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夜が明けるまで、一人でどっか家じゃないところにいたかったんです。逃げられない。どこまで逃げても逃げられない。私が短大生(つまり20歳くらいの時)よくこんなことを思っていた。若いときって、どうして生きるのを自分で苦しくしてたんだろうなあ、と今は思う。今は、その苦しさを分解することだってできるから。でも、若さというものは、そのでっかい塊を、塊のまま受け止め、塊のままどうにかしよう、と思ってしまう。頭が堅いともいえるけれど、物事を純粋に受け止める、ということでもあるのかな。もう苦しいのは嫌だけれども、その時の塊を塊のまま・・・という「気持ち」は、大事かなあ、と思う。アフターダーク、7日発売です。
2004.08.31
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アフィリエイトをやるようになってから。頭の中は、そのことばっかり。仕事中だって、気付いたらメモメモ・・・。本を読んで、気がついたらメモメモ。使えるか、使えないか?そんなこと考えず、まずメモだよ!使えるか使えないか、判断するのはHPに来たお客さんの反応見なければわからないし。自分が思うよりももっと、頭の中が考えたことはすばらしいかもしれないから、とりあえず頭の中から救ってあげないとね。って、えらそうなこと書いちゃったけど。私もできてないんですよ。まだまだです。
2004.08.30
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年上の人の考えだと。仕事を楽しんでやるなんていかん。仕事は辛く苦しいもの。お客さんだって、楽しく仕事をしている人を身て、仕事を舐めてるのか、と思うぞ。なんていう方がいらっしゃるけど・・・。ほんとにそうかな。仕事が楽しい→笑顔で仕事ができる笑顔で仕事をしている人がいる→お客さんが寄って来るお客さんが寄って来る→それなりに儲かる儲かる→会社はウハウハ会社がウハウハ→みんなウハウハってならないかな。仕事が辛い→いや~な顔になるいや~な顔の人→お客さん来ないお客さん来ない→儲からない儲からない→リストラ増リストラ増→やがて自分に回ってくる→不況だから極端な話ですが、こんな感じ。仕事が楽しいのはいけないって、誰が決めたの?そんなにしかめっ面で仕事するのって、えらい?辛く苦しいもの・・・もちろんそれはありますよね。けど、それを楽しいということに変えるのまでダメ、みたいなことを言っていたらつまらないですよね。仕事が辛くなきゃダメ、と思うのなら、自分の中だけで思えばいいのに、と思うのですが。アフィリエイトでお金を稼いだら、同じことを言いそうな人がいると思うけれど。お客さんが満足できる橋渡しをして、自分も満足。双方満足、お店も満足。いいことだらけ。仕事は辛くなきゃ、と言っていたら、この人たちの満足全てを剥ぎ取ることになると思いません?~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~かた~い文章を、おもしろ楽しく書き直す。そういうのも、アフィリエイトの練習になるかもね。真面目な文章も大事。でも、気持ちを揺さぶられる文章は、楽しくて元気が出る。元気だしたいよね。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~思い出をいろいろ考えてみると、それらはみんな気持ちを揺さぶられたものばかり。喜びであれ、楽しみであれ。辛さであれ。気持ちが動いているからこそ、覚えているんだなあ。人間は、五感で生きてると思う。その五感に訴えかけるものを利用すればいいのかも。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~人に何かをしてあげたとき、とっても冷静に「ありがと」と言われたら、「いーえ」で終わり。けれど、「ありがと~!助かったよ~!」なんて気持ちを込めて言われたら、こちらの気持ちも揺さぶられ、「またいつでも言って!!」と、喜びながら言ってしまう。気持ちを常に揺さぶるような、そんなコミニュケーションがしたいものです。アフィリエイトでも。ぶるるん、ぶるるん、てね。
2004.08.29
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まったく、アフィリエイトって奴は。人を虜にして離さない、媚薬を撒き散らす、悪魔のような、天使のような、ええい、どっちだ!?(笑)悪魔になるか、天使になるか、楽しみですのう。私は、今のところは憎めない悪魔ですわい(笑)。可愛い~天使にしたいですの。みんなから愛される。
2004.08.28
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あなたのHPからは、あなたの”声”が聞こえていますか?アフィリエイトに限らず、ステキなHPというのは、その人の”声”が聞こえるような気がしませんか?それは、その人の気持ちの現れだと思うのです。相手に伝えようという気持ちが強いほど、その声はパワフル。そして、近くでやさしく語りかけてくれたり、あるときは目の前で熱意をもって叫ぶくらいに熱く伝えてくれる。そういうページは、私は好きだし、何度も見たくなります。私のページからは、まだ声は聞こえてきません。いつか、聞こえるように、今頑張っています。しっかりとした、丁寧な声が聞こえますように。
2004.08.27
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アフィリエイトのページをいろいろさまよって歩いていると、その情報量の多さにびっくり!よくまあここまで書けるよな・・・。で、気がついたんだけれども、情報量をたくさん書ける人って、褒め上手なのではないかと。褒めるのがうまい人って、ふつうの褒め方してない。褒める視点が違っていて、普通の褒め方をしちゃうと単なる「お世辞」に聞こえちゃうけど、そういうレベルをはるかに超えてますよね・・・。私は、褒め下手。褒めもしないし、けなしもしない。きっと、これが最悪のパターンじゃないかな?どうでもいい・・・っていう視点のような気がする。まず、人でもモノでも、いろんなことに気がつかなきゃ。今日からやってみよう。目にするもの、いろいろ褒めてみよう。電柱とか褒めてみたり・・・。
2004.08.26
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HP界の貴公子を、私が勝手に決めて、紹介しております。貴公子・・・。貴公子といえば、ヨン様とか、アイルトン・セナとかですよね。それに並ぶ(と私は思う)人たちです。貴公子って、私のイメージでは「お金持ちのお坊ちゃん」(そして、口にくわえたバラ・・・なんでやねん)て感じだけれども、実際、そう呼ばれる方たちは、みんな努力家だったり、頑張りやさんですよね。才能もあるかもしれないけれど、それは自分で作り上げた才能。華やかさに隠れて見えないんですね。そこを見ると、その人に近づけるかな?
2004.08.25
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僕は、となっぴ。ぬいぐるみの、となっぴさ。一応、僕はとなかいなんだけれども。この、ディホルメされた体型から、そうは思われてなくて、ぬいぐるみを仕入れた人も、僕のことを、「ブタのぬいぐるみ」なんて言うんだよ。角があるんだから、となかいってわかるじゃない?って怒ってみても、言葉は届かない。だから、僕は大人しく、言われるままにしていたさ。悲しいけどね。でも、そんな僕を、きちんと「となかいのぬいぐるみ」と言ってくれたのが、お父さんと一緒に僕の売られているデパートへやってきた、りさちゃんだったんだ。(つづく)
2004.08.24
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「美佳!!」というその声は、江美だった。冴子は江美の方を振り向いた。邪魔しないで。冴子は言ったが、「美佳をどうするつもり!?離しなさいよ!!」連れて行く。邪魔しないで。江美は冴子の腕をつかむと、美佳を冴子から引き離そうとしたが、冴子に振り払われて飛ばされた。「いったーい!!」江美は腰を打ったらしく、足をばたつかせている。「離してよ」美佳は冴子に言った。「離せって言ってるでしょ!」なぜ?何故そんなこと言うの?「私は死にたくなんかないの!」死ぬんじゃないのよ?ただ、ちょっと変わった世界であるだけ。「そんなの同じだよ。私はここに残るの。あなただけで行けばいい」好きなのに。私だって好きなのに。瞬間、前の冴子の顔が浮かんだ。「さよなら」そう言って私は、冴子に背を向け、江美の方へ行った。「ちょっと、大丈夫?腰打った?」「もう、もろに打ったわよ~」美佳は、江美の腰をさすってあげた。振り返ると、もう冴子の姿はなかった。「美佳のお母さんがね、様子が変だからって電話くれたのよ」「そうだったの・・・」「駅のあたりからつけて行って、海に着いた時、電柱の影から覗いてたら、急に変なのが現れるじゃない。私、怖くて帰ろうかと思ったわよ?本当に」「ごめんね、嫌な思いさせて」「でも、私は変わりもんだから、そんなへっぴり腰なことはしないわよ。でも結局飛ばされて腰打って、情けないったらないわね」江美はそう言いながら、腰をさする。「でも、江美がいなかったらあのまま連れて行かれてたかもね」「ねえ、あの化け物は一体誰なの?」「あれはね・・・同じ大学だった人」「人、だったのかしらね、あれは」「私も、人というか、死体だと思うんだけれど・・・。でもね、あの人のこと、好きだったんだ」「江美、好きな人いないって言ってなかった?」「だって、最近好きになったんだもの」「前にも言ったでしょ、江美。好きな人ができたら、私に言いなってさ」「でもやっぱり・・・」「何?」「言いづらかったんだ。言ってもどうしようもないって」「どうしようもないって、どうしてよ?」「本当の気持ちをわかってもらえるわけじゃないし、江美だって迷惑だろうなと思うと」「あ~、もうどうしてそうやって自分の中で勝手に考えるのかな?私は、そりゃあ気持ちをわからないかもしれないよ?でも、江美の気持ちはわかるようにして来たつもり。それに迷惑なんてこれっぽっちも思わないよ。だから、そんなこと考えない!いいわね?」「うん。ごめんね」江美は駅で美佳と別れると、家路を急ぎながら、考えていた。美佳はいっつも自分の中で考えすぎる。それとも、私の器量が足りないのかな?江美は閉じこもる癖があるから、なかなか本音も言わないし。でも、本音を言わなかったら、いつまでたっても自分が苦しいだけだし。それにしても、あの化け物だった女性、どんな感じの人だったのだろう。美佳が好きになるということは、きれいな人だったのだろうな。私にはその気はないけれども、一度見てみたかったな。じゃあ、見せてあげるわ。ふいに、声が聞こえた。辺りには、誰もいない。後ろにもいない。気のせいだろうか?気のせいじゃないわよ。その瞬間、背中に悪寒が走った。後ろに何かいる。そうよ・・・うしろ。後ろを振り向いて御覧なさいよ。さあ。江美は、後ろを振り向いた。目の前に。彼女が、いた。正確には、彼女達、だ。「美佳・・・なんで・・・」冴子が触れた時・・・私はもう、別の世界に行ったのよ・・・そしてあなたも・・・冴子に触れた・・・だから・・・「ちょっと待って、私は嫌よ!」ダメ。あなたはもう触れてしまったから・・・。さあ、行きましょう・・・。「嫌だ!誰か!誰か助けて!!」声を出しているはずなのに、声が出ていない。あなたの声は、もう誰にも届かないわ・・・。嫌だ!やめてよ!美佳!ふふふ・・・怖くないから大丈夫よ・・・。私は、行きたくない!死にたくな意識が、プチんと、切れた。(終わり)
2004.08.23
