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グレーヴィチ(栗生沢猛夫・吉田俊則訳)『歴史学の革新―「アナール」学派との対話―』
~平凡社、 1990
年~
グレーヴィチによる理論的な論文5編を収録した日本オリジナルの論文集です。
本書の構成は次のとおりです。(参考として発表年を示します)
―――
序文 日本の読者へ
第1章 歴史学と歴史人類学 [1988
年 ]
第2章 マルク・ブロックと『歴史のための弁明』 [1986
年 ]
第3章 フランスにおける「新しい歴史学」 [1981
年 ]
第4章 歴史的事実とはなにか [1969
年 ]
第5章 歴史における一般法則と具体的法則性 [1965
年 ]
注
主要文献
編訳者あとがき
―――
発表年の新しい論文から古い順に収録されています。第1~3章は書名副題にもあるアナール学派に関する論考、第4~5章は歴史理論では伝統的な事実や法則といった問題を扱います。
第1章は、「歴史人類学こそがわが歴史学の発展の必然的、合法則的帰結であり、今日の歴史学が到達した諸問題の中心に位置する」 (22
頁 )
との大胆な発言もなされます。政治史を中心とした個性的・人間的なものから、社会史など超個性的・社会的なものへと歴史家の興味・関心が移ってきた中で、歴史人類学の課題や方法論などが論じられます。
第2章はマルク・ブロックの『歴史のための弁明』を中心に、ブロックの方法論やその意義を論じます。実際には、 『フランス農村史の基本性格』
『封建社会』『王の奇跡』などのブロックの実際の研究や、戦争に従事した経歴なども含めて、ブロックについて総合的に論じており、興味深く読みました。なお、マルク・ブロックの生涯や研究の意義については、 キャロル・フィンク(河原温訳)『マルク・ブロック―歴史のなかの生涯―』(平凡社、 1994
年)
と 二宮宏之『マルク・ブロックを読む』(岩波書店、 2005
年)
も重要です。
第3章は個人的に最も興味のあるテーマで、アナール学派の誕生の経緯や主な歴史家の研究について具体的な検討を加えています。たとえば、 デュビィの三身分論
や ジャン=クロード・シュミットの『聖なるグレーハウンド』
などがやや詳細に紹介され、批判も加えられています。また本章では、アナール学派には「明確に表明された理論が存在しないのみならず、この学派は、そもそも理論を断固として拒否している」 (113
頁 )
との指摘が興味深かったです。なお、アナール学派の概要については、 ピーター・バーク (
大津真作訳 )
『フランス歴史学革命―アナール学派 1929
- 89
年―』(岩波書店、 1992
年)
の記事にまとめています。
第4章は、そもそも研究動向の中で「歴史的事実」の意味する内容が変わってきたことを紹介したうえで、グレーヴィチ自身の定義 (166
頁 )
を提示しており、こちらも興味深く読みました。
第5章は今回はやや流し読みしたこともあり、省略します。
本書はかつて学生時分にゼミで読んだ一冊で、今回グレーヴィチの著作を2冊続けて読んできたこともあり、久々に手に取ってみました。懐かしい気持ちになりました。
という個人的な感慨はともかく、特に第2章でのマルク・ブロックについての概観と位置づけや第3章でのアナール学派に関する紹介と批判など、興味深くまた重要な論考も含む、良書だと思います。
編訳者あとがきで、グレーヴィチの略歴や、本書刊行時点でのグレーヴィチに関する邦語研究の紹介がなされており、こちらも参考になります。
(2021.09.27 読了 )
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