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| 著者・編者 | 長山靖生=著 |
|---|---|
| 出版情報 | 河出書房新社 |
| 出版年月 | 2009年12月発行 |
先日、SF界の重鎮・小松左京さんが亡くなった。小松さんを偲んで、本書を手にした。幕末から昭和 40 年代に至るまで、日本の SF の変遷について紹介している。
著者によると、ペリー艦隊の来航に刺激され、「儒学者の巌垣月洲が安政 4(1857)年に書いたとされる『西征快心編』」(14 ページ)が最初の SF という。この本の主人公は「世界の秩序を回復させると、領土を拡張することなく自国に戻る」(16 ページ)という、儒学の思想に基づいた理想的な人物であった。
明治期に入ると、「尾崎行雄が「科学小説」の語を提示したのが明治 19(1886)年で」(84 ページ)、技術者出身の幸田露伴や、星新一の父で星製薬を興した星一が SF を書いている。
そして、「冒険小説界をリードすることになる押川春浪が『海底冒険奇譚 海底軍艦』を文武堂から刊行して本格的にデビューしたのは明治 33(1900)年 11 月」(110 ページ)になる。
大正期に入ると、ミステリー作家の江戸川乱歩が活躍するようになった。彼の門下に集まった一人、海野十三は現代の SF の直接の先祖とも言える存在である。晩年の海野が才能を認めたのが手塚治虫だった。
戦後になると、「星に続いて、『宇宙塵』の同人からは、小松左京、筒井康隆、豊田有恒、眉村卓、平井和正、光瀬龍、加納一朗、石川英輔、広瀬正などが次々とプロデビューしていく」(187 ページ)ことになる。
「昭和 31 年 7 月に『日本空飛ぶ円盤研究会』が発足した」(182 ページ)が、この中には作家の石原慎太郎(現東京都知事)や三島由紀夫が名を連ねていた。調べてみると、石原さんはネッシー探検隊を結成し隊長としてネス湖に行ったこともあるという。さらに、2007 年に政府が「UFO の存在は確認していない」という答弁書を出したことに対し、「私も見たいと思いますけどね」と答えている。
本書の最後に紹介されている『日本 SF シリーズ』が刊行された時期に生まれた私の少年時代は SF の黄金期だった。小松左京さんの『日本沈没』に恐怖し、星新一さんのブラックユーモアに笑った。筒井康隆、豊田有恒、平井和正、大伴昌司、野田昌宏‥‥こうした人たちの作品を図書館でむさぼるように読んだ。SF/空想科学小説といって馬鹿にしてはいけない。本書で紹介されているように、開国から今日まで、太平洋戦争という弾圧期はあったにせよ、SF は常に自由な上昇志向に支えられてきた。
近代詩や文学史という教科書的な話ではなく、自分に連なっている歴史を知ることができ、じつに興味深い内容であった。
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