筒井康隆『美藝公』
~文春文庫、 1985
年~
筒井康隆さんによる長編小説。
日本が映画産業で大成し、各国に映画を輸出している…そういう世界での物語です。
主人公は、映画脚本家のおれ―里井勝夫さんです。彼は、「全国民のアイドルでありスーパー・スタアであると言われ」る美藝公・穂高小四郎の友人にして、手がけた数々の映画をヒットさせた名脚本家です。
新人作家の作品「炭鉱」を映画にすることに決まり、美藝公をふくめそのブレーンたちで詳細を練っていきながら、国に働きかけ炭鉱業の国営化と強靭化を働きかけ、撮影の準備を進めていきます。
炭鉱事故での美藝公たちの奮闘(撮影に臨み彼らがどれだけ努力していたか)、試写会での関係者の感動、幸せすぎるこの世界に疑問を抱き、もうひとつの世界を空想しブレーンたちと共有する里井さんと、これらのシーンは特に感動でした。
また、里井さんと世界的な女優との恋。これを、(作中の世界はこの現世界とは違うので)マスコミが騒ぎ立てることはありません。また、重要な映画の構想などについても、マスコミたちはきちんと配慮して報道します。一方、里井さんが空想し、ブレーンたちが具体的なイメージを膨らませるもうひとつの世界では、日本は資本主義・平等主義で、スターやアイドルへの尊敬はなく、むしろ人々は彼らを侮辱し、マスコミはスキャンダルを暴きたて、人々の文化的教養も低いレベルになっていきます。今ある世界とは異なる世界について本気で議論し肉付けしていくブレーンたちの教養の高さがすさまじいものを持っています。
これは面白かったです。良い読書体験でした。
(2021.12.31 読了 )
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