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冴子と来た海に着いた。もう、あたりは薄暗くなってきている。周囲には、誰もいない。波は、穏やかだ。波の前まで来た。冴子。ここにいるの?私は目をつぶった。波の間から、冴子の声を探そうとして。ざざざ・・・。ざ ざ ざ ざ ざ ざ み ざ か ざ冴子の声が聞こえた。 ざ ざ ざ ざ ざ ざ う し ろ ざ ざ うしろ。私は、うしろを振り向いた。そこには、身体がびっしょりと濡れ、皮膚がふやけて、所々噛み切られ、髪の毛は抜け落ち、歯がボロボロになった、もはや人とは思えないものがいた。怖くて、悲鳴をあげそうになった。身体が縛り付けられたみたいに動かなくなった。冴子よ。わかるでしょう?相変わらず声は、波間から聞こえていた。今ね、とっても安らか・・・。不安なことが、何も無いのよ・・・。そう言って、じりじりと近づいてくる。冴子・・・これが?私が心の中で思うと、そうよ、冴子よ・・・わからない?更に近づく。どうして、そんな姿に・・・?そんな姿?ああ、ちょっと変かしらね・・・。もう一月ぐらい、海の中だから・・・魚とかに齧られたりして・・・。でも、姿なんてどうでもいいの・・・安らかなんだもの。冴子は更に近づく。ねえ、美佳・・・あなたも・・・苦しいわよね?生きてるのが辛いんでしょう?誰にも理解してもらえないんだものね・・・。そう言いながら、わたしの手を握った。ぬるっとした、嫌な感触。振りほどきたかったのだけれども、身体が動かなかった。私と一緒に、行きましょうよ・・・。行くって、どこに?もちろん、海の底に・・・楽になれるわよ、辛いことは何も無い・・・。そう言って、強く手を握った。嫌だ。私は、死にたくない。生きていたい。しかし。冴子は笑った。生きていても、辛いことばかりじゃない・・・ここへくれば、辛いことなんてなくなるのよ・・・さあ、行きましょうよ・・・私、美佳がいたらもっと楽しくなると思うわ・・・冴子はそう言うと、私を物凄い力で引っ張り出した。嫌だ!やめて!私は、死にたくない!辛くたって、生きていたいのよ!冴子みたいな選択は、したくないのよ!冴子は力を緩めて、言った。私のことが好きなのに、一緒に来られないの?・・・行けないわ。そう。じゃあ、ますます・・・強引に連れて行かなきゃね!!さっきよりも強引な力で、私は波の方に引っ張って行かれた。嫌だ!しかし、どんなに抵抗してもダメだった。そんなとき。「美佳!」遠くから、声がした。(つづく)
2004.08.22
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冴子の実家を後にし、家へ帰ってきた。おばあさんには、冴子がいなくなっていることは秘密のままだ。でも、いずれ誰かが知らせるだろうから、そのうちわかることだろうけれど。台所へ行くと、母親がラジオをいじっていた。「ただいま」と言うと、「あら、お帰り」「ラジオ、壊れたの?」「うん、全然音が聞こえてこないのよ。ザザザザザ、って音ばっかり」「どれ、ちょっと貸してみて」ラジオを受け取る。「電池は切れてないの?」「だって今新しいの入れたし・・・」ダイヤルをまわしても、ザザザザ・・・というばかり。スピーカーに耳を当て、ダイヤルを微妙にまわした。すると・・・。きこえる・・・?私の声・・・。私はここにいる・・・。待ってる・・・。私は、ラジオを耳から離し、じっと見つめた。「どうしたの?」と母親が尋ねた。すると・・・。ラジオが聞こえ出した。「あら、直ったようね?」母親はラジオを受け取り、「何だったのかしらね」「機械のことだからね、言うことを聞いてくれないときもあるわよ」「そうかしらね」私は自分の部屋へ行った。さっきの、ラジオから聞こえてきた声。小さいし、電波音がうるさかったから、はっきりわからないけれど。冴子の声だったと思う。私はここにいる。ここってどこ?私は、あ、っと思った。もしかしたら、あれは電波音じゃなくて、波音?だとしたら、二人で遊びに行った海のこと?私は部屋を飛び出した。「お母さん、ちょっと出かけてくるからね」「遅くなるの?」「そんなには遅くならないわよ」「気をつけてね」「うん」あの海に冴子がいるのかはわからない。でも、とりあえず行ってみなければ。(つづく)
2004.08.21
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家の中に入り、客間へ通された。そこには仏壇があり、お母さんの写真だろう、やわらかく微笑んだ写真が飾ってあった。「お線香、あげさせて頂いてよろしいでしょうか?」とおばあさんに聞くと、「どうぞ、あげてやってください」ということなので、線香をあげた。お母さんの写真、冴子に似ていた。やわらかく笑うところが。「冴子さんに、似てますね」と私が言うと、「そうでしょう。笑い方が特にそっくりでしょう?」「ええ」「でも、私には似とらんでしょう?」「ああ、おばあさんの娘さんになるんですね?」「そうです。でも、あんまり似ていないから、いつも姑だと思われていました、みんなには」というふうに言ったあと、「娘が死んだ時は、冴子がかわいそうで仕方がなかったですよ」「3才、でしたよね、冴子さん」「そう。あの子は歩き回って、お母さんはどこ?って健気に聞くんです。お母さん死んじゃったよ、って言っても、いつ帰ってくるの?ってまた問いかけてきて・・・。本当にいないんだ、ということを、あの子なりに理解した時から、あの子は寂しくても泣かない子になりました。もちろん、泣くことはあります。でも、寂しいときは、それを自分の中で押し殺していた、と後で冴子に聞いたことがあります」「そうでしたか」「私は、ずっと親のつもりでがんばって来ましたが、やっぱり、おばあさんはお母さんにはなれません。それは年齢だけではない、もっともっと遠いものでした」「お父さんは?」「父親は、冴子が生まれた後、家を出て行きました。今もどこで何をしているか、わかりません」「離婚されたんですか?」「離婚というか・・・父親の方が勝手に出て行ったんです。それまで、二人は仲良くやっていたのに、急にです。私もわけがわからなくて、娘に聞いたんです。あんた達はどうなってるの?と。でも、娘は一言も答えませんでした。ただ笑っただけでした。その写真みたいに」お父さんとお母さんに何があったのかわからないが、とにかく冴子は両親共に自分のもとを去られてしまったわけだ。家の親はまだ両親とも生きているし、元気なので、死んでいなくなるという実感がちっともわかない。しかし、それを3歳くらいのときに経験したとき、どんな気持ちになるんだろう?「じゃあ、おばあさんが育てられたのですか?冴子さんを」「まあ、家は幸い親戚も近くにたくさんおりますし、なんとかやってこられました。大学も奨学金で何とか通うことが出来ているようですし。ただ、アルバイトが大変だとはこぼしておりましたが」「そうだったのですか」「冴子は、時々内側に篭ることはありませんか?」「内側に篭る?」「ええ。・・・中学に入った頃から、時々、自分の部屋に篭るようになって・・・。学校も休んで、ただ部屋の中に篭っているんです。雨戸も開けないで。私は心配して、いろいろと聞くのですが、その時ばかりは、普段はやさしい冴子も、ほっといてよ!と怒鳴るんです。でも、何日かすると、また普段通りに戻ります。だから、まあ治ったのならいいだろうと思って、それほど気にも止めませんでしたが、今、ひきこもりが多くなっているでしょう?もしかしたら、そんな感じだったのか、と思って、もっと多く接してあげればよかったと、最近、冴子に言ったことがあるんです。そしたら、いいのよ、親じゃないんだからそんなこと気にしなくったって、と冴子に言われて、ちょっとショックでした」やはり、お母さんとおばあさんは違うのだろうな。「だから、大学に入って、離れて暮らすようになってからも、あの子はそんなふうに篭ったりしているのかと思って・・・」「私は、実は仲良くなってからまだそんなにたっていないんです。だから詳しくはわかりませんが・・・最近では、そんなことはなかったですね」私は嘘をついた。「そうですか。よかった。娘が亡くなる直前、あの子のことは、ずっと私、見守っているから、そう言っていたのです。心残りだったのでしょうね。だから、私は余計に母親にならなくちゃ、と思ったわけです」ずっと私、見守っているから。どこで?「私、先ほどから思っていたのですが・・・」おばあさんが、遠慮がちに言う。「なんでしょうか?」「あなた、娘に雰囲気が似ています」「私がですか?」「そう。娘は無口なほうでした。人の話をよく聞いているほうで、その聞き方も、きちんと心を傾けて聞いているのです。それがあなたに似ています」「私の場合は、そんなに高級なものじゃありません。ただ単に、話下手なので人の話に頷いているだけなんです」「でも、そういうふうに人の話をきちんと聞くということは、素晴らしいことですよ。こちらにとってもありがたいことです。話した価値があるというものです」そんなことはない、本当にただの喋り下手な内気人間であるだけなのだ、私は。「冴子も、きっとあなたの中に母親の姿を見たはずですよ。これからも、冴子をよろしくね」おばあさんにそう言われ、頭を下げられた。恐縮してしまう。そんな力は私にはない。もし、私の中にお母さんの姿を見たのなら。決して、黙っていなくなることはないだろう。(つづく)
2004.08.20
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大学へ行くと、一人の女子学生に声をかけられた。「ねえ、冴子の友達だよね?」と言うので、「うん、まあ・・・」と答えると、「冴子、いなくなっちゃったの。どこ行ったか知らない?」「いなくなった、って、いつから?」「もう一週間くらい前よ」「一週間前・・・」「心当たりとか、ない?」「うん、ちょっと思いつかない・・・」「そう。じゃあ、もし何かあったら、ここに連絡してくれる?」そう言って、彼女は自分の携帯番号のメモをくれた。「じゃあ、何かわかったらすぐ電話するから」「よろしくね」そう言うと、彼女は行ってしまった。・・・冴子がいなくなった。あのメールが、何か関係があるのかもしれない。お母さんのところ。母さんは、死んだ、と言っていた。すると、お母さんのところとは・・・。あんまり嫌なことは考えないようにしよう。冴子は、頭もいいし、友達も多いし、変なことをする人間じゃない。きっと、何か考えることでもあって、旅行にでも出たのかもしれない。きっとそのうち帰ってくる。しかし、一週間が過ぎても、二週間が過ぎても、冴子は帰ってこなかった。携帯に電話してもつながらない。電源オフになった状態。やがて一月がたった。大学には、もう冴子の気配は、微塵も感じられなかった。誰も彼もが、冴子を忘れてしまったかのようだった。冴子の友達に、一応聞いてみても、「わかんないわ」それだけだった。わたしは、学生課で名簿を借り、冴子の実家の住所を知り、近い所だったので、実家に行ってみよう、と思った。冴子が高校のときまで暮らした町を、私は今歩いている。田舎ではない、しかしながら都市というにはこぢんまりとした、平凡な町の風景。この風景を見ながら、冴子はいつも何を考えていたのだろう。そして、今は何を考えているんだろう。冴子の家に着くと、思ったよりも小さな、古い家でびっくりした。冴子のイメージと結びつかない、地味すぎるほどの家。チャイムを鳴らす。すると、中からおばあさんが出てきた。「なんでしょうか?」「あの、突然お邪魔してすみません。私、冴子さんの大学の友人で、金田と申します」そう言うと、おばあさんは表情をパッと明るくし、「冴子のお友達ですか!そうですか」「あの・・・」「冴子は元気でやっておりますか?」おばあさんは、きっと冴子が今いなくなっていることを知らないのだ。どうしよう?本当のことをいったらまずいな。「もちろん、元気です。いつも明るくされてますよ」「ああ、そうですか、良かった」安堵したようにそう言った。「あの、実はですね、大学のレポートで、人を語る、というのがありまして、冴子さんのことを語らせてもらおうと思いまして」「まあ」もちろん、そんなのは嘘だ。「できるなら、冴子さんのいろんなことをご家族からお聞きして、冴子さんを驚かせてあげようと思って、こちらにお邪魔したんです」「まあ、そうでしたか。じゃあ、こんなところではなんですから、どうぞ、中へ」「すみません」こうして、私は冴子の家の中へ入っていった。(つづく)
