきたいと思います。
(2021.10.30 読了 )
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