遠山茂樹『ロビン・フッドの森―中世イギリス森林史への誘い―』
~刀水書房、 2022
年~
刀水書房の「世界史の鏡」シリーズの1冊。同シリーズで、本書と同じく「E 環境」のテーマの書籍として、次の2冊が既刊です(いずれも本ブログで紹介)。
池上俊一『森と川―歴史を潤す自然の恵み―』刀水書房、 2010
年
・ 石弘之『歴史を変えた火山噴火―自然災害の環境史―』刀水書房、 2012
年
著者の遠山先生は、東北公益文科大学名誉教授。『東北公益文科大学総合研究論集』に多くの論文や書評を発表されていて、機関リポジトリから無料で読むことができます (CiNii
からリンクあり )
。
さて本書は、ロビン・フッドに代表される森のアウトローの観点を中心に、主に中世イングランドの森林史について、すでに発表された論文を踏まえながらも平易に語る一冊です。
本書の構成は次のとおりです。
―――
まえがき
第1章 ロビン・フッド物語
第2章 ガメリン物語
第3章 森と兎
第4章 ニューフォレストのミステリ
第5章 「森の町」ウッドストック
第6章 マグナ・カルタと御料林憲章
第7章 グロウヴリィの森
あとがき
参考文献
図版出典
付録1 イングランド王家の系図
付録2 中世イングランドの御料林
―――
第1章は、ロビン・フッド物語の中でも最も鮮やかにそのアウトローの原像を描いているといわれる『ロビン・フッドの武勲』に着目し、主にその成立年代をめぐる研究史を整理します。同時代の他の史料に現れるロビン・フッドの名や制度など、先行研究が根拠とする史料にも目配りしながら、様々な説を紹介します。
第2章は、ロビン・フッド物語に影響を与えたガメリン物語を取り上げ、その概要をたどりながら、レスリングや裁判制度など、物語に描かれるテーマについて、同時代の状況も解説します。
第3章は、御料林制度や、森で狩りの対象となった主要な動物である鹿や兎について、その狩猟方法などを概観します。御料林に指定された地域では、「住民の生活よりも鹿のそれが優先され、村人の一部が追放された」 (81
頁 )
ような事例もあるようです。
第4章は、狩りの最中に矢を受けて亡くなったウィリアム2世(ルーファス=赤顔王)の死をめぐる研究史の整理です。邪悪なイメージが持たれたルーファスの死は天罰だったという史料の叙述や、事故死説、さらには同時代の様々な背景から、綿密に計画された殺人だったという説など、タイトルに「ミステリ」とあるように興味深い説が紹介されます。
第5章は、パーク(中世では主に鹿狩りを行うための猟園を意味)の概観や、最古の御料林法とされるウッドストック法の内容についての議論です。
第6章は有名なマグナ・カルタの中の御料林関連規定と、その派生物といえる御料林憲章の内容に概要や関連するテーマについての議論です。ここでは、悪事をはたらいていた御料林の長官の事例が興味深かったです。
第7章は、グロウヴリィの森を取り上げ、中世において森林伐採などで「持続可能な」仕組みがなされていたという興味深い指摘や、王の御料林であったその森が伯に移譲されたのち、もともとの権利をはく奪されたと近隣住民が抗議し、またその権利に関する祭が現在も行われているという事例を紹介します。
以上、ごく簡単なメモとなりましたが、語り口も平易で、興味深く読んだ一冊です。
(2022.07.20 読了 )
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