2004.08.19
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アンタフェル・ルブリナ。冴子に教えてもらった、自分をリセットする呪文。私は彼女を、冴子と呼び、彼女は私を、美佳と呼ぶことになった。名前で呼ばれるということは、認められたことのような感じがして、私は嬉しかった。もちろん、冴子が本当に私を認めてくれているのかはわからない。そのうち、「つまんない人だね」と言って、離れていくこともある。今まで、いろんな人が離れていった実績のある私だから。でも、それからあとも。学食なんか出会うと、声を必ずかけてくれた。どんなに、友達に囲まれていても、私の顔を見て。彼女の友人達は、どうして私と冴子が話をしているのか、不思議そうに見ていたし、「彼女と友達なの?」と聞かれたこともあった。携帯の番号も、メルアドも交換していたので、たまに電話があったり、メールがあったりした。そのほとんどはたわいもないことではあったけれども、私はその一瞬一瞬が嬉しくてたまらなかった。ますます、好きになっていってしまった。その気持ちを悟られないようにすることで精一杯だった。そんなある日。彼女からの、メールが入った。 今から、会いに行くよ。 呼んでいるの、私を。 心配しないでね。 私は、私がいちばん 行きたいところへ行こうと途中で終わっていた。何か嫌な予感がした。誰に会いに行くの?誰が呼んでいるの?いちばん行きたいところって、どこ?携帯にかけたが、つながらなかった。その3日後、彼女の友人から、冴子が失踪したことを知ることになる。 ・・・いちばん行きたい所へ行くの。 お母さんのところ。(つづく)
2004.08.18
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不思議な感じだった。浅井冴子と向かい合って喋っているということが。しなやかな手。髪を耳にかきあげるしぐさ。コップを持つ手。スプーンを巧みに操ること。それらを見ていると、本当に、この人は女で、私は自分が何者なんだろう、と思う。女の人は、いいなあと思う。ただ「女」であるだけで。浅井冴子は、意外にも、「私は、ひとりでいるのが好きなのよ」と言った。「え、そうなの?でも、友達いっぱいいるでしょ?」「うん、友達がいるのはいいんだけどね。でも本当は、私ネクラだから」そう言って笑う。でも、そういう発言は、友達が多いから言えることで、私のように友達の少ない人間が言ったら、本当に「ネクラ」になるのだ。ちょっと嫉妬。「ひとりで、ぼーっと海を見てるのが好き」「あ、私も好きだよ。近くの海岸に行って、ボーっとするの」「ほんと?私、これを人に言うと、『そんなのどこがいいの?』って必ず言われる」「そんなことないよねえ。落ち着くよねえ」「落ち着く。いいね。癒し、って言わないところが」「癒しより、落ち着くって感じだから」「わたし、すぐ癒し、って言葉を使うのって嫌なんだ」「私もあんまり好きじゃないかな」冴子はちょっと外を見ると、「ねえ、これからちょっと海に行かない?」「え?」「大事な用、ある?」「うーん、今日じゃなくても大丈夫」本当は、今日じゃないとダメなのだが、こんなチャンスは滅多にない。「じゃあ、行こうよ」「そうだね」こうして私達は、大学を飛び出した。大学から、バスで30分の所に、海はある。なかなかきれいな、こぢんまりとした海岸。ボーっとするのにはステキな場所だ。冴子は深呼吸すると、「あー、気持ちいいね」「うん。あんまり大きな海岸じゃないからいいでしょ?」「うん、ちょうどいい」そして近くのテトラポットに並んで座る。「ねえ、知ってる?波のリズムは呼吸のリズム。海水は、羊水とほぼ同じ成分だってこと」「うん、知ってる」「だからきっと落ち着くんだよね。目をつぶってると、本当にお母さんの身体の中にいるみたい」「うん」しばらく、波の音を聞く。「ねえ」「ん?」「私、お母さんを、3歳のとき亡くしたのね」「そうだったの」「そう。だからね、いっつもお母さんお母さんて言って、お父さんを困らせていたの」「へー」「いつも不安だったな。わけのわからない不安。きっと、お母さんが死んだことが原因というのもあるんだろうけれども、いつも、自分がどこか変な所へ行ってしまうんじゃないか、なんて思っちゃうの」「変なところって、どこに?」「それはわからない。でも、時々心の中で不安が渦巻くのよ」「そっか・・・」冴子は微笑みながら、私の顔を見ると、「こういう話、ちゃんと聞いてくれたのはあなたが初めてよ」「そう?」「うん。みんな、私には期待するばっかり。もちろん、期待されることはありがたいことだけど、私だって悩みも不安もたくさんある。でも、そういうのを持ち出そうとしても、受け付けてもらえないのよ。だから我慢してた。でも、あなたには言えた。不思議だなぁ。抵抗なく言えちゃうんだな」「私、いつも聞き役だから、そういうのがうまいのかも」「聞き役か。自分のこと、あんまり話しないの?」「うん、だって、自分の中に、誰かが聞きたいようなことがあるように思えないから」「それは分からないよ。あなたの考えてることを知りたい人もいると思うよ」「そうかな」「うん。私も知りたいなあ」ドキッとする。そんなことを言われてしまうと、本当のことを言ってしまいそうだ。でも、この気持ちだけは言わない。言えない。私は、笑ってごまかす。冴子は、「まあね、急に話さなくても、徐々に話していけばいいことよ」「うん・・・」「そうだ、魔法の呪文を教えてあげる」「呪文?」「そ。アンタフェル・ルブリナ」「アンタフェル・・・」「ルブリナ。覚えた?」「アンタフェル・ルブリナ。覚えた。どういう意味?」「意味なんかないの。意味のない呪文。これを唱えると、私はいつも、どんな気持ちのときでも、それをリセットすることが出来るの。私が勝手に作った、意味ない呪文だけど、まあ、何かあったときにでも唱えてみてよ。きっと何かの効果があるから」「じゃあ今度、唱えてみるね。アンタフェル・ルブリナ」「そ。アンタフェル・ルブリナ」そう言って、二人で笑った。
2004.08.17
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初めて、浅井冴子と喋った。思ったよりも、いい人みたいだ。初対面の印象は、プライドが高いのかなあ、と思ったのだけれども。笑った時の顔を見たとき、私の心は幸せに包まれた。優しい色の、優しい紙に、大切に包まれたみたいな感じ。そしてその心は、ふわぁっ、と軽くなった。一瞬の出来事であったけれども。でも、その時のことを考えれば、どんな嫌なことだって10個は我慢できるだろう。私だけに向けられた笑み。たとえそれが、私の心を通過した笑みであっても。私は幸せだと思った。そのあとも、浅井冴子の姿はちらちら見かけた。話す事も、目を合わせることもなかったけれど。テストが近づいてきたある土曜日。私は大学に行った。普段の土曜日はほとんど授業などないので、あまり行かない。が、テストのためにどうしても見ておきたい資料が図書館にあったのだ。その前に、お昼を食べようと学食へ行った。人はまばら。私はカレーを頼むと、席につく。さて食べようかと思っていると、遠くから、ハイヒールの音がコツコツ、と響いてきた。私は、それが誰なのか知っていた。わざわざ見なくても。その人を見ているとき、必ずその靴音がしていたから。でも不思議だ。今まで、全然気にならなかったその音なのに。どうして急に、気になりだしたのだろう?そのコツコツという音に合わせるように、胸がドキドキするのだろう?その音は、私の近くで止まる。私は顔を上げる。そこには、浅井冴子が立っていた。「あら、あなたこの前の」と、にこやかに言う。「ああ、どうも失礼しました、あの時は」と、私もにこやかに(でも、顔はぎこちなかったと思う)言った。「ねえ、あなたひとり?」彼女が聞く。「ええ、ひとりですけど・・・」「じゃあ、よかったらご飯一緒に食べてもいい?来るはずだった友達が来られなくなって、私もひとりなの」「ああ、どうぞ」私は席を指す。「ありがとう」そう言うと、彼女は席にバッグを置き、カレーを持ってきた。「同じのにしちゃった」そう言って笑った。私も笑ったつもりだったけれども、やはりうまく笑えていたかはわからない。「あなた、何学部なの?」彼女は、一口水を飲んで私に言った。「私は文学部です」「文学部。ふーん」「あなたは何学部ですか?」「私?私は教養学部。心理学コースを専攻してるの」「ああ、そうなんですか」カウンセラーにでもなるのだろうか?もしそうだとしたら、似合っているなと思う。「あなた、名前は?」「私は、金田美佳です」「金田さんか。私は、浅井冴子」「浅井さんは、何年生ですか?」「私、3年生」「あ、なんだ。私と同じなんですね」てっきり年上かと思っていた。「そうなんだ。じゃあさ、もっと気楽に喋ろうよ」そういう彼女だったが、私は彼女との距離がちょっとではあったが縮まったことの嬉しさと緊張で、「気楽に」喋るどころではなかったけれども、私は何とか、「そうだね」と言ったのだった。
2004.08.16
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時々だけれども。自分が生きている意味は、なんなのかと思う。自分のために生きるのだ、という人もいるけれど、それは結局虚しいと思う。パートナーを探して生きる。それが唯一だとは思わないけれど、私はそれが生きる意味だと思う。そのパートナーと幸せになること。そのパートナーを幸せにすること。でも、今の私には、そのパートナーが男であるのか女であるのかわからない。パートナーだからといって、それが結婚という形に縛られなくてもいいとは思う。しかし、それはあくまでも意思の中の話で、実際には、男の人を好きになれなくとも、世間体を気にして、男の人と結婚していくのかもしれない。いつの日か、そんな決断をする日が来るのだろうけれど。大学の図書館で、時間を潰していた。次の講義まで、時間があったからだ。雑誌類も結構あるので、それらをパラパラ捲っていた。図書館は、学生がまばらだった。いまや、文学部の学生でも、あまり図書館にも来ないようだ。図書館がにぎわうのは、試験前くらいなものだ。そこへ、1人の学生がやってきた。浅井冴子だった。彼女は、本も持たずに、席へつくと、顔を机へ突っ伏した。・・・気分が悪いのだろうか?聞いてみたほうがいいのかもしれない。でも、何か考え事かもしれない。邪魔しちゃ悪いかも。でも・・・。思い切って、聞いてみよう。彼女のそばへ行くと、「あの・・・」と話し掛ける。彼女はゆっくりと、顔を上げる。「・・・気分が悪いんですか?」そう言うと、彼女はにこっと笑い、「ううん、違うの。ただの寝不足」と言った。「そうですか、すみません。具合が悪いのかと思ったので」「ごめんなさいね、心配かけて」「じゃあ、あの、ごゆっくり寝てください」「そうさせてもらうわ」そう言うと、彼女はまた机に突っ伏した。私は彼女のそばを離れ、自分の席に戻った。心臓がドキドキしていた。雑誌をめくる手も、かすかに震えていた。それを見て、ちょっと笑ってしまった。15分くらいすると、彼女は顔を上げ、立ち上がった。そして、こちらを向くと、「ありがとう」と言って、去って行った。こちらこそありがとう、と私は心の中で、そっと言った。(つづく)
2004.08.15
