森博嗣『レタス・フライ』
~講談社文庫、 2009
年~
森博嗣さんの短編集第5弾です。ノベルス版所収の9編に加えて、「ライ麦畑で増幅して」も収録されています。
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「ラジオの似合う夜 A radiogenic night
」
ある小国に出張に訪れることになった私。以前、その国から日本にきていた知人の女性に、案内をしてもらう。私は、その国で過去に起こっていた二つの事件の話を聞く。一つ目は、強盗事件。犯人はまず一人に違いないのだが、金庫には犯人の指紋とは異なる、しかも新しい指紋がついていたという。二つ目は、蒸気機関車の殺人犯。乗客を殺しながらお金を巻き上げていった犯人が、消失したという。そして、私も新たな事件に立ち会うことになる。新しくできたばかりの美術館の壁に穴があけられていた。捜査を進めようとしたが…。
「檻とプリズム A prism in the cage
」
幼い頃から、彼のことを尊敬していた僕。しかし、彼に興味をもつらしい彼女が、僕に近づいてきた。最近起こっている少女連続殺人事件と、彼を結びつけるように語る彼女にどう接すればよいか、僕は考える。
「証明可能な煙突掃除人 Provable chimney sweeper
」
煙突掃除人だった父が死に、彼も煙突掃除人になった。父が死ぬ間際に残した言葉、お化け煙突の謎にひかれて。そしてついにその煙突で作業をすることになったが…。
「皇帝の夢 The imperial dream
」
不思議な夢を見て、ふらりと旅に出た男の話。
「私を失望させて Drive me to despair
」
桃太郎らしきお話が語られるが…。
「麗しき黒髪に種を Seeds for her lovely tresses
」
忘れられない子どもの頃の経験。子供会のとき、引率の女性にくっつき虫を投げつけた私たちだが…。
「コシジ君のこと My most unforgettable figure
」
毎日夢で出会う、小学校の頃の友人コシジ君をめぐる思い出。
「砂の街 The sandy town
」
久々に故郷の街に戻ってきた僕。街の様子がおかしかった。街は砂に覆われていて。砂でできた車を運転する人々がいて。実家の裏の老夫婦が、僕と同じく大学院生の女性を紹介してきた。彼女は、この街の砂の謎について、調べているという。
「刀之津診療所の怪 Mysteries of Katanotsu clinic
」
山吹と海月の故郷、白刀島に遊びにきた、二人と加部谷。西之園とその叔母、佐々木も合流する。彼らの関心は、その島の怪談めいた噂話。診療所で幽霊を見て病気がちになった少年。着物服の女。診療所を訪れる、刀のようなものを持った男。こういった噂話が島に広まっていた。西之園たちは、その真相をつきとめようとする。
「ライ麦畑で増幅して The Amplifier in the Rye
」
優秀な社長が亡くなった。彼の遺書、そして関係者からの話を受けて、秘書をつとめていた私―小川令子が下す決断とは…。
―――
子どもの頃の体験が話の主軸となる「麗しき黒髪に種を」「コシジ君のこと」の二編は、どちらも生々しく、胸が痛みます。
「私を失望させて」はとても楽しく読みました。リアリズム志向ですね。
「刀之津診療所の怪」。Gシリーズの登場人物が登場する初の短編ですが、海月さんは解決もしないのでほとんど話しません。わずかな発言で、笑わせてくれます。そして、これまでの作品も踏まえて、大変嬉しい仕掛けとなっています。
文庫版で初収録となった「ライ麦畑で増幅して」も、Xシリーズの前日譚を描く嬉しい1編です。といって、物語は切ないです。
これで、S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズ、Xシリーズ、そして関連する短編集も全て(再読も含めて)読んだことになります。あらためて、色んな人物のつながりや仕掛けが多く、同時に世界観の壮大さに感銘を受けました。
良い読書体験でした。
(2026.07.22 読了 )
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