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2025.07.13
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図師宣忠/中村敦子/西岡健司(編)『史料と旅する中世ヨーロッパ』
~ミネルヴァ書房、 2025 年~


 本書は、高校世界史の教科書や概説書で記述される通説の裏にある、「史料を分析し、議論を通じて歴史像を作りあげてきた歴史家たちの積み重ね」 (2 ) に焦点を当て、いくつかのテーマを取り上げて通説と史料の読解を提示する興味深い1冊です。
 各章は、「概説」「史料と読み解き」「ワーク」で構成されています。まず、教科書などの記述を具体的に見て通説を確認し、次いでそのテーマに関する主要史料の確認と具体的な読み解きを試み、さいごにさらなる学びに向けて「ワーク」として課題を提示するという、分かりやすい構成です。
 編者の1人、図師先生については、以下の著作を紹介したことがあります。
・​ 図師宣忠『エーコ『薔薇の名前』―迷宮をめぐる<はてしない物語―』慶応義塾大学出版会、 2021

 前置きが長くなりましたが、本書の構成は次のとおりです。

―――
 序章 図師宣忠・中村敦子・西岡健司「史料を紐解き、過去の世界に旅しよう」
第1部 権威と統治
 第1章 中村敦子「王は「強かった」のか?―ノルマン征服とウィリアム征服王―」
 第2章 小林功「イコノクラスムのはじまりとレオン3世―8世紀のビザンツ帝国をとりまく世界―」
 第3章 藤井真生「聖性・儀礼・象徴―中世後期チェコの国王戴冠式式次第より―」
 史料への扉1 松本涼「アイスランド・サガ―過去の真実を物語る」
 史料への扉2 上柿智生「史料としてのビザンツ文学」
第2部 教会と社会
 第4章 西岡健司「辺境にみる西欧カトリック世界― 13 世紀スコットランドの一証書を通して―」
 第5章 図師宣忠「正統と異端のはざまで―南フランスの異端審問記録にみる信仰のかたち―」
 第6章 轟木広太郎「魔女裁判って中世ですよね?―例話集にみる魔術と悪魔―」
 第7章 櫻井康人「「十字軍」とは何か?― 12 世紀の公会議・教会会議決議録より―」
 史料への扉3 中田恵理子「社会を通して大学を、大学を通して社会を読む」
第3部 都市と農村
 第8章 青谷秀紀「都市と領主の付き合い方―中世のフランドル地方をめぐって―」
 第9章 佐藤公美「つながり合う都市―ロンバルディア同盟にみる「都市同盟」の意味―」
 第 10 章 髙田京比子「都市と農村のあいだ―北イタリア・バッサーノの条例集にみる自治―」
 第 11 章 田中俊之「抑圧された農民?―中世ドイツの農村社会―」
 史料への扉4 高田良太「公証人記録―名もなき人々の生きた痕跡を探る―」

付録 中世ヨーロッパに関する史料の和訳図書リスト
索引
執筆者紹介
―――

 第1章は、王の権力とはなにか、という問題を取り上げ、証書史料の証人リストの存在から、「強力な王権」といわれる王も自由に物事を決定できたわけではなく、複数の有力者の承認が必要であったことを指摘します。
 第2章は2つの歴史書を比較し、イコノクラスム(聖像破壊)の実態に迫ろうとします。
 第3章は戴冠式の式次第を史料として、聖性・儀礼・象徴の一端を明らかにします。
 第4章は、スコットランドで生じた争いに関する証書史料を取り上げ、教会や修道院の状況をみます。
 第5章は、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリによる『モンタイユー』でも主要史料とされる、ジャック・フルニエによる異端審問記録の分析から、異端とされた人々の考え方や、異端審問者たちの手続きを論じます。
 第6章はタイトルが挑戦的で好みですが、魔女裁判の最盛期は 16 世紀後半から 17 世紀前半にかけて、つまり近世的な出来事であることを冒頭で指摘し、また中世では魔術を行う人は寛容に扱われていたと述べた上で、ハイステルバハのカエサリウスによる例話集『奇跡についての対話』を史料として、中世における悪魔・魔術への態度をみます。ここでは、聖職者が悪魔を呼び出す例話も紹介されていて、興味深く読みました。(この例話集については、たとえば​ Victoria Smirnova, Marie Anne Polo de Beaulieu and Jacques Berlioz (eds.), The Art of Cistercian Persuasion in the Middle Ages and Beyound. Caesarius of Heisterbach's Dialogus on Miracles and its Reception , Leiden-Boston, Brill, 2015
を参照)。
 第7章は、公会議・教会会議の史料から、十字軍の本質、目的と対象を指摘します。その本質を「贖罪」とする点や、聖地十字軍と非聖地十字軍が同列に扱われたわけではないとする指摘を史料から導く鮮やかさが印象的です。
 第8章以下は、都市と領主、都市と農村、農民と領主の関係などを扱います。編年誌からフランドル地方の都市・君主間の関係などをみる第8章、ロンバルディア同盟とハンザ同盟が教科書では同列的に扱われるが、実際はどうかをロンバルディア同盟に着目して論じ、また多くの問題提起を行い歴史研究の奥深さを示す第9章、条例を史料として都市・農村間の関係と都市の自治のあり方を論じる第 10 章、様々な史料から農民の主体的な行動を明らかにする第 11 章と、いずれも興味深く読みました。(序章でも、各章の難易度は一様ではないと指摘されていますが、やや難度が高めの章が多い印象でした。)
 4つの「史料への扉」は、それぞれ記載の史料に関するコラム。
 付録の、邦訳史料一覧も大変便利です。
 最新の教科書での通説や、歴史学の営みの一端に触れられる興味深い1冊です。

(2025.04.25 読了 )

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Last updated  2025.07.13 08:52:30
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のぽねこ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) スパイシーチューリップさんへ コメント…
スパイシーチューリップ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) 流行りましたね!キラキラ系、あまり知ら…
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