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二度目に彼女を見たのは、学食だった。他の友人達と一緒に話をしていた。彼女は、中心的な人物みたいだった。その場にいたのは彼女以外に6人だったが、まんべんなく言葉を交わしていた。みんなも、まず彼女に話を振っていた。頼られているんだなあ、と思った。彼女は笑顔で、輝いていた。彼女のことを、嫌な気持ちにさせるものなんてこの世に存在しないのではないだろうか?と思うほど、自信に満ち溢れた顔でもあった。私はそれを見て、とぼとぼと学食を後にした。自分が、灰色に見えた。学校の帰りに、海に行った。今日は肌寒く、誰も人がいなかった。波のリズムは、呼吸のリズム。海の水は、羊水とほぼ同じ成分。波の音は、胎内の音。だから、人は海を見ると、穏やかな気分になれるのだ。目をつぶると、更に穏やかな気分になる。自分の中のちっちゃな悩みも、ごちゃごちゃな考えも、悲しいことも嫌なことも、全て整理され、整っていく感じ。江美に言われたことがある。美佳は、心の一番深いところで、物事を考えすぎる。だから、他人が入っていけない。いや、入って来させないんだろうね、多分。それじゃ、自分を追い詰めるばかりだよ。もっと、浅い所で考えるようにした方がいいよ、と。確かに、私は深い所で考える。入ってこさせようとしないのも、事実だろう。自分の悩みだから自分で考える。人に考えてもらうべきものではない。そう考えていたけれど、本当はそうではない。悩みを人に悟られたりしたら、誰かが後ろ指を差すんじゃないかと思うのだ。あんなことで悩んでいるよ。くだらないよね。おかしいよね。そういうことを言われたくない。だから、深い所で悩んで、他人に入らせないようにしているのだ。それを癒してくれるのは、せいぜい海くらいなものだ。浅井冴子は。彼女は、悩みなんてあるのだろうか?例えあったとしても、あの笑顔で跳ね返すんだろう。そして、更に笑顔になっていくのだろう。ますます遠い存在になる。そうやってひがんでいる自分に嫌気を感じた。彼女との距離は、開くばっかりだ。(つづく)
2004.08.14
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周りの友人達は、集まれば彼氏の話題でもちきりとなる。「昨日、彼と○○へ行って来たの」とか、「夏休みに、彼と海外行くんだ~」とか。私はそれを、ただふーん、と聞いているだけ。「美佳は彼氏いないの?紹介してあげよっか?」私は、笑って首を振る。「なんで、彼氏いなかったらつまんないじゃん」「うーん」実際、前に紹介して、デートしたこともある。3回ほど。1人は自分の自慢話ばかりして、こちらの話を聞かない。1人は無口で何も喋らない。1人は何かとお喋りで、ただうるさいだけ。こちらも、楽しくする努力をしないといけないんだろうけれど。努力をすべき相手ではないと思い込んだら、もう何もしたくなくなる。好きな相手なら。もちろん努力するだろう。笑ってもらえるように。楽しんでもらえるように。いい時間だった、と思ってもらえるように。「やっほー、わたし」江美から、電話があった。「あら、何か用?」「用がないとかけちゃダメ~?」「そんなことはないけど」「もしかして、今デート中とか?」「違うよ、家にいるもの」江美は、私のこのことを知っている。けれど、浅井冴子を好きになった、ということは言っていなかった。「今は、好きな人はいないの?」江美は言う。「うん、いないよ」本当は、言うべきなのだろう。けれど、何だか言えずにいた。私の気持ちの本当の部分は、理解されることがないと知っているから。それは、江美が悪いのではない。仕方のないことなのだ・・・。「江美の方はどうなの?温人君とは?」「それがね、あいつアメリカに行くとか言い出して」「アメリカ?留学するの?」「何か仕事をしたいとか・・・。私も良くわからないよ」「大学はどうするのよ?」温人も江美も、大学生である。「やめるんじゃないかな」「それで、どうするの、江美は?」「どうしようね。あいつ、あっち行ったら簡単には帰って来そうにないからなあ・・・」「もう、結婚しちゃえば?」「私もね、それでいいかなあ、と思うんだけど・・・」「けど、何よ?好きなんでしょ?」「あのね、結婚となると、好きとか嫌いだけで考えられないのよ。この先一生付き合っていくんだもの、好きだけでいいわけないじゃない?いろいろ考えるのよ」「ああ、そうか、そうね・・・」男と女の恋なんて、お互いが好きならそれで決まり。なんて簡単なことだろう。そう思っていたけれども、そんな簡単じゃないんだね。当たり前だけど。「まあとりあえず、そんな急に行くわけでもないと思うから、じっくりと考えてみるわ」「そうだね、その方がいいよ」「美佳もね」「ん?」「好きな人がいるなら、素直に言いなさいよね」「え?」「いるんでしょ?今、好きな人」「・・・どうしてわかったの?」「だって、考えてるっていうのが伝わってきたよ。言っていいものか悪いものか。でも、言わないでおこうかな、って感じ」「・・・よくわかってるね、私のこと」「あはは、当たり前じゃない。友達だし」江美は何でもわかるのだ。「でもね、詳しくは聞かないよ。いいたくなったら言ってね。聞いてあげるからさ。遠慮しっこなしよ!」「うん、わかった・・・」「じゃあ、またね!ばいびー」「うん、また」電話は切れた。江美はすごいなあ、と感心してしまう。自分で悩んでいるのにもかかわらず、私の悩みをわかるのだから。江美は、ふだん結構男っぽいところがあるけれども、こういうところは本当に女だなと思う。私も見習わないといけない部分だと思う。(つづく)
2004.08.13
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人を好きになったら。もっと喜べるはずなのに。毎日毎日、ドキドキして、それだけで幸せになれるはずなのに。自分は、世界中で一番幸せだ、と大袈裟に思えてしまうのに。私は、してはいけない恋だと思っていたから、芽生えた気持ちは、小さいうちに刈り取るようにしていた。気持ちが大きくならないうちに。それでないと、あとで悲しいから。心の奥まで浸透してしまった気持ちを刈り取られると、そこが傷になって、いつまでもジュクジュクジュクジュクと痛むから。だから。しても決して実ることのない気持ちは。すぐに、刈り取って捨てた。なのに。また、好きになってしまったのだ。浅井冴子。同い年の、女性。私とは、全く違う、生まれた時から、女純度100パーセントであったろう、指の先から頭のてっぺんまで、完璧な女性。初めて見たのは、心理学の講義だった。出席をとらない講義だったので、席がスカスカだった。私は、自分がこんなであるから、心理的なことに興味があったので、毎回欠かさず出ていた。私が真ん中くらいの席で、あと2、3分くらいで講義が始まる、というとき、私の斜め前の席に、ふわりと座った。しなやかに。バッグからノートと教科書、ペンケースを取り出す手は、しなやかだった。きれいなピンク色の爪。細い指。白い手。そして、音もなく置かれるノート、教科書、ペンケース。私は、本当にばかばかしいのだけれど、そういう完璧な女性を見ると、負けたなあ、と思ってしまう。負けたと思うかえから、もう負けていると心得ているのに、なぜか負けたなあ、と思ってしまうのだ。彼女の周りには、ふわりとしたオーラが見えた。こちらまでが優しい、明るい気持ちになれるピンクのオーラ。彼女は美人だった。眉がきりりとして、穏やかそうに見えるけれども、きっと根は強い、負けず嫌いな感じだろうなと思った。私は、強い女性が好きだ。強がりな女性ではない。強い女性。何をするにも常に自信を持っていて、でもそれが鼻につかない。もし、失敗したとしても、それまでが絵になってしまうような女性。そんな女性が好きだ。私は講義中、何かにつけ、彼女の様子を窺っていた。私がもし男だったら、ちょっと挙動不審に見られるかもしれなかった。でも、幸いなことに、私は女だったので、大丈夫だった。彼女はまっすぐに、教授の話を聞いていた。他のことに、気をとられることなく。ときどき教科書に目を落とし。ノートを丁寧にとっていた。彼女の髪は肩までの長さで、やわらかそうな髪だった。つい、手を伸ばして触れそうになった。でも、大丈夫。そんなことはしない。講義が終わると、彼女はまた静かに、しなやかな手でノートや教科書やペンケースをしまい、ふわりと立ち上がり、教室を出て行った。私はただそれを、見ているだけだった。そして、早くこの気持ちを刈り取らなければ。そう思っていた。(つづく)
2004.08.12
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私には、女が足りない。そう感じたのは、小学一年生頃だったろうか。他の女の子は、みんなスカートをはいていた。ズボンをはく子もいたけれど、それだってスカートをはく時はある。でも、私ははきたいと思わない。というか、根っから拒絶していた。私は、そんなものははきたくない。今考えると、それは拒絶というよりも、むしろ「怖れ」であったのだと思う。女であることへの怖れ。どうして私は女なのに、女を怖れるんだろう?そんなこと、誰にも聞けなかった。母親にも、友達にも。だって、みんな当たり前の顔をして「女」をやっているから。誰一人、そこからはみだすことなく、うまく馴染んでいるように見えたから。でも、私は馴染めなかった。似合わない服を無理矢理着せられているような感覚。脱いでしまいたい。でも、脱げない。脱げないのなら、剥がしてしまえばいい。でも剥がしたら、私は死ぬんだろうな。それは怖くて出来なかった。まわりにいる女の子の中にも、男の子っぽい子はいた。でも、それはあくまでも「ぽい」だけで、女というものがきちんと根ざしているように見えた。今考えたら、あの女の子たちの中にも、女というものに馴染めない子が、少しはいたかもしれない。私は、女を見ると、自分とは遠い所にいる生き物だな、と思う。特に、女としてのひとつひとつの部分を見ていると、それを感じた。それは例えば、指先のしなやかさだったり。髪をかきあげる時の、しぐさだったり。スカートをはいた時の、スカートからさし出されている色っぽい足だったり。私には、それらがない。いや、あったとしても、自らそれはかき消してしまう。女というものを、自分で感じたくないから。少しでも、自分の中に蠢く女を見つけたら、それを排除してしまう。私は、女が足りないというより、女という器が足りないのだと思う。器が小さいから、女になれない。こんな私のことを知っているのは、二人だけだ。高校の時の親友、今端江美と、川上温人だ。この二人は高校の時から付き合いだし、今も付き合いは続いている。ちょっと変わり者の温人君だが、根っからの善人で、私が悩みを一番に相談した人だ。こんな悩みを二人もの人間が知っていてくれるというのは、非常に心強い。今でも時々相談する。・・・しかし。結局、彼らは普通で、まともな人たちだから、私の心の複雑さはわからない。それは仕方の無いことだ。そんな彼らが、私を理解してくれることには、感謝しなければいけないことなのだ。でも、気持ちが同調するということは決してない。わがままだけれども、それはとても寂しいことなのであった。私の名前は、金田美佳。この名前、あんまり好きではない。どうやっても女性の名前だからだ。もうちょっと、男でも女でも通用する名前だったら、多少救われたのに、と思う。この名前をつけたのは父親で、「佳作くらいの美しさを」と思ってつけたということだ。父も母も、それほどハンサム・美人のカップルではないので、控えめにつけたそうだ。男に生まれればよかったのに・・・ということは、小さい時に何度も思った。でも、だんだん年を経てくると、男になりたいわけではないのだ、ということを自覚した。自分の気持ちが、女性を拒んでいるだけだった。この、拒む気持ちをとってやれば、私はきっと普通の女になれるだろうと思う。このように、私は自分が女であるということに、常に違和感があった。なのに、私が好きになるのは、何故か女性だったのだ。拒みたいほど女が嫌なのだから、思いっきり男が好きになれそうなものだが、男を好きになれない。もちろん、全く嫌いというわけではない。今までにだって、好きな男の子は何人かいた。でも、心の中をほわっと温かくして、幸せな気持ちにしてくれる人は、男の子ではなかった。女の子なのだ。男の子を好きになるということは、自分を女だと意識するから、好きになれないのかとも思った。でも、女を好きでも、自分が女であることには変わりないのだから、この考えは当てはまらないような気がする。私は、どうして女なのに、女の人ばかり見て、それを追求してしまうのだろう?そんな自分が嫌だった。相手の女性を好きになればなるほど、その気持ちは深くなった。彼女に会ったときも。私は一目で、この人を好きになる、と確信してしまった。幸せな、でも気の重い確信であった。(つづく)
2004.08.11
