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2025.05.10
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​ヘルマン・ヘッセ(林部圭一訳)『ヘッセの中世説話集』
~白水社、 1994 年~
Hermann Hesse, Geschichten aus dem Mittelalter , Frankfurt am Main, 1976

 本書は、ヘルマン・ヘッセ( 1877-1962 )が、中世の説話集(例話集)の中でも名高い、ハイステルバハのカエサリウス『奇跡についての対話』と、著者不詳の『ゲスタ・ロマノールム』の2作から、前者については自身が編訳、後者については 1842 年のグラセによる翻訳から選んだ物語を収録した作品です。
 本書の構成は次のとおりです。( [ ] 内はのぽねこメモ)

―――
はじめに [ ヘルマン・ヘッセ。 1941 ]
ハイスターバハのカエサリウスの『奇跡のついての対話』より [24 ]
『ローマ人行状記より』 [12 ]

訳者あとがき
―――

 アンソロジーなので、個々の話についての紹介は省略しますが、それでもまず、1話ずつくらい、面白かった話をメモしておきます。
 『奇跡についての対話』では、修道院長が説教しているときに、多くの人たちが眠っていることに気付き、アーサー王の話をしようとするとみんなが目を覚ました、という逸話があります。
 また、『ゲスタ・ロマノールム』は、同作の中でも最も長い物語「アポロニウス王」が印象的です。妻との出会い、娘の誕生、2人との離別などなど、様々な出来事に翻弄されるアポロニウスを待ち受ける結末に注目です。
 以下では本書がとりあげている2作についてメモしておきます。
 ハイステルバハのカエサリウス (c.1180-1240) は、おそらくケルンに生まれ、 1200 年頃にハイステルバハ修道院に入り、修練長をつとめます。その主著『奇跡についての対話』 (1229-1223) は、修練長と修練士(修道院に来て1年目の、まだ正式に修道士になる前の人たち)の対話の形式で、修練長が、自身が聞いたという例話を聞かせ、教訓を伝えるという作品で、最初期の「例話集」 exempla の1つです。
『ゲスタ・ロマノールム』は 14 世紀はじめ頃に成立した作者不詳の逸話集で、私が勉強してきているジャック・ド・ヴィトリ( 1160/70 -1240 )の例話からも引用しています。本書にも収録されている、理不尽な状況を見て嘆き、俗世に戻ろうとした隠者に天使が同行することになるのですが、道中、天使が(隠者の目には)理不尽なこと(優しく宿を提供してくれた人からはカップを盗み、ひどいもてなしをする人にそれをあげるなど)を繰り返す、という話(第4
話)は、元ネタはジャック・ド・ヴィトリが説教集に挿入した例話です。

Victoria Smirnova, Medieval Exempla in Transition. Caesarius of Heisterbach's Dialogus miraculorum and Its Readers , Collegeville, Cistercian Publications, 2023 を読む中で(記事は書けるかどうか…)、同書 pp. 257-258 に、ヘッセが『奇跡についての対話』を編訳していることを知り、さらに調べて今回取り上げた邦訳書に辿り着いて、このたび読んだ次第です。ヘッセが中世の物語に向けたまなざしに触れられるという点で、中世に関心のある向きだけでなく、ヘッセやドイツ文学に関心のある方にも参考となる1冊と思われます。

 この記事を書くにあたり、ヘッセの生涯などについて次を参考にしました。
(1)ヘッセについて
・ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)『車輪の下』新潮文庫、 1985 年改版所収の高橋健二氏による解説( 221-242 頁)と年譜( 243-246 頁)
(2)ハイステルバハのカエサリウス、『奇跡についての対話』について
・大貫俊夫「中世ヨーロッパの修道院における看取り―ハイスターバッハのカエサリウス『奇跡についての対話』を手がかりに―」本村昌文他編『老い―人文学・ケアの現場・老年学』ポラーノ出版、 2019 年、 333-350
・​ 杉崎泰一郎『 12 世紀の修道院と社会』原書房、 1999 ​、 83-116 頁「司牧活動としての奇跡物語―亡霊譚を中心に―」
・ハイスターバッハのカエサリウス ( 丑田弘忍訳 ) 『『奇跡についての対話、第一部~第六部』』自費出版、 2023
・ハイスターバッハのカエサリウス ( 丑田弘忍訳 ) 『『奇跡についての対話、第七部~第十二部』『奇跡についての八巻』』自費出版、 2023
(3)『ゲスタ・ロマノールム』について
・伊藤正義 ( ) 『ゲスタ・ロマノールム』篠崎書林、 1988
(4)例話一般、その他
・​ アローン・ Ya ・グレーヴィチ ( 中沢敦夫訳 ) 『同時代人の見た中世ヨーロッパ― 13 世紀の例話―』平凡社、 1995
・​ Claude Bremond, Jacques Le Goff, et Jean-Claude Schmitt, L'«exemplum» (Typologie des sources du Moyen Âge occidental, fasc. 40) 2e éd., Turnhout, Brepols, 1996

Thomas Frederick Crane, The exempla or illustrative stories from the Sermones vulgares of Jacques de Vitry , London, 1890

(2025.02.20 読了 )

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Last updated  2025.05.10 15:29:25
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