2009年06月21日
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ありえない。頭の中の携帯電話が鳴っている。

頭の中にあるこの携帯電話は私から離れない。
しかし、いつまでも電話を取らないわけにはいかない。
頭のイメージのなかにある私の手でその携帯電話をとった。そして頭の中で電話に問いかけてみた。
「あの・・・もしもし・・」
「あ!えっと・・・」
若い男の子の声だった。
頭の携帯電話から知らない人の声が聞こえてくる。

彼はそうつぶやいたが、私はそれどころではなかった。気が動転し電話を切ってしまった。
バスの中でこの音に気づいているのはどうやら私だけのようだ。
私は気持ちを落ち着かせるためバスを降りた。
そして外を歩いているとまた先ほどと同じ音が私の頭の中で響いた。
思わず転びそうになる。
私は無理やり落ち着きその携帯電話を手に取る。
「もしもし・・・」
「切れないでください!突然のことに驚いているだろうけど、いたずら電話じゃないから!」
先ほどの若い男の子の声と一緒だ。
「あのう・・今私頭の中にある携帯電話に話しかけてるんだけど・・・」
「僕も一緒だよ!頭の携帯電話に話しかけてる。」

「適当に数字を押したんだ。何回もやったけど繋がらなくて・・・コレで最後にしようと思ってかけたら君にかかったんだ。」
「一回目の時つい切ってごめんなさい・・・」
「いいよ。驚くのは当然だし、僕の携帯電話には当然リダイアル機能ついているから」

彼は水谷ショウヘイと名乗った。
私と同じように毎日頭の中で携帯電話のことを考えていたそうだ。

私以外にも携帯電話を思い描いて楽しむ人間がいることに驚いた。

「ごめんなさい。何だかいろいろなことがあってゆっくり考えたいの。電話切っていいですか?」
「うん。僕もそう思ってた。」

正直言うと久々に誰かと話せたので嬉しかった。
ショウヘイという人物について考えていると、彼は実在の人物ではないのではないかと思った。携帯電話と同様に私が頭の中に作り出してしまった虚構の人物ではないか。
きっと誰かと話したかった私が無意識のうちに人格を形成してしまったのかもしれない。
誰か他人の頭とつながったと考えるよりもそちらの方がよっぽど現実的だ。
きっと私は何かの病気なのだろう。そして改めて気づくことができた。私は教室で一人で居ても平気そうな顔をするがやはり心のどこかで一人は嫌だと感じているのだろう。

試しに私も頭の携帯電話でどこかにかけてみようと思った。
適当に数字を押していくがどこもつながらない。
1時間やってコレでダメだったら諦めようとしたその時呼び出し音が聞こえた。
どこかにつながったのだ。
「もしもし・・・」
女性の声だ。
「あのすいません突然電話してしまって・・・」
「いえ、いいの。どうせ暇だから。それよりあなたの名前は?」
「片瀬ユカコです」
「そう。ユカコさんって言うのね。私は山上ミホ。大学生。ねぇあなたずいぶん困惑しているようだけどまだ頭の携帯電話に慣れていないんじゃない?」
その通りだということと、さきほどショウヘイという人物から電話があったことを説明した。
「まぁだんだん慣れるわよ。安心して。」
山上さんはとても落ち着いていて私を安心させてくれる。
「私も最初そうだったからわかるけど、ユカコちゃん今そのショウヘイ君やわたしが、自分の作りだした人格なのではないかと疑っているでしょ?」
心の中を読まれたかと思った。
山上さんはその考えは間違いであるということと、それを証明する方法を教えてくれた。
さらにもうひとつ重要なことを教えてくれた。
「いい?よく聞いて。電話の向こうとこちら側では時間がずれている場合があるの。そちらは今何年 何月 何日なの?」
山上さんの問に答えた。どうやら私たちには半年のズレがあるらしい。
私のほうはいま冬で、山上さんは夏。

「電話をかけなおすたびに時間を確認しないといけないのでしょうか?」
「ズレは一定のまま変化することはないから大丈夫よ。たとえ電話が切られてもこちらが五分経てば向こうも同じように五分経つの」

この時間のずれがなぜおきるのかは山上さんにもわからないようだ。

「そろそろ私大学行くからひとまず切るね。またあなたと話したいの。気兼ねなく電話してきてね。リダイアル機能使えばいいから。」

山上さんとの電話が終了した。私とまた話をしたい、そう言われると心が躍るように嬉しかった。山上さんはとても落ち着いていて大人の女性を感じさせる。私とはかけ離れている。

しばらくするとショウヘイから電話があった。

「あれから少し考えてみたんだけど、君は僕の作り出した空想の人格なのかもしれない。」
私と全く同じことを考えていた。

「今何時?」
「僕の方は7時を指している」
「私の方は8時。」
どうやら私たちの間にも時間のズレがあるらしい。
先ほどの山上さんほどズレは大きくない。
電話の向こうの彼は私のいる時間からちょうど1時間前の人間だった。

「それじゃあ、僕たちがそれぞれ実在しているのだということを確かめるためにその山上さんって人が言っていた方法を試してみようじゃないか」

私たちは山上さんから教えてもらった方法でお互いが実在するのか、確かめることにした。





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最終更新日  2009年06月21日 19時35分05秒
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