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この小説の主人公は、「ココロアタタカイヒト」に出てきた、金田美佳が主人公のお話です。あれから、5年後のお話。大学3年生になった美佳。女というものに不自然さを感じていた美佳でしたが、それをようやく受け入れることが出来ようとしていました。しかし。愛すべき相手は、やはり、女性でした。今好きなのは、同じ年の、同じ大学にいる、浅井冴子という女性。美人で、頭も良く、自分とはかけ離れた存在だと思う美佳。しかしとある日、学食でお茶を飲むことになる。そのときに、煌いて見える彼女の、暗い一面を知ることになる。そして、やがて彼女は行方不明になる・・・。そんな感じのお話です。今回は「イナズマ連載」ではないので、じっくり考えて書くつもり・・・。明日から始めます。よろしく~。
2004.08.10
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放課後。私はお見舞に行こうと思い、担任に病院の場所を聞き出した。「あんまり長居はするなよ。まだ具合が良いとはいえないんだからな」担任が言う。「わかってますよ、もちろん」「お前は、ただでさえ声が大きいんだから、それだけで迷惑になりかねないからな」「そんな大きくないですよ。ちゃんと病室では抑えますから」「よろしく頼むぞ」私が職員室を出ようとすると・・・。「あ、江美」「あら、美佳。どうしたの?」「うん、ちょっと先生に聞きたいことがあって・・・」「もしかして、温人の病院?」「う、うん」「お見舞い行くんなら、一緒に行こうよ!あ、部活はどうするの?」「部活は、休むから・・・」「そう。じゃあ、一緒に行こう!」「うん、そだね」「じゃあ、早くいこっ!」やばいなあ。金田美佳は内心思っていた。温人君の家に言ったことがばれちゃうなあ。でも・・・この際、江美にも言っておこうかな・・・。なんて言っても、親友なんだし・・・。江美はちょっと変わってるから、きっと他の子みたいに、変な目で見ることはないだろうな・・・。いいチャンスだわ。言ってみよう。校門を出たところで、美佳は切り出した。「ねえ、江美」「なーにー?」「私ね、実は昨日温人君の家に言ったの」「へー、そうだったの?どうして?」「うん、相談事があったから」「あらあら。私には出来ない相談なの?」「うん、そう思って、温人君なら話をきちんと聞いてくれるかな、と思って行ったの。それで私を送ってくれた帰り、刺されたみたいなのよね」「そうだったの。何だか責任感じるわよねー」「そう。もしかしたら私のせいかもって思ったし」「でも、悪いのは犯人だからね。美佳は全然悪くないし」「うん、それでね」「ん?」「温人君にした相談の内容だけど」「別に言わなくてもいいよ。友達でも言えないことってあるでしょ?」「ううん、聞いて」「言うんなら、もちろん聞くけど」「私ね、男の人が好きになれないの。女の人が好きなのよ」江美は立ち止まった。美佳も立ち止まる。「そうだったの?」「そうだったのです」「・・・ぜーんぜん、わからなかったわ」「知られないようにしてたもん」二人はまた歩き出すと、江美は、「今好きな人、いるの?」「いる」「学校の人?」「ううん。江美の知らない人」「そっかあ。美人?」「うん!すごく、美人。私には届かないくらいの美人」「その人は、美佳の気持ちに気づいてるの?」美佳は頭をブルブル振ると、「まさか!話だってそんなにしたことが無いもん」「何歳くらいの人?」「3歳上なんだ」「じゃあ、20くらいだね。学生?」「そう」江美はまた立ち止まると、美佳のことをぎゅ~~っと抱きしめた。「ちょっと江美、何?」「美佳、つらいだろうけど、私は応援してるからね!その人と、幸せな時間が作れるといいね!」「江美・・・ありがと。話してよかった。嫌われるかと思ったから」「嫌う?どうしてよ?」「だって、そんなのおかしいことだから」「ははは、他の人がどう思っても、私は変になんか思わないわよ。好きなんだからさ、頑張ってよ!」「江美、ほんとありがとね。そんなに強く抱きしめられたら、江美のことまで好きになっちゃうよ」「美佳ならいいよ、好きになっても」「うーん、でも私、ガニ股の人はちょっとな―」江美はパッと離れると、「ふん!失礼な人だわっ!」と言って、歩いていく。「ちょっと待ってよ、冗談に決まってるでしょ!」「どーだかー」そうして、笑い合いながら病院へ向かった。温人の病室。「ねえ、私ちょっと家に帰って、用事を済ませてきちゃうから」そう言って、私は立ち上がった。「良いですよ。お気をつけて」「早く帰るね」「そんなに急がなくても大丈夫ですから」「私が早く帰りたいんだもん」「ははは。じゃあ、僕も、早く帰るのを待ってますよ」「じゃあ、行ってくるね」そう言って、病室を出た。向こうから、女子高生が二人歩いてきた。あのガニ股は・・・今端さん、それと隣にいるのは金田さんね。「温人君のお母さん!」二人が駆け寄ってきた。「こんにちは」「温人君の具合、どうですか?」江美が聞く。「うん、今元気よ」「あの・・・お母さん、ごめんなさい」「何が?」「だって、私が送ってもらった帰りに、あんなことになったから・・・」「いいのよ、金田さんが責任感じなくても」「でも、謝らないと。済みませんでした」美佳は頭を下げた。「大丈夫大丈夫、さ、温人にあってあげてね。私はちょっと家に帰ってくるから」「はーい、いってらっしゃい!」「あ、病室わかる?ここをまっすぐ行って、右に曲がった3部屋目ね」「はーい、ありがとうございまーす!」若いって良いわね、健気で素直でかわいくて。そんなことを思いながら、温人の母は病院を出た。こんこん。「はい、どうぞ」ドアが開くと、「温人、こんちー!」「温人君!」江美と美佳は、売店で買った花とともに登場した。「ああ、今端さんに金田さん」「どうよ、具合は?」「もう、元気ですよ。まだちょっと痛みますが」「ごめんね、温人君。私のこと送ってくれたあとにこんな目にあって」「悪いのは犯人ですよ。金田さんじゃありません」「美佳ね、さっき温人のお母さんにも謝ってたよ」「そうですか、かえって申し訳ない」「ううん、そんなことない」「でも、金田さんが巻き込まれなくて幸いでした」「そうよね。下手したら、美佳だって巻き込まれるとこだったもんね」「ねえ、私、この花花瓶にいけてくるわ。この花瓶借りてもいい?」美佳が、近くにあった空き花瓶を指して言う。「ありがとうございます。どうぞお使いください」「じゃあ、行ってくるね」美佳は出て行った。「美佳から、相談受けたんだってね」「あ、知ってるんですか」「さっき、ここ来る時に美佳から聞いたんだ。話の内容もね」「そうだったんですか。今端さんに話せたのなら、金田さんも少し心が軽くなったでしょうね」「そうね。私は美佳のことはずっと応援するんだ。温人は?」「もちろん僕も応援しますよ」「よかった」少し間が空き・・・。「今端さん」「ん?」「ちょっと、お話したいことがあるんです」「何よ、改まって」「僕は、あなたのことが好きです」江美は、じっと温人のことを見てたが、「私?」「そうです」「どうして私なの?」「僕、刺された夜、夢を見ました。あなたが出てきて、僕のしたことを褒めてくれました。他の人はみんな、僕をバカにしていましたが」「あのね、それは夢の話でしょ?」「でも、僕は眼が覚めて、思ったのです。今までは僕は、いろんな人に優しくしたいと思ったけれども、これからは、あなたに第一に優しくしたい、と」「ねえ、私のどこが良いわけ?」「ちょっと変わったところ。ガニ股で歩く所。その他もろもろ」「ちょっと、そのガニ股で歩くって何よ?」「そのユニークさが好きなんです」「それ、褒め言葉?」「もちろんです」「ふーん」「今端さんは、僕のことをどう思いますか」江美は視線を下げ、「・・・変わった奴。面白い奴」「それだけですか」江美は、視線を上げると、温人のことをぎゅっと見つめ、「私も好きよ」と言った。「でも、温人はいつもみんなに視線が向いてたし、こっちにむくことは無いだろうな、と思って、ずっと考えないようにしてた。でも、ここの所、ずっと思ってたのよね・・・。変わった奴だけど、好きだなあ、って」「じゃあ僕と・・・」温人がそう言おうとした時、ドアが開いた。「おめでと~~~~~!!ひゅ~ひゅ~だよ~~~~~っ!!」そこには、花瓶を持った美佳と、高田恭一、そして偉く大きな箱を持った阿立ことみがいた。「ちょっと、みんな何してるの?」「温人君、江美。今の話、しっかと聞かせていただきました!」美佳が嬉しそうに言う。「高田君と阿立さんはいつの間に来たのよ?」「いや~、病室の前まで来たら金田さんがじっとしてるから、どうしたのって聞こうとしたら、しーっ、て言われたから、言われるがままにしてたのさ」「そしてそのあと、私がやってきたわけです!」阿立ことみ、なぜに嬉しそうなの?あなたの好きな温人が、別の女に告白しているのに?「阿立さん、申し訳ありません」温人が言うと、阿立ことみは「いいえ、温人様。私は今でも温人様が好き。でも、その温人様が幸せになろうとしているんですもの、私も嬉しいです!」やっぱり変わってるわ、阿立ことみ。「今日は、ことみ特製、スペシャルケーキを持ってきました」そしてその箱をどん、と置く。「自分で作ったの、これ?」「いいえ、使用人に作らせました」作らせておいて、ことみ特製、とは。やっぱりただものじゃないわ、阿立ことみ。「よし、じゃあみんなで食おうぜ!お祝いだ!」「じゃあ、開けますわよ!」そう言って、ことみが箱を開けると・・・。「うわ、なんだよこれ!?」原形がとどまっていない、ぐちゃぐちゃになっていた。「あー、私途中で抱えて走ったからかナ?」「こんなもんもって、抱えて走るかよ普通!」恭一が言う。「だって・・・」阿立ことみ、泣きそう。「まあまあ、良いじゃないですか。形は違っても、同じケーキです。頂きましょう」温人は、ベッドの横のサイドテーブルから、フォークが無いのでスプーンを取り出し、みんなに配った。「スプーンで食うケーキなんて始めてだぜ」恭一はそう言って、「じゃあ、いただきます!」と言って、初めに口に入れた。入れたとたん、動きが止まる。「どうしたの?」江美が聞くと、「何かこれ、塩辛いぞ・・・」「塩辛い?どれどれ」みんな、ケーキを小さくすくって口にいれた。「わ、本当に塩辛いわ!」「塩と砂糖、間違えたんじゃない?」ことみにそう言うと、「ばあやったら、何でそんな初歩的なミスするのかしら!もう首よ!」「阿立さん、ばあやさんだってわざとやったわけじゃないんですから。僕は食べますよ」そう言って、温人はモリモリ食べ始めた。「ちょっと、温人!けが人はそんな無理をしちゃダメ!」「でも、ケーキがもったいないです」「わかったわ、私が食べる」江美は、スプーンでケーキを大きくすくうと、モリモリ食べた。「ステキ!愛の力ね!」美佳が言い、「今端、すっげーな!」と恭一は言い、「根性ありますね!」と、阿立ことみは言い・・・。誰か、食べるの手伝いなさいよ?でも、食べるのをやめられないわ。だって、温人が嬉しそうなんだもの。やめたら、悲しそうなな顔するわね、きっと。でも、前だったら絶対こんなことしなかったのに。これってやっぱり、愛の力かしら。けど、大変だわ。温人と付き合うようになったら、こんなことばっかりしなきゃいけないような気がする。・・・でも、温人、本当に幸せそうだ。まあ、いいか。でも、阿立ことみのばあや、ちょっとだけ恨むわよ?(終わり)
2004.08.09
