ギー・テスタス/ジャン・テスタス(安斎和雄訳)『異端審問』
~白水社文庫クセジュ、 1974
年~
Guy Testas et Jean Testas, L’inquisition
, Press Universitaires de France, 1966
)
訳者まえがきによれば、著者はおそらくスペインのカトリック系の兄弟で、文庫クセジュに『闘牛』(邦訳未刊)という著作もあるそうです。
本書の構成は次のとおりです。
―――
訳者まえがき
はしがき
第1章 異端審問所の起源
第2章 ヨーロッパの異端審問所
第3章 宗教裁判のやり方
第4章 宗教改革以前の異端審問
第5章 スペインの異端審問
第6章 ラテン・アメリカの異端審問
結語
訳注
―――
第1章は、特に 12
世紀から盛んになった異端活動に対する教会の対応を論じます。ここでは、 1231
年2月に公布された「異端者取締法規」の中で、査察人を意味していた inquisitor
の語が、おそらくはじめて「異端審問官」の意味で用いられたという指摘が勉強になりました (18
頁 )
。
第2章は、イタリア、フランス、スペイン、ドイツと国別に異端審問所の状況を概観。
第3章は、異端者をあぶりだし、その自白を得る方法や、その後の刑罰など、諸々の手続きについて概観します。冒頭にも書きましたが、本章でも、「その方法、その過酷さは、われわれにはとてつもなく恐ろしく残忍に思われる。しかし、この描写には多少の手心を加えたほうがよかろう。なぜなら、……その蔭でなされた手加減は分からないからである。……慈悲を求めて訴えられた多くの請願を考慮に入れたことや、あまりに残忍な裁判官は免職されたこと、無罪放免というケースは一般に考えられているほど例外的ではなかったこと、などを忘れてはならないであろう」 (55
頁 )
と、残酷さを過度に強調する態度からは距離を置いていることがうかがえます。
第4章は、異端審問の対象とされたヴァルド派やユダヤ人、そして悪魔に関する議論についてみていきます。
第5章は主に 15
世紀以降のスペインにおける異端審問の状況を、第6章は 16
世紀以降のラテン・アメリカ世界での異端審問の状況を概観します。第6章では、ラテン・アメリカに渡った聖職者の中には金儲けを目当てにしていた人たちもいたと、そうした聖職者への批判も紹介されていて興味深かったです。
いわゆる中世ヨーロッパだけでなく、近世のアメリカ大陸の状況までも俯瞰した視野の広い論述で、個人的には専門領域以外の記述が多くなじみが薄かったこともありやや流し読みになりつつも、勉強になる点も多い1冊でした。
(2024.12.18 読了 )
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