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2017.06.21
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(Carole Fink, Marc Bloch. A Life in History , Cambridge University Press, 1989)
~平凡社、1994年~


 著者のキャロル・フィンクは、本書刊行当時、ノース・キャロライナ大学ウィルミントン校歴史学教授で、専攻は現代ドイツ史、20世紀ヨーロッパ史(著者略歴より)。
 訳者の河原先生は西洋中世の都市史を専門にされていて、本ブログでも次の著作を紹介したことがあります。
河原温『都市の創造力(ヨーロッパの中世2)』岩波書店、2009年
河原温/堀越宏一『図説 中世ヨーロッパの暮らし』河出書房新社、2015年
 さて本書は、キャロル・フィンクによる、アナール学派の創始者の一人マルク・ブロックに関する「最初の伝記」です(6頁)。書簡など、主として未刊行資料に基づき、彼の研究活動、二度の世界大戦の経験といった経歴や、位置づけを浮き彫りにしていく試みとなっています。
 本書の構成は次の通りです。

―――

図版作成・提供・所蔵者一覧


第二章 教育
第三章 若き歴史家
第四章 第一次世界大戦
第五章 ストラスブール
第六章 「人間の歴史」
第七章 『アナール』誌
第八章 パリ
第九章 奇妙な敗北
第十章 ヴィシー
第十一章 ナルボンヌ
第十二章 遺産


訳者あとがき
資料に関する注記
マルク・ブロックの出版物の主要文献目録

原注
索引


 それぞれの時期に、マルク・ブロックがどういった活動をしていたかを描くとともに、その時期に彼が著した研究の内容・位置づけを論じる構成となっています。
 以下、レジュメ風にまとめておきます。
 第一章:1793年、ブロックの曾祖父ガブリエルが現れる最初の記録~1923年、父ギュスターヴ・ブロック(1848-1923)の死まで。ギュスターヴはローマの行政史を専門にされていたそうで、ローマ・フランス学院創建期にそこに在籍していたそうです。ギュスターヴは1878年にサラ・エプステインと結婚、1886年に次男としてマルク・ブロックが生まれます。
 第二章:1886年の誕生から1908年までの、教育を受けていた時期を描きます。マルクはエリートのためのリセを好成績で卒業、高等師範学校に入学し、ここでも優秀な人物でした。本章は、同時代の歴史学を取り巻く状況、たとえばアンリ・ピレンヌの業績、『アナール』に影響を与える『地理学年報』、デュルケーム創刊の『社会学年報』についてふれています。
 第三章:1908年~1914年。フルタイムの研究者として、農奴制をテーマにした博士論文を準備し、1913年にリセに移ります。
 第四章:1914年~1918年、マルク・ブロックは第一次世界大戦に従軍します。ブロックの活躍はめざましく、この時期に4つの勲章を受けたそうです。
 第五章:1919年~1923年、戦後ストラスブール大学に就任し、教育を行う時期です。マルクは、何人かの学生には、「辛辣な、厳しすぎる教師として記憶」されるほど、厳格な教育を行ったそうです。一方、彼を師とした学生には、「寛大で鋭敏な師となり、彼らの仕事の発展ばかりでなく彼らとその家族の安寧についてまで気を配っていた」そうです。ブロックは1919年、シモーヌと結婚、1930年までに6人の子をもうけます。また本章は、彼の博士論文『国王と農奴』について論じます。
 第六章:1923年の国際的なデビューから1931年まで。ここでは、二つの主著『王の奇跡』と 『フランス農村史の基本性格』 が紹介されます。
 第七章:1921年~1939年、『アナール』(当初は『社会経済史年報』)創刊前夜から、戦時中に『社会史年報』と改称されるまで。リュシアン・フェーヴル(1878-1956)とマルク・ブロックは、1921年には既に雑誌刊行の決意を固めていました(アンリ・ピレンヌに編集長のポストを提案したものの、ピレンヌは自身の著述と教育の責務を理由に辞退したそうです)。1929年、二人の野心的な試みである『アナール』が創刊しますが、1934年頃から、二人のあいだに摩擦が生じ始めます。本章は、初期『アナール』の寄稿者や論文、書評などの特徴を描いており興味深いです。
 第八章:1930年頃~1939年。ブロックはパリでポストを得ようとしますが、なかなかうまくいかなかったことが示されます。ここでは主著『封建社会』についても論じられます。
 第九章:1939年~1940年。第二次世界大戦に従事、ここでブロックは死後公刊される『奇妙な敗北』を執筆します。
 第十章:1940年~1942年。ユダヤ人に対する規制が強化されていき、ブロックにもその波は寄せてきます。アメリカでポストを得ようとするも、失敗に終わります。
 第十一章:1942年~1944年。ブロックはレジスタンスに参加、1944年3月に逮捕され、6月に処刑されます。家族をその死を確認したのは、1944年11月初旬のことでした。
 第十二章:没後、マルク・ブロックが歴史学、そして社会に与えた影響。彼の諸論文が論文集として刊行されたり、『奇妙な敗北』が公刊されたり、未完の『歴史のための弁明』が刊行されたりする時期です。

 フランス人として生きたブロックですが、晩年はユダヤ人としてとらえられ、当時のフランス政権に殺されることとなります。彼が歴史学に与えた影響もさることながら、その生き方にも感銘を受けます。

 なお、マルク・ブロックを論じた著書として、本書のほかに 二宮宏之『マルク・ブロックを読む』岩波書店、2005年 があります。

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Last updated  2017.06.21 22:22:58
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