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私よ。花も恥らう、今端江美よ。でも、恥らっていられないわ。温人が刺されたなんて!でも、意識は戻ったみたいだけれども。ああ、今日の帰り、お見舞にいくべきかしら!行くべきよね!もう学校中、温人の話題でいっぱいよ。私、金田美佳。昨日、温人君は私を送った帰りに、強盗に刺されたらしい。私のせいかもしれない。私が、温人君の家に行かなければ、そんなことにはならなかったかもしれない。今日、お見舞に行こうかしら。俺、高田恭一。温人が刺されたって。大丈夫かな。でも、強盗に刺されたのに、おばあさんの手提げ袋を放さなかったらしい。さすが温人。ますます尊敬するぜ。今日、お見舞に行こうかな。私、阿立ことみ。温人様が刺された!具合は大丈夫なのかしら?命に別状は無いらしいけれど。ことみ特製、スペシャルケーキを持って、お見舞に行っちゃおうかしら?お見舞くらい、行ってもいいわよね?学校では、緊急集会が開かれた。校長は、行動は立派であるけれども、ちょっと無謀な行為でもあるので、身の危険を考えて、警察へ連絡しましょう、ということだった。なんだか、温人のやったことが良くないこと、みたいな感じのいいかたね。校長、もっと温人のことを褒めてあげてよ。痛い思いしてまで頑張ったんだから。校長がその場に居合わせたら、見本みたいな行動できる?逃げちゃうんじゃない?まあ、いいわ。少なくとも私は、温人のやったことは偉いと思ってるから。もしそれで死んじゃったら悔しいけれど。犯人を、殺しちゃうくらい。でも、温人は生きてるんだし。だから、私は褒めてあげよう。よくやったわね、温人!偉い偉い!!ってね。みなさま、こんにちは。川上温人です。このたびは、いろんな人に迷惑をかけてしまいました。夢の中で、とある人の夢を見ました。偉いね。すごいよ、と、本当に褒めてもらったのです。そして、気がついたのですね。その人を、好きだということに。もっともっと、その人に褒めてもらいたい。その人のためだけに何かをしてあげたい。僕は今まで、誰にということもなく、みんなのために優しくしようと思って生きてきました。特定の人だけに優しくしたことも無かったし、そう思ったこともなかったのです。でも今回、あの人だけに優しくしたい、と思ったのです。これは、不純でしょうか。でも、好きになったら、その人を大事にしたいとか、優しくしたいとか、自分をよく見てもらいたいとか、思いますよね。今の僕はそうなのです。だから最初は躊躇しました。好きだ、と心から認めたら、僕はみんなに優しくすることが出来なくなるぞ、と。好きな人だけにしか優しくならなかったら、僕の生きる目標である、「心温かい人になる」ということが、達成できないだろうな、と。しかし、僕は思いました。優しくすることは、きっと限界がある。1度に10人、困っている人が現れたら、そのうちの何人かにしか優しく出来ないのだから。そうしたら、自分が一番大事だと思う人を助けたい。助けるべきだ、と思うのです。だから、その人に告白しようと思うのです。退院したら、すぐにでも。もしかしたら、思いは届かないかもしれないけれど。言わないよりは、言った方がいいでしょう?だから、言うつもりなのです。(つづく)
2004.08.08
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病室のドアを開けると、もう先生はいない。「ああ、お母さん」「もう診察終わったの?」「ええ。終わりましたよ」「温人にねえ、お客さんよ」「お客様ですか?」私は、おばあさんを病室に入れた。「ああ、おばあさんでしたか!」「ごめんなさいね、私のせいでけがしちゃって」「とんでもない、悪いのは強盗ですから」「でも、ありがたかったです。ひったくられた手提げには、お財布とか保険証とか、大事なものばかり入っていたから・・・。だけど、あなたが刺されたときは、わたしも心臓が凍ったみたいになって死んでしまうかと思った」「そうよ、温人。そういうときは、まず警察に電話することよ」「お母さん。僕がどうして警察へ電話せず、直接強盗を追いかけたかわかりますか?」「どうしてかって、温人が無鉄砲だから?」「いくら僕が無鉄砲だからと言っても、僕だって警察へ電話しますよ。怖いですからね。でも、僕はおばあさんの手提げを見て、取り返さないわけにはいかなかったのです」「手提げがどうかしたの?」「おばあさん。あの手提げは、おばあさんがご自分で作ったものですよね?」「ええ、そうです」「うちのおばあちゃんも、自分で作った手提げを持っていましたよね」「ああ、持ってた持ってた」旦那のおばあちゃん、温人にとってはひいおばあちゃんだ。「おばあちゃんにはよく遊んでもらいました。おばあちゃんは、自分の手提げを持っていて、その中からお財布が出てきたりハンカチが出てきたり、ティッシュが出てきたり・・・。魔法の袋みたいでした。それをよく覚えていて。おばあちゃんに恩返しをすることもなく、おばあちゃんは亡くなってしまいましてけれど」「そうだったね。よく遊んでくれたもんね」「だから、おばあさんの手提げを見たとき、僕はおばあちゃんを思い出したんです。おばあちゃんの手提げがひったくられる。おばあちゃんの魔法の袋。僕を幸せにしてくれる袋。それを盗まれたくない。盗んでいく奴が憎い・・・。そう思ったんです」「そうだったの・・・」「だからおばあさん、まず僕が思ったのは、おばあちゃんの手提げを守りたい、ということだったのです。それなのに、ご心配おかけしてしまって、大変に申し訳ないです」温人は頭を下げる。 「いいえ、とんでもない。そのおかげで、私の手提げ袋は守ってもらえたし・・・」「だから僕は、強盗に刺されても、手提げを絶対放すものかと、必死につかんでいたんです」「きっと天国のおばあちゃんも、喜んでいるでしょうね」「そうだといいのですが」その時、病室のドアが開いた。「おはよう!温人!具合いいか!!」旦那が元気に言う。「はい!大丈夫です!ご迷惑おかけしました!」「よかったよかった!・・・あ、おばあさん、来ていらしたんですね」「おじゃましとります」「昨日は妻が悪態をつきまして・・・」「いいえ、それはもう十分謝っていただきましたので」「悪態?悪態とは?」「いいえ、たいしたことではございませんよ」「お母さん、何か失礼なことを言ったんですか?」「ん、まあ、ちょっと・・・」「何を言ったのです?」「いや、いいんです。言われても当たり前のことでしたので・・・」「お母さん?」「あ、そうだ、温人」「なんですか、お父さん?」「学校に電話しといたからな。しばらく休むって」「あら、気が利くわね~!」「もちろんさ」「では、私はこれで帰ります」「あ、じゃあ私途中までお見送りしますわ」「いえ、とんでもない・・・」「いやいや、お送りしますので」私はおばあさんにウィンクする。おばあさんは察してくれたようで、「じゃあ、またお見舞い来ますからね」と温人に言った。「ありがとうございます」温人はお辞儀をした。「じゃ、見送ってきま~す!」私はおばあさんとともに病室を出た。「あの子、追求するとしつこいんです」私はおばあさんに言った。「おまけに説教されるから、怖くて」「でも、しっかりした息子さんですね」「しっかりしすぎなんです」「私も、ずっと子どもが欲しかった。でも、できなかった。産めない身体だったのです」「そうなんですか」「見ていると、羨ましいです」「おばあさん、温人が退院したら、うちへご飯食べに来ません?」「ご飯ですか?」「はい。みんなでご飯を食べましょう」「うれしい・・・」「ご飯はね、温人に作らせますよ。温人のほうが上手なんです」「・・・ありがとう、ありがとう」おばあさんは、泣きながら手を合わせた。(つづく)
2004.08.07
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温人は、静かに眠っていた。まだ、意識は戻っていない。でも、温人の顔は穏やかで、子供の頃の寝顔のようだった。幼稚園の頃の、無邪気な笑顔。思えばあの頃から、わがままを言わなくなった。それが温人の望みというのならいいけれど。でも、どこかで無理してるんじゃないかな・・・と、いつも心の中で思っていた。立派であることは素晴らしい。でも、立派であることが幸せとは限らない。温人、あなた幸せなの?次の日の、朝。旦那は昨日、家に帰り、私はあいていた病室で寝させてもらっていたが。「川上さん!起きてください!温人君が!!」私はがばりと起き上がる。看護師さんがいた。温人が、どうしたの!?「温人君が、目を覚ましましたよ!」私はベッドから飛び降りると、急いで温人の病室へ向かった。「温人~!!」と私が叫びながら病室へ入ると、「ああ、お母さん。このたびは大変迷惑をおかけしまして・・・」と、ベッドの上でお辞儀する温人。私は温人をしかと抱きしめ、「心配したんだから~~~~!!」と言った。「あの、お母様。温人君にまだ無理をさせないで下さいね?」「ああ、ごめんなさい」私は温人から離れると、「温人、具合悪いとこない?」「大丈夫です!」「そっか・・・よかった・・・」病室に医師が入ってくる。「今から診察をしますので、お母様はちょっと表でお待ちいただけますか?」「あ、はい。わかりました」私は病室を出て、旦那に電話をかけた。「あのね、温人意識が戻ったの!」「そうか!よかったな。じゃあ、会社行く前に、病院寄るから」「大丈夫なの?」「当たり前だよ。じゃあまたあとでな」「うん」本当に、良かったわ。公衆電話の受話器を置き、廊下の先を何となく見ると・・・昨日の、おばあさんがいた。おばあさんは私を見ると、その場で深々とお辞儀をした。私はおばあさんに駆け寄ると、「おばあさん!温人、意識戻ったんですよ!」と言った。おばあさんは、堅かった顔を笑顔にして、「ほんとですか!・・・ああ、本当に良かった・・・」と、手を合わせている。「おばあさん、昨日は大変申し訳ありませんでした。私、ひどいことを申し上げました」私は深くお辞儀をした。「そんなことないですよ。言われても仕方がないんです」「いいえ。大変ご無礼を申し上げたと、本当に心から反省しております」「私、あなたの様子を見て思いました。本当に、息子さんを愛していらっしゃるのだな、と。その息子さんが理不尽なことで奪われたら悔しい、ということが感じられました」「息子のことは、愛しています」「そうでしょうね。そして、旦那様の愛も深くていらっしゃる」「旦那、ですか?」「あなたを殴りなさった。でも、あれは暴力ではなくて、愛でした。あなたは、殴った時の旦那様の愛を、感じていらしたでしょう?」「はい。ものすごく」「では、あれは愛ですね。信頼しあっている夫婦だと思いました」「いや、お恥ずかしい限りで・・・。あ、おばあさん、温人に会って行ってやってください。きっと喜びますよ」「いいのですか?」「ええ、どうぞどうぞ」「じゃあ、お礼を述べなくては」「でも、あんまり褒めすぎないで下さいね」「どうして?」「『お母さんも、もっと人の役に立ってください』なんていう説教をしだしますから」「まあ、そうなんですか」「そうなんです。でも、私は不出来な親ですから、それは出来ないんですよ~」「ははははは」私とおばあさんは、そんな話をしながら病室へ向かった。(つづく)
2004.08.06
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手術中のランプが消え、医師が出てきた。「ご両親ですか」「はい、そうです」「お子さんの傷は大変深かったのですが、何とか手術は成功したと思われます。しかし、予断を許せない状況です」医師は全く笑顔を見せなかったので、その言葉どおり、危険な状態は回避できていないのだと感じた。「わかりました。ありがとうございます」「では」医師は頭を下げると、手術室へ戻って行った。私はイスにへたれこんだ。温人は今、どんな顔で眠っているのだろう。「川上さん!」見ると、水田さんと奥さん、そして、見たことの無いおばあさんも一緒にいた。「いやあ、遅れましてすみません」「いえ、とんでもない。お忙しい所を」「それで、温人君の容態は?」「手術は終わりましたが、まだ油断できないということです」「そうですか・・・ああ、そうだ」水田さんはおばあさんを見て、「ひったくりにあった、おばあさんです」「ああ、大丈夫でしたか?」旦那がそう尋ねると、おばあさんは頭が床に付くかと思うくらい、頭を下げて、「申し訳ありません。私がひったくりにあったせいで息子さんを巻き込んでしまいまして・・・」「とんでもないです。お怪我はありませんでしたか?」「私は・・・大丈夫です。若い方に万が一のことがあったら、と思ったら、いても立ってもいられなくて・・・」「どうせボーっとして歩いていたんでしょう?」私は言った。「おい、お前」「ボーっとして歩いているから、ひったくりになんか遭うのよ!」「申し訳ありません!!」おばあさんは、更に頭を下げる。「もし温人が死んだら、あなたどうやって責任とってくれるのよ!!」「やめないか、お前!」「だって、そうじゃないの?何で何の関係もない温人がこんな目にあって、被害者当人がなんでもないのよ!?おかしいじゃないのよ!」「いいかげんにしろ、この野郎!!」