吉本ばなな『キッチン』
~角川文庫、 1998
年~
吉本ばななさんのデビュー作「キッチン」を含む3編の短編が収録されています。
「キッチン」
は、幼くして両親を亡くし、祖父も亡くし、大学生になって同居していた祖母も亡くなり、近しい身内がいなくなってしまった、桜井みかげさんの視点で進みます。
祖母がよく通っていた花屋でアルバイトしていた田辺雄一さんが気にかけてくれ、田辺家で暮らすようになります。
雄一さんとの距離感や、雄一さんの父にして母のえり子さんの素敵さ、そして田辺家の台所が好みということもあって、みかげさんが少しずつ落ち着いてくる中、祖母の死に向き合ったり、不思議な夢を見たり、少し歩み始めます。
「満月―キッチン2」
は、「キッチン」の後日譚。
夏のあいだ、何かに憑かれたかのように料理に取り組んだみかげさんは、有名料理研究家のアシスタントとして仕事をしていました。そんな中、雄一さんからかかってきた一本の電話。それは、衝撃的な事件を伝える電話でした。
雄一さんと距離を置く必要があると考えていたみかげさんは、先生について取材の旅に出ます。旅先で食べたかつ丼の美味しさに感動したみかげさんは、ある行動に移ります。
表題作とは別の物語である 「ムーンライト・シャドウ」
は、恋人を亡くしたさつきさんが主人公の物語です。恋人を亡くし、眠れない中、早朝のランニングを始めたさつきさんは、ある朝、思い出の川で、うららと名乗る女性と出会います。不思議な現象がこの川で起こると伝えるうららさんの言葉を受けて、その朝、さつきさんを待つ体験とは…。
20
年ぶりくらいの再読。
「素敵な物語だった」ことは覚えていましたが、忘れているところも多く、あらためて新鮮な気持ちで楽しめました。
上でも書きましたが、みかげさんがある夜に見る不思議な夢と、その後の展開は特に印象的でした。
「満月」は、かつ丼のエピソードが素敵です。
「ムーンライト・シャドウ」は、「キッチン」とは別の物語ですが、「死」「別れ」というテーマでは共通しています。 100
年に1回くらいの割合でしか経験できないその現象で、うららさんも含めて、みかげさんたちが新しく歩み始めるのが印象的でした。
あらためて、素敵な読書体験でした。
(2025.08.09 再読 )
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