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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2008/01/22
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カテゴリ: 生活

 ほうぼうからの要求に、ときどき、辟易(へきえき)とする。即座に、ひとつひとつ、ていねいにこたえられれば、それはいいのにちがいないが、そうもいかない。



 ほかにも、しなければいけないことが、あるんだもの。
 約束には、それとなく順番というのが、あるんだもの。
 きょうは、そういう気分じゃ、ないんだもの……。



 家のなかの話である。
 要求はもちろん、家の者の口からも告げられる。
 しかし、多くは、口など持たぬものたちが……。
「アタシヲ、アラッテチョウダイ」 ——レースのカーテン嬢。
「ナントカ、シテクダサイ」 ——いちご(黒猫の)がむしった廊下の壁紙氏。
「ツギノカイオキ、タノムヨ」 ——シャンプーとコンディショナーのコンビ。
「オラ、ノド、カワイタダ」 ——サボテンじいさん。



 わたしは、そんな要求に耳をかたむけ、少し芝居がかった顔つきで、言う。
「はい、ただいま」
「お待ちください」というのより、「はい、ただいま」という言い方が好きだ。
 その昔、友だちと喫茶店で喋くりながら、
「アタシたちが、ウエートレスだったら……」
という空想の遊びをした。
 あのとき、「はい、ただいま、と言うようにしようね」と、友だちと誓い合った。以来、喫茶店のウエートレスにはなれないままだが、「はい、ただいま」だけは、いろんな場面でつかいながら、なんというかな、悦に入っている。
「こんなときは、どう言う?」
 と、友だち。
 いきなり、テーブルの上の砂糖壺のなかの砂糖を、附属のスプーンでかき混ぜはじめる。
(えー。それ、けっこう、むずかしいね)。
「お客様、何か、お探しですか? って言うのはどお?」
「……いいね。それでいこう」



 さて。
 いま、わたしには、申しわけないなあと思い、そう思いながらも見て見ぬふりをしている相手というのが、いる。仕事部屋のワードローブ上段が定位置の、
アイロンのかごである。
 ここには、アイロンをかける必要のある布たちがいる。
 それから、繕(つくろ)ったり、何かに変化させたりする必要のあるモノたちも、ここが居場所だ。
 ちょっと立て込むと、すぐ、このかごがいっぱいになる。



 このかごのなかのモノたちの抱える問題を解決するのが、面倒だというわけでは、ない。こういうモノたちと向きあう時間さえつくれれば、それは、「至福」と呼んでさしつかえないひとときとなろう……。
 だからさ、言ってるじゃない。
「はーい、ただいま」



Photo



「アイロンかご」。
20年以上も前、籐を編む友人がつくって、プレゼントしてくれたものです。
丈夫だし、なにより年とともに、少しずつ風合いを変えていくところに、
色気さえ感じます。
いま、ここで「そろそろ、片をつけておくれよう」と、ときどき、細い声で
訴えているのは、長女と二女共有の浴衣です。
ほつれがあるんです。
ちょっと縫えばすむことなんですが、もう、5か月もここに……。
もうひとつは、先週からの新人、末の子どものタイツです。
どこかにひっかけて、穴、あけたんです。
これも、繕わなくちゃ。






Photo_2



アイロンとアイロン台は、誰でもすぐに使えるように、
「共有の棚」(いつかお話しした、子どもと共有の下着、くつした、Tシャツの棚の
なかに置いています)。
小物のアイロンかけのときは、「アイロンかご」の底にスタン・バイの、
この布を使います。
焦げ跡さえあるバスタオルなんですが、20年来の相棒。







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最終更新日  2008/01/22 10:00:00 AM
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