旦那は、私を平手で張り倒した。私は壁にぶち当たった。「川上さん、やりすぎだろ!」水田さんが、旦那を止めた。私は、走って病院を出た。外の広場にある、ベンチに座る。そうして、思いっきり泣いた。温人のことを思い。自分のバカさを情けなく思い。おばあさんに申し訳なく思い。大声で泣いた。「川上さん、いくらなんでもありゃやりすぎだよ」水田さんが言う。俺だってやりすぎだったと思う。でも、あいつはああやって止めてやらなければ、自分を止められない。止められなければ、自分のせいでいろんな人が傷つくのだということも知っている。そのために、極端に落ち込むことも知っている。あれが正解だとは思わないが、あれしかないのだ。「おばあさん、うちの息子は、人のために役に立つことを喜びとしています。だから、きっとおばあさんのことを助けようとしたことを、誇りに感じていることと思いますよ」「・・・私は、もう独り暮らしで、誰のお役にも立てません。いつ死んだって、いい身なんです。そんな私がなんともなくて、若い方が死んでしまったりしたら、本当にどうしようかと・・・」「おばあさん、今言ったこと、そのまま息子に言ってください。おばあさん、きっとお説教されますよ。『命を無駄にするような発言をしてはいけません。おばあさんがいるから、今日も頑張ろうと思っている方はきっといらっしゃいます、だからもっと幸せに行きましょう』というようなことを言うと思いますよ」「俺も、そういう風に言うと思うな、温人君は」「私も言うと思う」水田さんと奥さんも、それに同意してくれた。「ありがたいことです・・・」おばあさんは泣きながら答えた。私がベンチでボーっとしていると、誰かがやってきた。・・・旦那だった。隣に座ると、「さっきは悪かった」と、頭を下げた。「おばあさんは?」「水田さんと一緒に帰ったよ」「そう・・・」「俺、前に思ったことがあったんだ」「なにを?」「温人は、実は取替え子だったんじゃないかって」「え?」「病院で、他の子とすりかわってしまったんじゃないか、って思った。だってどう考えたって、俺たちの子にしては出来すぎだ」「そうね」「だから、温人の血液型を知るのが実際怖くてな。なるべく聞きたくなかった。聞かないようにしていた。でも、お前から俺たちと同じB型だと聞かされたとき、とてもほっとしたよ」「そうだったの」「そしてだんだん俺たちと顔が似てきたから、もう大丈夫だ、なんて1人で思ってた」「ははは。ねえ」「ん?」「もしかしたら、私がどこかで浮気して出来た子だ、なんて思ったことは無かったの?」旦那はびっくりした顔で、「そんなこと、考えもしなかったよ」「信頼されてるのね、私」「もちろん」「おばあさんに悪いことしたな。謝ってもムダかもしれないけれど、明日謝りに行くわ」「そうだね」「あと水田さんにもお礼しなきゃね」「うん」「・・・温人、どんな夢見て眠ってるのかな・・・」「きっと君に説教している夢でも見ているだろうね」「そうね。そうかもしれない」「じゃあ、中に戻ろうか」「うん」私たちは立ち上がった。「ねえ」「なに?」「さっきの、浮気して出来たかもしれない・・・って、あれ冗談だよね?」「さあね」「え?」「ふふふふ、冗談よ」「冗談きついぜ、全く」私は、すっかり静まり返っている病院の中へ戻って行った。(つづく)
2004.08.05
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病院の、緊急オペ室の前にいる。旦那は、今こちらへ向かっている。私は、ただただ手術中のランプをボーっと見ているだけ。水田さんに、温人が刺されて病院に運ばれた、と聞いたとき、身体中をめぐる血液が、一瞬にして氷のように冷たくなったと感じた。私は立っていられず、その場に座り込んでしまった。力が入らない。というか、身体のコントロールができなかった。動かしたくても動かせない。水田さんも慌てており、「俺、車で病院まで連れてってやりたい所だけれども、ちょっと酒飲んじまってるんだ。女房も今日はあいにく出かけてるし。だから、タクシー呼んで上げるから。病院の名前も聞いてあるから大丈夫。旦那さんにも電話して、戸締りして。あとお金も忘れずにね」水田さんはそう言ってタクシーを呼んでくれて、私はその間に何とか戸締りをしたり、旦那に電話をした。病院名を告げると、すぐ行く、と言ってくれた。タクシーが来た。水田さんは運転手に病院名を言い、「女房が帰ってきたら、病院に向かうから」と言って、見送ってくれた。病院に着くと、お巡りさんがいた。温人の事を言うと、このオペ室の前に連れてきてくれ、事情を話してくれた。息子さんは、おばあさんが引ったくりにあい、それを見て犯人を追いかけた時、持っていたナイフで刺されたという。かなり深い傷らしい。犯人は、今も逃げているようだ。もし。温人が死んでしまったらどうしよう?そう思うと、手の震えが止まらなくなる。どうしよう。どうしよう。どうしよう。私は情けない親だ。温人を元気付けるような言葉も浮かんでこない。ただただ、死んだらどうしようなんて思ってる。―廊下の先から、走ってくる靴音が聞こえた。旦那だった。必死になってかけてきた。私は旦那を抱きしめた。ただただ強く。旦那も強く抱きしめ返してくれた。そして、「温人の様子はどう?」「わからない。まだ何も言われてないの。ただ、傷は深いって」「そうか・・・。とりあえず、座って」そう言って、長イスに私を座らせた。「ねえ、温人、引ったくりを追いかけて刺されたんだって」「ひったくり?」「そう。おばあさんが引ったくりにあったんだって。最近、あの辺で引ったくりが多くなってきてるって言ったでしょう?」「ああ、そうだったね」「さっきから私、どうしようどうしよう、ってことばっかり考えてるの。温人が死んだらどうしようって。私、もっと強いかと思ってた。もしこういうことが起こっても、私は冷静に対処できるって思ってたのよ?でも、全然ダメ。ダメなのよ・・・情けない・・・」「温人は大丈夫だって。君もそんなにダメじゃないぞ。自分をダメだ、なんて言ってたら、温人に叱られちまうよ」いけませんよお母さん、自分のことをダメなんて言っては。そんな温人の声が聞こえてきそうだ。「そうね・・・。そうだったわ・・・」二人ともしばらく何も喋らず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。そして、2時間が経過した時・・・。手術中の、ランプが消えた。(つづく)
2004.08.04
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「温人君は、自分のことを男だ男だっていつも意識してる?」「いえ、しません」「女っていうものはね、これは私の持論なんだけれど、ただ女として生まれてきただけじゃ、女になれないと思うの。そこに加わるものが必要なの。でも、私には加える物がない。ないというか、何を加えていいのかもわからない。いや、違うかな。加えることが怖いのかも」「怖いんですか?」「そう。私は女であることが屈辱だって言ったよね。その女に自分から近寄って行くことに、怖さを感じるのかもしれない」「僕は、自分が男であることを当たり前に捉えていましたから、そういう見方をすることも、怖いということも思ったことがありません。だから、僕の思ったことを言いますが、いいですか?」「うん、言って」「たぶん、金田さんは完璧な女性になりたいのではないでしょうか?」「完璧な女性?」「そう。今の金田さんは、自分が女性としての性が足りないと思っています。女というものが、金田さんにはとってもとっても遠い所にあるのですね。それを目指しても、完璧な女にたどり着かないかもしれない。だから、最初から女というものを毛嫌いしてしまうのかもしれないし、怖いとも思うのかもしれない。女の人を好きになるのも、自分の足りない所を求めているのかもしれません。ただ純粋に、その人を好きなのかもしれません。もしそうだとしたら、相手の方の、女というものの美しさに惹かれているわけですよね。それも素晴らしいと思いますよ。自分の中にある性と同じものを、慈しむ事が出来る。自分の心が感じとったものを、無理に押し込めることは無いと思います」「そうよね・・・。好きなものはどうしようもないもんね」「そうですよ」「じゃあ、好きなままでいていいかな」「いいと思います。その方は、どんな方なのですか?」「とってもね、女らしいの。凛としいて、もの静かだけど、きちんと意見を持っていて・・・。私より、ずっとずっと先を行く人」「そうですか。ステキな人を好きになって、良かったですね」「私もそう思う」「金田さんも、とってもステキな女の人ですよ」「普通さ、今みたいに『ステキ』とか言われたら、嬉しいよね。例えお世辞だとしても」「お世辞じゃありませんよ」「ありがと。・・・でもね、その言葉は私にとってやっぱり屈辱。嬉しいって思えないのよね」「じゃあ、金田さんはどういう風に言われることが喜びですか?」「そうだな・・・。あなたらしい、かな」「あなたらしい、ですか」「うん。私のことを、女ということ以前に認めてもらえる感じがする言葉だから」「そうですね。その言葉はいいかもしれない」「でしょう」「金田さんは、きっと今熟してる途中なんですね」「へ?」「りんごの木があるとします。その木のりんごは、まだまだ実が小さくて、とても堅い。だからそれをもぎって食べたとしても、それはまだりんごではないわけです。その状態が、きっと今の金田さんなのではないでしょうか」「まだまだ成長途中っていうこと?」「そうです。きっとこれからどんどん女らしくなるのではないですか?」「そっかなあ・・・他の子はみんな、完璧に女だと思うんだけどな。私が遅すぎるのかな」「僕は、女の人は30歳から本当にきれいになると思うのですよ」「そう?」「ええ。20代までは、その準備期間だと思うのです。金田さんは、30歳以上の女の人を見て、どう思いますか?」「うーん、きれいな人はきれいだけれど、なんかちょっと、もう年なんじゃない?と思うときもあるよ」「そうですか?僕は美しいなあと思います」「温人君て、年上好きなの?」「好き、というわけではありません。ただ、女の人ということを強く感じられますね」「そうか。じゃあ、同じ年の女の子なんて、女を感じないのね」「感じないわけではありませんよ。でも、かわいいという感じのほうが大きいかもしれませんね」「ふーん、なるほど」「あんまりお役に立てない回答でしたね。すみません」「ううん、よかったよ。私はいつも、誰かに言ったら、異常者扱いされるものだと思ってたから。でも、きちんと話を聞いてくれたし、認められた感じがした。相談してよかったよ。ありがとうね、温人君」「いえ、それほどでも」「じゃあ、私帰るから」「では、駅までお送りしますよ」「いい?ありがと」そして二人は玄関へ。美佳は、「ごちそうさまでした」と、台所にいる温人の母親に聞こえるように言った。「あらー、もうお帰り?」と、母親が出てくる。「お帰りですよ」「ごちそうさまでした。ありがとうございました」美佳は頭を下げた。「とんでもない。またいつでも来てね」「はい。ありがとうございます」「今度は温人とじゃなくて、私とおしゃべりしましょうね」「はーい、ぜひ」「じゃあ僕は、駅まで送ってきます」「気を付けてね」「それでは」「はい、さよなら~」母親は、手を振って見送ってくれた。「温人君のお母さんて、楽しそうな人だね」「ええ、楽しい人ですよ」「あのお母さんだったら、さっきの話してもいいかな~って思うな」「じゃあ今度、ぜひしてみてください。相談事をされると、さらに元気になる人ですから」「じゃあ、また遊びに行っていい?」「もちろんですよ」「ありがと」「ねえ」「はい?」「温人君て、何か悩みはあるの?」「そりゃあ、もちろんありますよ」「どんなこと?」「どうやったらもっと優しい人間になれるんだろうかと思うと悩みます」「え?もう十分じゃない」「いやいや、まだまだです。もっともっと、優しくなりたいのです」「へー。本当にえらいね、温人君て」「えらくなんか無いですよ」「え・ら・い・って。今時珍しいよ、そんな人」「でも、優しさも方向を間違えると違うものになりえてしまいますからね。そのあたりがまだまだなのです」「ああ、そうだね。ただだらだらと優しくすることだけが優しさじゃないもんね」「そういうことです」駅に着いた。「じゃあ、ありがと!今日はすっきりした。これからはあんまり悩まないでいけそうだよ」「それは良かったです。好きな方と、うまく行くといいですね」「うん」それじゃ、と言って、美佳は駅に走っていった。温人は、手を振って見送り、美佳の姿が見えなくなると、来た道をまた戻って行った。温人、遅いなあ。金田さんと、話し込んじゃってるのかしら。もう1時間にもなるのに・・・。寄り道でもしてるのかな?あんまり暗くなると、この辺だって危険なのよね。ひったくりなんかも出たというし。そう言えば、さっきも救急車の音が遠くでしてたわね。怖いな。温人め~、早く帰って来い!ピンポ~ン。玄関のチャイムが鳴った。温人かしら?玄関に行ってみると、「奥さんいるかい!?水田だけど」水田さん、とは近所の人だ。何だか慌てているみたいだ。「はいはい、ちょっと待ってください」 そう言ってドアを開けると・・・。「奥さん、大変だよ!駅の近くで、温人君が強盗に刺されて、今救急車で運ばれたんだ!」(つづく)
