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2025.07.20
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甚野尚志/踊共二(編)『キリスト教から読み解くヨーロッパ史』
~ミネルヴァ書房、 2025 年~


 ​ 堀越宏一/甚野尚志編『 15 のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史』ミネルヴァ書房、 2013 ​でも、編者はその書名ではイメージが伝わりにくいと冒頭で断っていますが、本書についても(甚野先生はいずれの編者でいらっしゃいます)、書名について断りがあります。
 この書名からは、「従来の通史的なキリスト教史の概説」が想像されますが、「中近世ヨーロッパのキリスト教に関する重要な問題について、現在どのように理解されているのか、それによりヨーロッパ史の理解がどのように
変わって来たのかを提示すること」(1頁)が本書の意図であると示されます。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
序章 甚野尚志・踊共二「キリスト教史がわかればヨーロッパ史がわかる」
コラム1 印出忠夫「古代の密儀宗教」
第1章 三浦清美「キリスト教の東と西」
コラム2 中谷功治「イコノクラスム」
第2章 甚野尚志「罪と贖罪」
コラム3 齋藤敬之「瀆神」
第3章 鈴木喜晴「禁欲と戒律―修道院」
コラム4 石黒盛久「修道制と人文主義」
第4章 後藤里菜「正統と異端」
コラム5 佐々木博光「中世のユダヤ人迫害」
第5章 多田哲「聖人と奇跡」
コラム6 小林亜沙美「列聖」
第6章 関哲行「巡礼―中近世スペインのサンティアゴ巡礼」
コラム7 辻明日香「東方のキリスト教世界」
第7章 加藤喜之「聖書―聖なるモノ、俗なるコトバ」
コラム8 岡田勇督「メシアとキリスト」
第8章 皆川卓「戦争と平和」
コラム9 黒田祐我「レコンキスタ」
第9章 踊共二「宗教改革」
コラム 10  坂野正則「近世のカトリシズム」
10 章 小林繁子「魔女迫害とキリスト教」
コラム 11  黒川正剛「教会とジェンダー」
11 章 安平弦司「寛容と多様性―思想・統治戦略・生存戦略」
コラム 12  押尾高志「「隠れムスリム」の世界」

あとがき
人名・事項索引
執筆者紹介
―――

 初期から現代までのキリスト教の概観を示しながら本書各章の概要を紹介する序章に続き、ある程度時代の流れに沿いながら、テーマごとに見ていく本論が続きます。また、序章を含む各章のうしろには、その章に関連する4頁ほどのコラムがあります。
 概説書であり、内容も多岐にわたるので、印象的だった点のみメモしておきます。
 第1章では、心理学者ユングによる「ヨブ記」の解釈が紹介されていて興味深いです、
 コラム2は、聖像破壊=イコノクラスムは、「イコン支持派が作り上げた神話に近いもの」とまで述べる学者の見解が紹介されています。イコノクラスムについては、以前紹介した​ 図師宣忠/中村敦子/西岡健司(編)『史料と旅する中世ヨーロッパ』ミネルヴァ書房、 2025 ​所収小林功「イコノクラスムのはじまりとレオン3世―8世紀のビザンツ帝国をとりまく世界―」でも論じられていて、あわせて読むとさらに勉強になります。
 第2章は初期中世から宗教改革期までの贖罪・告解制度の概観。
 コラム3は「罰当たりな言動」=瀆神を扱う面白いコラム。
 第3章では、西方修道制の象徴となる『ベネディクトゥスの戒律』について、ベネディクトクス自身についての史料の沈黙(グレゴリウス大教皇『対話』が唯一の史料)が奇妙であると問題提起し、その戒律普及の過程に関する興味深い考え方が提示される部分が興味深いです。
 第4章は、異端への暴力を正当化する根拠とされるアウグスティヌス『神の国』の記述について、アウグスティヌスの置かれた時代背景をもって理解すべきと説きます。
 第5章は、それまで様々なジャンルの著作に収録されていた聖人の奇跡について、9世紀にはもっぱら奇跡のみを集めた奇跡伝というジャンルが確立したことを指摘します。
 コラム6は古代から中世中期までの、列聖手続きの変遷を概観しており分かりやすいです。
 第6章は、スペインのサンティアゴ巡礼を中心とした、巡礼についての概観。
 コラム7では、「イスラーム世界」という表現の是非を問う議論が紹介されていて興味深いです。
 ここまでの章が初期中世から盛期中世までを主に扱う中世末期以降を主に扱うのに対して、第7章以降は、中世末期以後を中心に扱います。
 第7章は、モノとしての聖書を扱います。中世において権威であった「ウルガタ」=ラテン語訳聖書について、原語のギリシア語などと比較しその誤りを正そうとしたヴァッラの仕事と、彼を教皇ニコラス5世が支援していたというエピソードや、その後の聖書の俗語訳をめぐる流れなど、非常に興味深く読みました。
 第8章は、そのテーマである戦争と平和をめぐり、宗教や国家の関係から見ていきます。
 第9章は、宗教改革におけるルターの革新性を、ルター以前からの流れも追うことでやや相対化しつつ、各地の宗教改革の流れを追っていて、こちらも勉強になりました。
 第 10 章では、「不当な裁判が横行することもまた、支配者にとって決して容認できないことだった」 (242 ) とし、魔女裁判の行き過ぎを抑制する世俗支配者のあり方を指摘している点が興味深いです。
 関連するコラム 11 は、魔女裁判をジェンダーの観点から読み解きます。
 第 11 章では、カトリックとプロテスタントなど異宗派間の交流が日常生活上ではあったことを指摘し、フライホフという研究者による「日常生活のエキュメニシティ」という表現を引いています。
 個人的な覚えになってしまいましたが、どの章も興味深く、私が専門に勉強している時代よりも後の時代を扱った第7章以降も大変勉強になりました。

(2025.05.24 読了 )

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Last updated  2025.07.20 08:13:20
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