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| 著者・編者 | 篠月しのぶ=著 |
|---|---|
| 出版情報 | KADOKAWA |
| 出版年月 | 2023年9月発行 |
統一暦1928年1月14日、連邦の戦略攻勢「 黎明
」を前にして帝国の東部方面軍司令部はパニックに陥っていた。通信部門の当直責任者である クレーマー
大佐のもとに、参謀本部の[エーリッヒ・フォン・レルゲンエーリッヒ・フォン・レルゲン大佐名義で想像もしない類いの命令が飛び込んできた。しかも、 ハンス・フォン・ゼートゥーア
大将の名前が併記されており、それは ゼートゥーア
が持っている使い捨て暗号で復号できてしまった。 クレーマー
大佐は、その命令書を ハーゼンクレファー
中将に送付した。 ハーゼンクレファー
は ゼートゥーア
が残した金庫を解錠すると、たしかに封緘された「 防衛計画第四号
」なるものが実在した。
それでも信じられない東部方面司令部は、若手少佐が サラマンダー戦闘団
の駐屯地へとモーターバイクで乗り込み確認しようとするが、応対した マテウス・ヨハン・ヴァイス
少佐は「 津波に対する唯一賢明なアプローチはご存じかな? 避難だ。安全なところへ、直ちに遅滞なく。後退あるのみ
」と断固たる口調で説明する。
ターニャ・フォン・デグレチャフ
一方、 ターニャ
のメモを携えて将校伝令として参謀本部へ急行した ヴォーレン・グランツ
中尉は、帝都防空司令部に誰何を受けるも、[アーデルハイト・フォン・シューゲル技師の助力で何とか ゼートゥーア
のもとに辿り着く。 ゼートゥーア
は、東部方面へ発令しようとしていた命令を全て取消し、 ターニャ
の独断専行を追認する。そして、畏るべき ゼートゥーア
は帝国全土から魔導師をかき集め、 ターニャ
に連邦の後方攪乱を命じたのだった。
1月20日、3個師団の魔導師たちが片道切符の輸送機に乗り込み、第二方面軍司令部、バルク大橋、連邦の鉄道の結節点であるノルク駅の3カ所のチョークポイントに空挺降下した。集められた魔導師達の練度は低く、途中で脱落する者も出て、師団の管制は ターニャ
の手に余った。そんなとき、「 ライン・コントロールより、全航空魔導部隊へ。懐かしい顔にも、新顔にも、ごきげんよう!
連邦軍第二方面軍司令部の篤志により、ライン・コントロールが同窓会の開幕をお伝えします」との通信が。かつてライン戦線でターニャ達を支えた古参の管制官が支援を買って出たのである。 ターニャ
たちは、「 次がないやけっぱちの明るさ」「次を捨てた、ある種の職業人の爽快さ
」をもって作戦に当たる。一方で、飲酒飛行制限の限定的な解除を法務担当士官に書面にしたためさせるターニャは、ホモ・エコノミクスとしての矜持を崩さない。
この一部始終を観測していた連合王国の ジョンおじさん
は、「帝国軍魔導師、恐るべし」と感じとり、試作段階にあった対魔導近接信管を組み込んだ榴弾砲を連邦に使わせたが、ターニャに察知され、すべてを廃棄し撤収せざるを得なかった。
帝国軍は生き残った。
大将は皇帝陛下に随行し東部戦線に降り立つと、 ターニャ
の前で、すっと頭を下げ、「よくぞ、あそこで独断専行してくれた。よくぞ、越権してくれた。そして、よくぞ、軍を救ってくれた」と礼を述べた。
そして、 ゼートゥーア
は言う。「すまないな、中佐。貴官には、随分と無理を頼んでいるが……戦後も含めてこき使うことになるだろう。多大な労を頼むことになる」と。
一方、イルドア王国のアライアンス軍の ガスマン
大将もまた、戦争の終わらせ方を考えていた。
ホモ・エコノミクスであり、どんな緊急事態においてもコンプライアンスを遵守するターニャは、しかして、独断専行で東部方面軍を戦略的撤退させることに成功する。
前巻で「常にプランBを実行に移す余力がなかった」と書いたが、ターニャやゼートゥーアの頭の中には確かにプランBは存在しており、かろうじてメモが残っていたことをターニャは利用する。加えて、使い捨て暗号という、現代でも使われる究極の認証方式を使って、ターニャは自軍に命令を信じさせることに成功し、かつ、巧妙に軍規違反を回避する。
列強はゼートゥーアが詐欺師だという認識で一致しているが、じつは、 ラインの悪魔
というコードネームしか知られていないターニャの方が、よほど詐欺師である。そして、 現代ビジネスにおいて、暗号や認証といったセキュリティ技術を巧みに使うことで、より巧妙な詐欺行為ができる可能性を、本書は臭わせている
。
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