2004.08.03
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放課後。部活に顔を出し、すぐ帰ろうかと思ったが、後輩がちょっと練習を見てほしいというので、30分くらい付き合った。あー、温人君帰っちゃったかな・・・。急いで××駅のバス停に行くと・・・。あ、いた!よかった。温人君は、文庫本を読んでいた。何の本だろう?「温人くーん!」私がかけよると、「あ、どうも」「ごめんね!遅れちゃった」「いいえ、いいんですよ」本をカバンにしまおうとしたので、「何の本読んでたの?」「ああ、これですか?これはですね・・・」文庫の紙カバーをとって、表紙を見せてくれる。ある女性作家の、エッセイだった。「へー、女性作家のエッセイなんて読むんだ」「ええ。女性のエッセイを読むと、女性の気持ちがわかるような気がするので、たまに読むんです」「ふーん。女性の心理を知りたいの?」「まあ、僕は男ですからね。女の人はどういうときに悲しいと思ったりせつないと思ったりするんだろうか、というのは、頭の中でいくら考えた所で、わかるものじゃないのでね」「へー。すごいね」「すごくありませんよ。すごい人はきっと、頭の中でわかっちゃうでしょうから。さあ、家へ行きましょう」「うん」温人君の家は、××駅から5分くらいの所だった。けっこう、普通の家だ。もっと和風な感じかと思ったけれど。温人君は、「ただいま帰りました」と言うと、「さあ、どうぞ」と、私を先に玄関に入れてくれた。「あ、ありがと」「お帰り~!」廊下の奥から、温人君のお母さんらしき人が出てきた。かわいらしい感じのお母さんで、ちょっと年上のお姉さん、とも見える。私を見ると、微笑んで、「あら、ガールフレンド?」「いえ、違うんです」「お母さん、こちらは同じクラスの金田美佳さんです」「金田です。初めまして」私は頭を下げる。「初めまして。温人がいつもお世話になってます」お母さんも、頭を下げる。「私のほうこそ、いつもお世話になっています。今日も相談に乗ってもらうんです。無理言っちゃって」「あら、そうだったの。じゃあ、部屋に飲み物持っていくわ」「ありがとうございます、お母さん」「早く御部屋に連れてってあげなさい」「はい。じゃあ行きましょう」「はい。お邪魔します」私は玄関を上がり、温人君にスリッパを出してもらい、案内してもらう。「ここが僕の部屋です」「わあ」手作り家具だらけだ。「これ全部、温人君が作ったの?」「そうですよ。今端さんも、驚いていましたねえ」「そりゃ驚くよ。すごいね~」「いや、それほどでも」そういって、温人君は丸イスを勧めてくれた。「座りやすいね」「ありがとうございます。けっこう作るのが大変でした、それは」「そうでしょうね。ちょっと間違えるとすぐ転びそうになるもんね、丸イスって」「はーい、お茶が入ったわよ」お母さんが、紅茶とお菓子を持ってきてくれた。「ありがとうございます」「すみません」「じゃあ、ごゆっくりね」お母さんは、ドアを閉めて出て行った。私は紅茶を一口すすった。おいしい。「おいしいね」「それは良かった。紅茶好きですか?」「うん、けっこう好き。でも家じゃあんまり飲まないんだけどね」そう言って、私はちょっと笑った。―カップを受け皿に置き、「あのね、こんなこと人に相談するのって、いいのかわからないんだけどさ、誰かに聞いて欲しかったの。温人君ならいいかな、私の思っていること、受け入れてくれるかな、私を軽蔑しないでくれるかな、そう思ったから、相談しようと思ったんだけど」「僕は、軽蔑したりはしないですよ」「・・・温人君は、いま好きな子とかいる?」「好きな人、ですか。あいにく今は、心に思う方は、いないんです」「そう。じゃあ、今までにはいたでしょう?」「ええ、何人か」「それはもちろん、女の子だったよね?」「ええ、そうです」「あのね、・・・私は、自分が女だから、当然、男の子を好きになるべきだよね?」「そうですね」「でもね、私、男の子のことは、好きになれないの」「そうなんですか」「そう。私が好きになるのは、いつでも、女の子・・・。ねえ、これって変だよね?」「僕には、あいにく同性を好きになった経験はありませんが、変ということもないのではないですか」「そうかな」「ええ」「私はね、自分のことを、女っぽいとは思っていないの。それどころか、女という性に屈辱を感じることさえあるの」「女であることが嫌いですか」「まあ、嫌いね。けれどね、女の子を好きになる時の自分は、男の気持ちじゃないの。女の気持ちのままで、女の子を好きになっちゃうの」「なるほど」「自分が女というものを完全に嫌いで、男っぽいのなら自分でも納得がいくの。男っぽいから女の子を好きになるんだろうなって。でも、ふだん、自分の中の女というものに屈辱を感じているくせに、女の子が好きになる。そして自分も女になる。そういう自分て、どこにも居場所が無い感じ」「居場所がない?」「もしね、完全に自分が女で女を好きになるんだったら、レズよね?そうしたら、レズという地位が与えられる。あんまりいい地位じゃないけれど。そして自分が男の気持ちで女を好きになるのなら、それは私が性同一性障害なんだと思う。その地位が与えられる。でも、今の自分はどちらでもない。ましてや、普通じゃない。居場所が無いって、強く思う。私はどうあるべきなんだろう?って」「今、好きな人がいらっしゃるのですか?」「うん、3才年上の人がいてね、その人が好きなんだけど・・・」「気持ちは伝えられない?」「もちろん!そんなことできない。それに、この気持ちが、本当はなんなのだろう、って思うの。本当に好きなのか?それとも、女の性が足りない私の、憧れなのか・・・。いくら考えてもわからなくて、苦しいだけ」「それは、苦しいでしょうね。僕にはわかってあげることは出来ませんが」「ううん、いいのよ。温人君から見たら、私はちゃんと普通の女の子に見える?」「ええ、見えますよ」「本当に?」「ええ」「だとしたら、その女を否定してしまう私って、何者なのかな?」「金田さんは、男になりたいのですか?」「男になりたいわけじゃないの。ただ、女の性が嫌なだけ」「そうだとしたら、金田さんはやはり女性なんですよ」「そうかな?」(つづく)
2004.08.02
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私、金田美佳。温人君と、同じクラスで、今端江美の親友。江美が、昨日温人君の家へ陣中見舞いに行って来たというのをさっき聞いたの。いいな。私も行きたかったな。あ、別にね。私は温人君が好きって訳じゃあ、ないよ?まあ、人柄は好きだけどね。ちょっと聞いて欲しいなあ、って思うことがあったの。藤沢涼子さんを説得している時の温人君を見ていたら、私もあんなふうに言って欲しいと思っちゃったの。あ、でも私は別に自殺したいわけじゃ、ないよ?だけど、突き詰めて考えたら、そこへ行っちゃうかもしれないな、とは思うけど。私は部活があるから、昨日江美と温人君の家には行けなかったの。部活はソフトボール部に所属しているの。悩みなら、江美に言えばいいのにって思うでしょう?でも、江美に言える悩みではないの。いや、江美だけじゃなくて。誰にも言えない悩み。けれど、温人君になら言えそうな気がする。私を一切否定することなく。私の言うことをひとつひとつ丁寧に聞いてくれそうな気がする。今まで誰にも言えなかったことを。その頃、温人は、家で勉強をしていました。「温人♪ねえねえ、勉強なんかほっといてさあ、カラオケ行きましょう、カラオケ!」「お母さん、勉強なんかほっといて、とは何事ですか」「いいじゃ~ん、少しぐらい」「いけません。それに僕は、自宅謹慎中の身なんですよ?」「じゃあさ、じゃあさ、親孝行♪ねえ、親孝行しなきゃダメよね?」「親孝行は大切。でも、今は勉強が大切です!」「何よ、そのキッパリな態度」「ええ、キッパリ申し上げましたとおりです」「ふ~んだ、じゃあいいわよ!一人で行ってくるもん!温人、晩御飯の用意しといてよね!」そう言うと、温人の母親は家を出て行ってしまった。「全くもう、しょうがない人だなあ、お母さんは。でも、ああいうところがお母さんらしいのですが」美佳が、悩みを聞いて欲しい、と切実に思っていたころ、温人は母親とこんなくだらない会話をしていたのでありました。そして、次の週・・・。美佳が、駅を出て、一人で歩いていると・・・。前を行く、一人の男の子。あ、温人君だ!「温人君!」美佳が叫ぶと、温人は振り返り、「ああ、金田さん!お久しぶりです!おはようございます!」「おはよう!元気してた?」「もちろんです。僕はいつでも元気ですよ!」「あは、よかったね」そしてしばらく歩くと、「ねえ、温人君。今日放課後ヒマ?」「ええ、今日はヒマですけど、何か・・・」「あのね、温人君に聞いて欲しいことがあって・・・。でもこれ、誰にも内緒。江美にも内緒だよ」「今端さんにも内緒ですか。大変なことなのですか?」「大変ていうか・・・私の、悩みを聞いてもらいたいなって・・・」「悩み、ですね」「いい?迷惑じゃない?」「迷惑なんかじゃありません。大丈夫ですよ」「ありがとう!じゃあ、どこがいいかな」「じゃあ、僕の家はどうですか?」「温人君の家!?そんな、悪いよ・・・」「でも、あんまり人に見られたくも無いのでしょう?」「うん、そうなんだけれども・・・」「じゃあ、家にしましょう。家には母親もいるし、安心ですよ」「そう?でも、お母さんに聞かれちゃうのもいやだな・・・」「大丈夫。家の母親は聞かないで欲しいと言えば、席をはずしてくれますし。そういうところはしっかりとしている人ですから」「そうなんだ。でも、急にお邪魔して悪くないの?」「そんなことありません。大丈夫です」「じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」「じゃあそうしましょう。では、××駅のバス停で待ち合わせしましょうか。あそこなら、ここの生徒はほとんどいませんから」「わかった。じゃあ、今日は部活にちょっと顔出したら帰るから、なるべく早く行くね」「はい、お待ちしています」そこまで言うと、背後から、「おーい!!」という叫び声。「あ、江美の声」と、美佳が振り向くと、江美が走ってきた。もちろんガニ股。「おはよう、江美」「おっはー!江美。それとおひさ!温人」「先週はお見舞いいただきありがとうございました」「なんのなんの。でも私、帰ってから気がついたんだけど」「何をです?」「お見舞の品、何も持っていかなかったのよね・・・」「そんなこと、気にしないで下さい。僕にとっては、今端さんの笑顔がお見舞の品ですよ」「まあ、温人ったら、うまいんだから!」そう言って江美は、温人のことをポカポカと殴った。「江美、やめなよ。温人君いじめしてるみたいに見えるよ」「あら、それは困るわ。花も恥らう私が、いじめるなんて」「早く学校行かないと、遅れますよ」「温人が変なこと言うから!」「僕のせいですか?」「そう、温人のせいよ」「それは違いますよ」「違いません」美佳はそんなふたりと一緒に歩きながら、放課後のことを考えていた。(つづく)
2004.08.01
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