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2009.10.23
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カテゴリ: カテゴリ未分類



ところで近くの新刊本屋さんが、最近古本を扱い始めた。看板にはused bookと書き加えられたが、本の場合は「使った本」と言うより、「お古の本」と言ったニュアンスが感じられるa secondhand book の方がピッタリ来るような気がする。
だからといっても新刊本のことは a firsthand bookとは言わず、これはあくまでa new bookという。firsthandは「直接に」とか「じかに」という意味だそうだから、英語もなかなか一筋縄ではいかない。

ところで車の販売店では、登録は済ませたもののまだ誰も使用したことのない車を「新古車」と言う名で販売することがある。
この本屋では、買い取った正真正銘の中古本も並べてあるが、書籍類の殆どは売れ残った新刊本を、同じ店内の中古本の陳列棚に異動したもので、発行日は少し古くなるが、本そのものは誰の手垢も付いていない新品、まさに「新古本」なのである。
値段はだいたい定価の半額となり、おまけに新本購入の時に付けてくれるポイントも付けてくれるから、最近は新刊本の陳列棚より、こちらの中古本の陳列棚を熱心に閲覧している。

この書店で最近、「斜陽に立つ」(古川薫著 毎日新聞社刊)を買った。
乃木希典と児玉源太郎という明治を生きた二人の軍人の生き様を描いた物語である。
乃木希典は日露戦争の英雄とか聖将とも言われる人物であるが、ちかごろは乃木希典が無能だったという説が世の中にだいぶ浸透している。

これに対して「斜陽に立つ」の著者古川薫氏は、司馬氏が乃木を愚将扱いするのは、史実と異なり、誤解であり、理不尽だという憤りを抱いて、乃木像を描いている。
来月から「坂の上の雲」がNHKの大河ドラマで放映される予定だが、原作に忠実ならおそらく乃木大将は愚将として登場することになるだろうから、乃木大将のイメージがさらに誤解れるおそれがあると、古川氏はイライラしているのではないだろうか。

ところで、この本の中に福田恆存氏の「乃木将軍と旅順攻略戦」(中央公論社刊「歴史と人物」S45年11月号)の中の文章が引用されている。

「近頃、小説の形を借りた歴史読物が流行し、それが俗受けしている様だが、それらは全て今日の目から見た結果論であるばかりでなく、善悪黒白を一方的に断定してゐるものが多い。
が、これほど危険なことは無い。歴史家が最も自戒せねばならぬ事は、過去に対する現在の優位である。吾々は二つの道を同時に辿る事は出来ない。とすれば現在に集中する一本の道を現在から見遙かし、ああすれば良かった、かうすれば良かったと論じる位、愚かなことは無い。
殊に歴史ともなれば、人々はとかくさういふ誘惑に駆られる。事実、何人かの人間には容易な勝利の道が見えてゐたかも知らぬ。が、それも結果の目から見ての事である。(略)当事者はすべて博打を打ってゐたのである。丁と出るか半と出るか一寸先は闇であった。それを現在の『見える目』で裁いてはならぬ。歴史家は当事者と同じ『見えぬ目』を先ず持たねばならない」

なかなか厳しい論評である。
しかし司馬遼太郎氏は小説家であって、歴史家ではない。彼が史料を読み間違えたか、或いは意図的に愚将として仕立て上げたかは別として、「坂の上の雲」はあくまで小説であり、フィクションであり、史料ではない。
古川薫氏もまた小説家であるから、「斜陽に立つ」も史料をもとにした小説であり、フィクションだといえる。
古川薫氏が福田恆存氏の論評を引用したのは、おそらく司馬説を攻撃する意図に違いないが、同じ文言がもし、司馬氏の本の中に引用されていたら、そっくりそのまま古川氏攻撃の支援材料になったかも知れない。

歴史小説から虚構を取り上げたら、もはやそれは小説とは言えない。。

同じ史実をもとにそれぞれが違ったイメージを膨らませ、片や名将、片や愚将と書く。
これこそが小説家の特権であり、歴史小説のロマンではないだろうか。
歴史小説を第一級史料と頭から信じるほど、読者は愚かではないと思うのだが。





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Last updated  2009.10.23 14:27:23
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