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2005年09月06日
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テーマ: 小説日記(233)
 やらなくちゃいけない事って何だろう。ぼくはルースさんのふっくらとした丸い顔を見上げた。
「ここには沢山の動物達がいるでしょう」
 動物達といってもどれも彫像だ。でも、ぼくは黙って頷いた。
「次は、あなたの仕事を手伝ってくれる子を探さなくてはね、レン」
 あっと思った。そう言えばハルが言ってたんだ。「使い魔が貰える」って。
 でも、ここの動物達はコリィみたいに生きてはいない。彫刻がどうすれば生きて動くようになるのか、ぼくには見当もつかなかった。ここは本当に、ぼくにとって「?」だらけの場所だ。
「さぁ、この中に、レンの気に入る子はいるかしら?」
 ルースさんは、両手を腰に当てて、周りの動物たちをぐるりと見渡した。ぼくも同じように首を巡らしてみたけれど、目に入るだけでも相当な数で、一つ一つ見て歩くのも大変そうだ。こんなに沢山の中から、ハルはどうやってコリィを見つけたんだろう。
 ちらりと後ろに目を向けると、ハルもぼくを見ていたらしくて目があった。ぼくは、また目を反らされてしまうんじゃないかと思ったけど、ハルは、今までと同じ笑顔で笑い返してくれた。

 でも…本当に、ぼくの気のせいだけなんだろうか。
「ねぇ、ハルはどうやってコリィを見つけたの」
 確かめたい、そんな思いもあって、ぼくは震える声を隠しながら、ハルに聞いた。
 瑠璃色の瞳が、その時を思い出すように、くるっと上空を見上げた。
「うーん。どうだったかなぁ。でも、すぐに分かったような気がするよ。『あ、こいつだ』ってね」
 他にもっとカッコイイのはいたんだけどね、と言って笑う。
(良かった。今まで通りのハルだ)
 心の底に溜まった泥が流れていくように、ぼくの気持ちも軽くなる。ぼくは、こっそりと胸をなで下ろし、漸く真剣に「使い魔探し」にとりかかった。
 犬、オウム、豚、猿、トカゲにカエル…それこそ、色んな動物たちがいる。中には名前も知らない、見た事もないようなものも居た。でも、どれもハルが言うように、ピンと来る感じはしない。
「見ても分らなかったら、どうやって決めればいいんだろう…」
「なんとなくでも、気になる子はいない?目が惹かれるとか、目が合うとか」

 とても綺麗で大きくて、賢そうな牡鹿。ぼくの目は、沢山の動物たちの中から、さっきの牡鹿を簡単に見つける事が出来た。これが「惹かれる」って事なんだろうか。
 ぼくは、その鹿の前にもう一度立った。
「レンは、この子が気に入っているのね」
「はい…ええと、多分」
 我ながら煮え切らない返事。こんな牡鹿と一緒に暮らせるなら、それはきっと素敵な事に違いないのに。

「うわ、」
 言われて見たぼくの手の平は、光の粉でもまぶしたように、キラキラと光っていた。手を動かすと、その軌跡にそって光が零れる。
「その光は、さっきの水鏡の力がほんの少しあなたの手に宿っているから。その光で、あなたの使い魔を起こしてあげる為にね」
 ぼくは、そっとその手を牡鹿の前足に伸ばした。
(本当に、これでいいんだろうか)
 今日から、この牡鹿がずっとぼくの側にいる。
 でも。
 その光景が、何一つ、思い浮んで来ない。
 その時、牡鹿の後ろに隠れるように、蹲っている小さな影が目に入った。
「あぁ…!」
 ぼくは思わず声をあげた。
 埋まらなかったパズルのピースを、やっと見つけたような、そんな感じ。ぼくの心にほんの隙間もなく、ぴったりとそれは収まった。
 こんな所にいたんだね。ぼくの目を呼んでいたのは、この牡鹿ではなく、君だったんだ。
 今度はぼくは躊躇わなかった。両手で掬い取れば、ぼくの手にさえすっぽりと入ってしまうほどの、小さな小さな土の塊。
 それが、淡く光を放つ手の中で、土の羽根は柔らかな赤い羽毛へ、光を持たなかったその瞳は、とろりとした深い緑の色に、みるみる輝いていく。それは本当に魔法のような出来事だった。
「あらあらまぁ、可愛い使い魔だこと」
「こんにちは、君。これから宜しくね」
 産まれたばかりの小さな小鳥は、ぼくの言葉に応えるように、チルルチルルと澄んだ声でさえずった。
「早速、名前をつけてあげないとね」
「うん、小さいから、チビ」
「チビ?」
「変かなぁ」
「いいや。君がいいと思うなら、それがきっと一番いい名前なんだよ」
 チビは、暫く広い空間を楽しそうに飛び回った後、ぼくの頭を居場所と決めたようだ。そこで存在を主張するように、一層高い声で歌い出した。
「チビもおしゃべりみたいだね。コリィと気が合いそうだ」
「うん…」
「どうしたの」
「ハルは、コリィと話せるって言ったよね?でも、ぼくにはチビの声は、普通の小鳥と同じに聞こえるんだ」
「え?」
「ぼく、もしかして間違って選んじゃったのかな。だから、チビの言葉がわからないのかな」
 ぼくは、すっかり話が出来ると思い込んでたから、これにはちょっと…いや、だいぶがっかりだった。
「レン、必ずしも全ての使い魔が、人の言葉を喋れるとは限らないのよ。でも、喋れなくても、あなたの言葉はちゃんとチビには伝わっているわ。だから心配しないで」
 ルースさんが慰めるように、ぼくの肩を優しく抱いた。
「さぁ、二人ともお腹が空いたでしょう。戻ってお昼にしましょうね」
 複雑なぼくの気持ちを知ってか知らずか、チビは大層機嫌良く、帰り道もずっと頭の上でさえずっていた。





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最終更新日  2005年09月06日 23時55分35秒
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