図師宣忠『エーコ『薔薇の名前』―迷宮をめぐる<はてしない物語―』
~慶応義塾大学出版会、 2021
年~
著者の図師先生は近畿大学文芸学部准教授。中世の、主に南仏の歴史を専門とされています。
・「中世南フランスにおける誓約の場―トゥールーズ伯領のフランス王領への編入から―」『都市文化研究』 4
、 2004
年、 73-86
頁
・「マニュスクリプトの「旅」―大英図書館に眠る中世南フランスの異端審問記録―」『都市文化研究』 5
、 2005
年、 84-87
頁
・「中世盛期トゥールーズにおけるカルチュレールの編纂と都市の法文化」『史林』 90-2
、 2007
年、 30-62
頁
・「 13
世紀都市トゥールーズにおける「異端」の抑圧と文書利用―王権・都市・異端審問の対立と交渉の諸相―」『史林』 95-1
、 2012
年、 74-109
頁
・「西欧中世におけるキリスト教の異端」『歴史と地理 世界史の研究』 247
、 2016
年、 43-46
頁
以上のように、異端などのテーマについて、特に文書利用といった観点からの興味深い研究を進めていらっしゃいます。
また、 ジャイルズ・コンスタブル(高山博監訳/小澤実ほか訳)『十二世紀宗教改革―修道制の刷新と西洋中世社会―』慶応大学出版会、 2014
年
の訳者の一人でもいらっしゃいます。
さて、本書は、記号学者ウンベルト・エーコの小説のデビュー作『薔薇の名前』( 上
・ 下
)を取り上げ、そこから見えてくる中世世界を描くとともに、エーコの試みの意義などを指摘する興味深い一冊です。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序
I 『薔薇の名前』の舞台
II
『薔薇の名前』の構造
III
『薔薇の名前』の世界への鍵
注
参考文献
あとがき
図版出典一覧
―――
第I章は、『薔薇の名前』のストーリーを追いながら、関連する歴史的背景(異端、托鉢修道会、『聖ベネディクトの戒律』など)を描きます。ストーリーの理解に深みを与えてくれます。
第 II
章は、『薔薇の名前』をさらに深く読み解きます。各登場人物や舞台の背景を論じます。
第 III
章は、写本、眼鏡、読書の歴史、異端問題、中世の文書利用など、『薔薇の名前』を読み解くうえで鍵となる中世ヨーロッパをいくつかの角度から照らします( 139
頁)。
ごく簡単なメモになってしまいましたが、以上のように、西洋中世学の知見から、『薔薇の名前』を読み解く(あるいは逆に、『薔薇の名前』を中心に西洋ヨーロッパの諸相を描く)興味深い一冊です。
(2021.07.18 読了 )
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