ロベール・ドロール (
桐村泰次訳 )
『中世ヨーロッパ生活誌』
~論創社、 2014
年~
Robert Delort, Le Moyen Age: Histoire illustrée de la vie quotidienne
, Paris, 1972; Robert Delort, La vie au Moyen Age
, Paris, 1982
著者のロベール・ドロールは理学士でもある、中世史を専門とする歴史学者で、本書のほかに、次の著作の邦訳があります。
・ロベール・ドロール (
長谷川明/池田啓監修 )
『象の物語―神話から現代まで―』創元社、 1993
年
・ロベール・ドロール (
桃木暁子訳 )
『動物の歴史』みすず書房、 1998
年
・ロベール・ドロール/フランソワ・ワルテール(桃木暁子/門脇仁訳)『環境の歴史―ヨーロッパ、原初から現代まで―』みすず書房、 2007
年
本書は、訳者あとがきによれば、豊富な図版入りの 1972
版に加筆修正した 1982
版を底本としつつ、一部 1972
版の記述や図版を収録した訳書です。
本書の構成は次のとおりです。
―――
はじめに
第3版への序
第1章 人間と環境
第2章 精神構造と社会生活
第3章 働く人々―農民
第4章 戦う人々―騎士たち
第5章 祈る人々―僧たち
第6章 都市の世界―商人・職人・ブルジョワ
結び
訳者あとがき
参考文献
略年表
索引
―――
『動物の歴史』『環境の歴史』の著者であることからもうかがえますが、第1章は、本書の舞台となる中世ヨーロッパの環境面に関する概説です。気候、動植物をはじめ、人間の技術、衣食住、病や死亡率など、幅広いテーマが簡明に描かれます。 1000
年~ 1300
年の人口推移(推計)の掲載もあり、興味深いです。
第2章は、時間、暦、数・形・動物などの象徴、日常生活、法観念など、当時の精神面を中心に論じます。ここでは、人口などの数字について「不正確」な記録が残っている一方、イープルで市民 20
万人と書かれた記録について、それは愛国心の表れであり、研究者が当時の記録を頼りに「4万人」と推定できたことを受けて、実際には正確に市民の人数は把握されており、「数の合理的な使い方を歪めさせているのは、むしろ神話的嗜好であって、「中世的精神の曖昧さ」などと安易に結論づけるべきではない」 (93
頁 )
との言葉が印象的でした。
さて、第2章末尾で、ドロールは「祈る人」「戦う人」「働く人」の3身分論について論じ、これを受け、第3章から第5章まではそれぞれの身分・職分に関する詳細な議論となっています。そして第6章は、3身分論の範疇におさまらない「都市」を取り上げ、 14-15
世紀には「神が望みたもうた《身分秩序》による社会は、決定的に粉砕された」 (402
頁 )
と述べます。私の印象にしかすぎませんが、ドロールは中世を3身分論の社会からそれが維持できなくなる時代への流れと捉えているかのように思われました。
以上、訳文も基本的には読みやすく、議論の流れも明解で分かりやすいです。
一方、いくつか気になる訳語も見受けられ、特に「僧」、「寺院」、「法王」はそれぞれ、「聖職者」もしくは「修道士」、「聖堂」、「教皇」が適当かと思います。
さて、本書底本の 1982
版はかつて学生時代に講読の授業で一部を読んだことがあり、またロベール・ドロールの上掲邦訳書に触れてきたこともあり、全体を読んでみたいと思っていました。邦訳刊行を知ってからもなかなか手に取れていなかったので、このたび通読できて良かったです。
(2025.03.11 読了 )
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