ジャック・ルゴフ(池上俊一訳)『中世の夢』
~名古屋大学出版会、 1992
年~
西洋中世史の大家ジャック・ル・ゴフ (1924-2014)
による初期の論集などから選ばれた5本の論文の邦訳です。
訳者の池上俊一先生の著作は本ブログでも多く紹介しています(直近では共編著ですが、 池上俊一/河原温(編)『聖人崇敬の歴史』名古屋大学出版会、 2025
年
を紹介しました)が、本書はその初期の業績です。
※本書と同年に刊行された著作として、以下があります(3冊も!)
・ 池上俊一『魔女と聖女 ヨーロッパ中・近世の女たち』講談社現代新書、 1992
年
・ 池上俊一『歴史としての身体 ヨーロッパ中世の深層を読む』柏書房、 1992
年
・ 池上俊一『狼男伝説』朝日新聞社、 1992
年
本書の構成は次のとおりです。
―――
日本の読者へ
中世の科学的驚異
西洋中世とインド洋―夢の領域
キリスト教と夢―2世紀から7世紀
西洋中世の荒野=森
ブロセリアンドのレヴィ=ストロース―宮廷風ロマン分析のための一試論
原注
解題
―――
第1論文は自身の論集には未収録の論文集から、第2論文は ジャック・ル・ゴフ(加納修訳)『もうひとつの中世のために―西洋における時間、労働、そして文化』白水社、 2006
年
に収録されている論考、第3~第5論文が、いまだ邦訳のない論集
L’Imaginaire médiéval
, Paris, 1985
から選ばれています。
第1論文(初出
1988
年)では、驚異の類型が図式的に提示されています。科学的驚異の探究領域として怪物と来世、組織原理としてオリエント、英雄、百科全書、驚異の生産過程として悪魔、変身、夢が示され、それぞれ具体的に論じられます。
第2論文(初出 1970
年)は、インド洋イメージの様相と変遷を論じます。
第3論文(初出 1985
年)は、本論集の核ともいえる論考。初期キリスト教の時代から初期中世までの夢をめぐる重厚な考察です。
第4論文(初出 1980
年)は、初期キリスト教における荒野のイメージから始まり、初期中世では森がその役割を果たしたこと、さらに文学作品における森=荒野のイメージを分析します。
第5論文(初出 1979
年)は、クレチャン・ド・トロワ『イヴァン、または獅子の騎士』 (1180
年頃 )
を主要史料とした、人類学的な分析の試みです。森、動物、野人などのイメージが具体的に論じられます。
池上俊一先生による解題は各論文の意義を明快に提示していて大変有益であるほか、ル・ゴフのもとで学んだ経験への言及もあり興味深いです。
ル・ゴフの主要論文集である
『もうひとつの中世のために』
は 2006
年に邦訳が刊行されましたが、本書で3本の論文が選ばれたもうひとつの主要論文集である
L’Imaginaire médiéval
の邦訳は未刊行です。後者は、「長い中世のために」という序論に加え、第1部「驚異」に2論文、第2部「空間と時間」に5論文、第3部「身体」に3論文、第4部「文学と想像界」に5論文、第5部「夢」に2論文、第6部「政治人類学に向けて」に1論文という興味深い論文集なので、いつか邦訳が刊行されることを願っています。(各部標題は拙訳。『もうひとつの中世のために』『煉獄の誕生』なども含む全集的な著作である
Jacques Le Goff, Un Autre Moyen Âge
, Gallimard, 1999
に再録された
L’Imaginaire médiéval
の目次を参照)。
(2025.10.24 再読 )
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